第346話 ヤラしてくれるヴェータラとピロシキとレベル9贅沢ストロングと

「かなりあー、勇者ピロシキ食いてー」

 

 ピロシキねぇ。

 

「そういえば最近作ってないわね。カレーパンの方がカレー食べる機会多いからよく作ってたけど、じゃあちょっとピロシキ作ってみようか?」

「ほぉ! パン屋で購入したものを一度食べた事があるであるな! 殿下もお喜びになりそうな食べ物であった」

「日本風って感じになるけどいい?」

「良き良き! 勇者、日本の魔改造料理すきー!」

 

 もう完全に日本フリークの外国人みたいになってるわね。ピロシキってこれを使わなければならない! というルールはあんまりないのよね。まぁ、日本在住のロシア人の学友に聞いただけだから本当かわからないけど、要するに揚げパンの中にひき肉をメインに色んな具材が入っていればおけ! みたいな食べ物ね。

 

「一般的に日本風は春雨、ゆで卵、ひき肉、玉ねぎが入っていてミートソースみたいな味がマストね。これに合わせるならロシアビールとかがいいかしら?」

 

 そう、私はロシアビールを置いてあるところにあるお酒を見つけたのよね。

 

 ※殆ど事実を元にしています……お酒の買いすぎ飲み忘れには皆様気をつけましょう。

 

「9%の……第三のビール? 何これ……私、こんなの知らないわよ」

 

 それは異世界から紛れて来たかのような、サッポロの第三のビール。ゴールドスターのようなパッケージの魔物だったわ。

 私がまだ未成年時代にバズったストロング系のお酒が猛烈なシェアをしていた時代……サッポロは狂ったお酒を出していたのね。

 その名も……

 

「レベル9贅沢ストロング……頭悪そうなネーミングが当時のお酒感あるわねぇ」

「シュワシュワなり?」

「うっ……ストロング系であるか……」

「うん、随分前のお酒なんで味が変わってるかもしれないけど……二箱あるのよね? これ飲んでみる?」

 

 ※どうして48本をロング缶で買ったのか今となっては本当に覚えてないですが、もしかしたら税制度が変わるとかでとりあえず買ったのかもしれません。

 

「勇者、しゅわしゅわ好きー!」

「まぁ、寝かせると味がまろやかになると言うであるしな」

 

 昨今は日持ちしないと言われている日本酒を寝かして飲むのも流行ってるし……いざ尋常に飲みますか?

 と、その前にピロシキ作りね。

 

「パンは食パンを使いましょうか?」

 

 牛乳に浸して、具材を詰め込んで180度の油にインよ。

 

 ガチャリ……

 

「ミカンちゃん、見てきて」

「えぇええ! めんどい」

 

 と言いながらもミカンちゃんは「お、お前はヤラしてくれるヴェータラなりっ!」

 

 なんて? 今、ミカンちゃんなんか不穏な事言わなかったかしら? どんな人が来るのかと思ったら、爬虫類みたいな瞳をしたエキゾチックなお姉さん来たけど……えっ? このお姉さんがヤラしてくれるの?

 

 何を?

 

 でも、どう考えてもあっち系よね?

 

「おぉ! 不死者の……はいはい。ヤラしてくれる仕事を……大変であるなぁ!」

 

 もしかして大人な仕事をしてる人、来ちゃったの? 私は自家製ピロシキをお皿に乗せるとレベル9贅沢ストロングと一緒にリビングで移動よ。

 

「えっと、この部屋の家主の犬神金糸雀です」

「あー、アタシは、ヴェータラ。ヤラしてあげる仕事してっから、よかったら金糸雀も楽しんどく?」

「えっ? ヤラ……って本当に?」

「そっ! 殺せてあげてるの! アタシ不死身だから、冒険者とかモンスターとか殺しをした事がない連中に擬似的に殺しの感覚を掴んでもらうようにね」

「へぇ、へぇ、そうなんですねぇー。ははーん、理解できたぞ」

 

 ヤラせてくれる……✖️

 殺させてくれる……◎

 

 って事ね。

 

「そんな仕事があるんですね。大変ですねぇ」

「これも仕事だかんね。慣れたら問題ないよ。今日も二十人くらいにヤラれてきたから、めちゃくちゃ疲れたっつーの!」

「お疲れ様です。よければ今から晩酌なんですけどご一緒にどうですか?」

「マ? いきなりお邪魔しちゃったけど……」

「全然、お酒も売るほどあるので、気にせずに飲んでくださいね」

「えー、うーれーしーい! じゃあお言葉に甘えるぅ!」

 

 という事で全員の手元にレベル9贅沢ストロングが行き渡ると、プルトップを開ける。

 

 プシュ。

 

 香りは……あー、昔の第三のビール特有の香りと、当時水準のストロング系のアルコール臭がするわ。これが、当時の感じなのか品質が劣化してこうなったのか分からないわねぇ。

 

 ※当時と寸分狂いない香りと味でした。日本の技術すげーわ。

 

「それじゃあ、二十回死亡、お疲れ様でしたー! 乾杯」


 異世界も共通の乾杯! 

 

 んぐんぐん……きっつ……アルコールが、じゃなくて第三のビール黎明期に流行りのストロング系のお酒をプラスしたモンスターみたいなお酒ね。これは回るわ。

 

「ぷひゃああああ! うみゃああ!」

 

 ミカンちゃんは安定と安心の美味しい発言ね。確かに、やたら強炭酸なのがアルコール度数の高さを隠している感あって飲みやすいけど、ガツンとくるわ。これの開発者の方は、ストロング系が危険視されてストロング離れがやってくるのを読めなかったのかしら。

 

 本当に、バカね!

 

 そして、尊いわ。多分、販売終了商品という事はそういう事なんでしょうけど、こういう不完全で、されど冒険する心を捨てなかった商品というものは嫌いじゃないわ。

 

「はー! おいしー、お代わりいい?」

「あー、はいはい! 何杯でもどうぞ」

「勇者もお代わりなり! あとウォッカを所望せり!」

 

 まさか、ミカンちゃん……かつて第三のビールがまずいと言われていた時、独特のアルコール臭を消す為にスミノフウォッカとかを混ぜて消していたとか……兄貴が言ってたけどそれをするつもり? そもそも9%のお酒にウォッカ入れたらとんでもない度数になるんだけど。

 

「もしかして、ブーストするの?」

「ブーストせり!」

 

 ブーストとは私たちの中で度数をアップさせる事ね。ほろ酔いが美味しいけどお酒感足りないなってなったらスカイウォッカとか足して美味しい9%酎ハイを作ったりするの。

 

「じゃ、じゃあせっかく日本版ロシアビール的な物があるのでピロシキも食べましょうか? ロシアビール、戦争してるから全然入ってこないのよね。私の部屋でもロシアビールのストックが20本くらいね」

 

 お皿に山積みに置いてあるピロシキを、いざ実食!

 

 さく、ぱく、もしゃ! っと私たちはしばらく小気味よい音を立てながらピロシキを食べるわ。ロシア系の料理って基本お子様大好きの味なのよね。要するに日本人の口にベストマッチよ。

 

「おぉ、ゆで卵を半分に割ってあり、味がなじむであるなー!」

「何これ、ちょーうまい!」

「んまー! んまー! これ、つよつよぉ! 甘辛で、んまい! ブースト麦酒ごきゅごきゅなりぃ!」

 

 さすがはミカンちゃんね。推定度数15度くらいになってるレベル9贅沢ストロングをがぶ飲みしてるわ。ロング缶4本目。私とヴェータラさんが3本。デュラさんはストロング系に弱いのでようやく2本目ね。

 

「それにしても今のストロングと違って、回るの早いわねこれ」

 

 ※今のストロング酎ハイはだいぶマシです。この頃のストロング系は2本で変な酔い方しますね。当方6缶で千鳥足になりました。

 

「金糸雀、ウェイウェイウェーイ!」

「ヴァータラさん、ウェーイ! デュラさん、ウェーイ!」

「おぉ、ウェーイであるぞぉ! 勇者ウェーイ!」

「ウェイウェーイなりっ!」

 

 楽しい! 

 

 自家製ピロシキも美味しいし、パーティー楽しいわ。でもね。私は知ってるの。こんな楽しい時間は長くは続かない事。

 

「金糸雀さぁー、今の楽しみが終わるんじゃね? とかつまんねー事考えてね?」

「まぁ、私の部屋って特殊で女神の人とか、神様より長く生きてるエルフとか来るんですけどね、別にいいんですけどね……正直、恥ずかしくて他の人には見せたくないなーみたいな?」

 

 なんだろう。ニケ様とセラさんがいつの間にか私の身内みたいになってるんですけど。

 

「あのさぁ、金糸雀さぁ。アタシ、ヴェータラなんだぜぇ? ヤラせてあげるだけがアタシじゃないんだなぁ、これが」

「えっ?」

 

 私はヴェータラさんの事を亞人か何かだと思っていたのよね。実はモンスターと神様の間くらいにいる人で割と邪悪系の存在だったみたいね。

 

 でも……

 

「アタシをこんなにしっかり祀ってくれるとか、金糸雀達マジアリ寄りのありなんだけど! 今、三人が願ってる事、叶えてやんよ!」

 

 私たちが願っている事。

 

 それは……

 

 ガチャリ。

 

「じゃあ、アタシは帰るわ! みんなずっと友だぜ! じゃあな」

「うおー! いかないで欲しいと願えり!」

「うむ、これから現れる連中の抑止力として……」

 

 ヴェータラさんはウィンクをして帰っていくわ。そして代わりに……

 

「金糸雀、遊びにきたが良いか?」

「金糸雀様、お久しぶりです!」

 

 逃げ出そうとしていたミカンちゃんの足が止まり、私たちに笑顔が咲いたわ。ドラゴンのレヴィアタンさんとその従者の狼女のルー・ガルーさんが遊びにきてくれた。

 なるほどねぇ。

 私は急いでピロシキを追加で揚げてパーティー再開よ! と思った時。

 

 ガチャリと再び扉の開いた音を遠くの玄関に聞いたわ。

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