第317話 イアソーンとメキシカンサラダラップとアサヒスーパードライスマート缶
新商品が届いたんだけど、何この今どきな形状のビール。私は、明らかにアサヒ・スーパードライと書かれた細長いモンスターエナジーのようなビール缶を持ちながら睨めっこしていたわ。
「何を神妙な顔をしているであるか? スタイリッシュで良いではないか!」
「勇者、この缶の方が可愛くて好きかもー!」
待って! 待って待って! 私は世界一美味しいビールがアサヒスーパードライだとは思った事はないの。普通に美味しいけど、刺身と食べる事を目的に作られた日本独自のビールなわけで、その一点に関しては他のビールの追随を許さない事は認めるわ。それに、アサヒ・スーパードライの銀色の缶。あれは従来のビールの缶のイメージを定着させた歴史的な物でもあると思う。当時は銀色のみの缶なんてと社内でも賛否両論があった中、先鋭的な物をと……あー、そういう事ね。
「このスマート缶。若い年代にビールを買って欲しいから、こんなジュースみたいな缶を出しちゃったんだ……思えば3.5度のスーパードライのライトを出して若い俳優さんをCMに使ったり、アサヒの宣伝力における企業努力は凄いわね」
「ビールに対する金糸雀殿の熱意を感じるであるな」
「かなりあ、くっそキモい時あり」
いやいや、今回は私も経営や経済を学んでいる学生としてマーケ的にどうなんだろうなって本気で思っただけなんだから! 他のメーカーがしない事をアサヒは進んで行うから生ジョッキ缶も生まれたわけだし。生ジョッキ缶なんて飲んだ後に工作※がしやすいという利点もあるらしいじゃない。
※アルコールストーブがめちゃくちゃ簡単に作れます。興味ある方は挑戦してみてください。
「今日はアサヒ麦酒のめり?」
「必然的にそうね。見せてもらおうじゃない! アサヒ・スーパードライの新製品の実力とやらをね!」
「おぉ! 金糸雀殿がキャスバル兄さんのようである」
「かなりあ、カテジナさんの方が似てり」
誰よ? まぁ、そんな事はどうでもいいわ。生ビールを飲むとなると、オツマミはほぼなんでも合うので選ぶ必要性がないわね。先日コストコで購入した新製品を今日のお昼ご飯にしようと思ってたので、これでいいか。
「メキシカンサラダラップと、ドリトスのナチョチーズを付け合わせにしようか?」
メキシコ料理ってメキシコに行った事ないけど海外の食べ物の中で圧倒的に日本人の口に合うのよね。アメリカのニューメキシコ料理しかり香辛料、野菜、炭水化物、タンパク質をいっぺんに取れるところがワンプレート文化の日本とあってるのかしら?
「勇者、ブリトーすきー!」
「しかし、ブリトー、ラップサンド、タコスの違いとはなんであろうか?」
「ラップサンドは持ち運びしやすいようにした物でケンタッキーのツイスターですね。なのでブリトーもタコスも形状によってはラップサンドです。タコスはコーンのトルティーヤでブリトーは小麦粉のトルティーヤで作った料理ですよ」
「おぉ! 金糸雀殿博識であるな」
「いえいえ、二人とも辛いのはいけるから追加でタバスコも用意しておきますね。巷では激辛流行ってますけど、本当に美味しいさを感じられる辛さの最大はタバスコまでですね。それ以上は味音痴の味覚障害認定されてるみたいですよ」
出来合いは準備楽でいいわね。メキシカンサラダラップとドリトスの情熱ナチョチーズをお皿に添えて、アサヒスーパードライのスリム缶を用意。
ガチャリ。
あら、潮の香り……それも日本の磯の感じじゃなくて、沖縄の離島とか海外の観光地の海の感じね。
「ここはどこだろう?」
玄関に行くと、少し疲れた感じの青年の姿ね。普通の欧米人って感じで栗毛に少し良いところの洋服を着てるけどとりあえず危険性はなさそうなので、ご挨拶。
「こんにちは、私は犬神金糸雀。ここの家の家主です」
「ええっと、自分はイアーソン。とある船団の船長です。嵐にあって舵取りしてたら気がつくと扉の前で開けたらここに、とりあえず助かったぁ」
あらあら海上遭難なのね。急死に一生系の人来ちゃったわね。とりあえず、お腹空いているだろうし、
「今から食事と一杯やろうと思ってたんですけど、ご一緒にどうですか?」
「いんですか? 助かります」
船長のイアーソンさん、なんか凄い腰低いわね。私がイアーソンさんを連れて行くと、ミカンちゃんとデュラさんが……
「呪われてり」
「うむ、魔女の呪いであるな。可哀想に」
「そうなんですよー! くっそヤバい魔女に呪われててー!」
「イアーソンさんの呪いを解けたりできるの?」
「無理ー! 魔女の呪いくっそやばい」
「うむぅ、呪うのは専門であるが、呪いを解くのは我も明るくないであるな」
がっかりしているイアーソンさんに、私はメキシカンサラダラップとアサヒスーパードライのスマート缶を差し出した。
「辛い事は飲んで忘れましょう。乾杯」
最初は缶の中にビールがある事に驚愕していたけど、イアーソンさん、ごきゅっと飲んで。
「うんめぇええええ! 今まで嫌々飲んでたのに。こんな美味いビール初めてですよ! それもこんな冷えてるの。最高ぅ! ふぅー!」
あー、そっか。昔の航海している人は水が悪くなるから腐りにくいビールを樽に入れて常飲してたのよね。でもそのビールも度数が低いから結構腐ってたのよね。ラム酒が出来上がるまでは航海での死亡は衛生面の悪さだったとか聞いた事あるわ。
「うわー! このパンと新鮮な野菜! 何年ぶりだろー! いただきまーす! うまーい! かっら! えぇ? こんな高級なの食べていいの?」
「いいんですよー。お代わりもありますよー」
そっかそっかー、日本以外って香辛料って同じ重さの金と取引されていた時代があったのよね。日本はその辺に自生している香辛料を使う事が多かったから、日本にやってきた海外の船団はとにかく香辛料買って帰ったとか。
「ブリトぉ、うんみゃあああああ! タバスコ超かけりぃ! からウマなりぃ!」
ミカンちゃんがドバドバタバスコをかけて食べるので、イアーソンさんが顔を真っ青に染めてるわ。
「勇者姉さん、流石にそれは……贅沢がすぎませんか?」
「そうなり?」
「まぁ、普通じゃないけど、贅沢って程でもないですよ。もしよければストックあるんで、イアーソンさんも一個タバスコのキングサイズ持って帰りますか?」
「い、いいんですか? こんなの島買えますよ?」
「あはは、昔は大げさじゃなかったんですよね」
1ガロンのタバスコを包んでイアーソンさんにお土産にしてあげたわ。
「はぁあああ、最高の航海でお土産もお宝なのに、国に帰ると魔女どもが……どうしたもんかなー」
「そういえば、私たち、大魔女の弟子という事になってるわよね?」
※25話
「おぉ! 大魔女ロスウェルであるな!」
「勇者、弟子になったお覚えなし……」
「魔女の……弟子?」
恐怖した目で私たちのことを見るイアーソンさん。ロスウェルさんの人柄を説明し、安心したようで「そんな魔女もいるんですね」と寂しそうな顔をしてるわ。でもまぁ、悪い魔女だってそりゃいるわよね。
そんな時、救世主がやってくるとは思いもしなかったの。
「ただいまー! 金糸雀ちゃーん! お帰りなさいはまだですか?」
ミカンちゃんは「げっ!」という言葉と共に姿を眩まして、デュラさんは疲れた顔で一口アサヒスーパードライのスリム缶を飲んで、ニケ様を待っていると。
「おや、貴方は確か?」
「まさか……女神様? 私です! アルゴー船団。船長、イアーソンです!」
知り合いだったのね。ニケ様はウチで無銭飲食するつもりだったんでしょうけど、数少ないニケ様を信仰してくれる人の頼みを断れず。
「わっ、かりましたー! 私の金糸雀ちゃんの家での至福のひと時を邪魔する魔女はいかなる理由があっても撃滅しましょう! 金糸雀ちゃん、帰ってきたらそれ、食べますのでラップをして残しておいてくださいね! もちろん、お酒もっ!」
「あー、はいはい。いってらっしゃい」
古代ギリシャにおいて、戦神アテナの随身女神ニケのネームバリューは偉大なのよね。でも私の家にくるニケ様は異世界生まれのニケ様なので、本当に地球史のニケ様かは分からないの。とりあえず地上げ屋みたいにアテナさんの名前を使って魔女達をひれ伏せさせて反抗する魔女にはニケ様の神様ならではの超パワーで捩じ伏せて、魔女さん達にも言い分があったろうに、早くウチに来て無銭飲食したいからって適当な仕事をして戻ってきちゃったから。
人間と魔女との確執だけが大きくなって、泥沼の戦乱時代に突入。ドーリア人(旧スパルタ)がミケーネ文明を破壊した理由づけが、ニケ様の適当な仕事の結果だなんて、私は知る由もなかったわ。
そしてそんなスパルタもなんやかんやあって、再びニケ様の適当な仕事で滅ぶ事になるのよね。
人間同士が争っていると、ニケ様が介入してくるわけで、仲良くしなければ文明が勝利の女神によって勝利者なんていないという事をわからされるのかもしれないわね。今の地球もいろんなところで争いが起きてるけど、ニケ様が介入しないように、仲良く手を取り合って未来を作っていきたいと私は心から思うわ。
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