第278話 未来人とかきたね(和風カレー)と浅草パンチと
前回のあらすじ、No.1キャバ嬢みたいな子がやってきてなんだか誰かに似ている可愛い子だなと思ったらなんと私の未来の娘というお話だったのよね。これは間違いなく私はイケメンとゴールインしたと見て間違いないわ。
「パパは……その禁則事項で言えないんだよねー! でもママに会えてよかった! ママは異世界の人と関わりすぎて、時間や空間、過去、未来、現在、他世界線まで変えてしまった罪で未来だと投獄されちゃうの!」
えっ! そんなの緊急事態じゃない。それを可愛い九重葛ちゃんは助けに来たってわけね。
「金糸雀、これおかしくね? と勇者は問題提起せり!」
「えっ? どうしたのミカンちゃん?」
「ここ、金糸雀の世界じゃなし、その部屋に金糸雀の未来の娘が来れり? クソ女神やレヴィアタンとかも来てなし」
そういえばここ、私の部屋じゃないわ。というか、本来この部屋に未来の子供が来るとすれば天鳥さんか、その姉貴さんの子供が来ないとおかしいわよね?
「ちょ、ママ! この人、勇者ミカンでしょ? ちょーヤバいって! この人のせいでママ大罪人になるし」
「勇者ディスられしこと不快の極みなりけり」
ミカンちゃんと九重葛ちゃん、視線がバトってるわ。でも確かにミカンちゃんの言っている事は一理あるわね。私はイケメンの未来の旦那の事で頭が一杯で気にしなかったけど、
「九重葛ちゃん、世界線が違うんだけど、どうして私のところに?」
「……うっ! それは、えっと! そのね! あのね! 禁則事項なの」
目が泳いでこれみよがしに嘘ついている子の反応ね。都合悪い事は全部禁則事項って言ってないかしら? という事はこの子、犬神九重葛ことブーゲンビリアちゃんは犬神家の人間ではないという可能性が出てきたわね。まぁ、とりあえず。
「お話はお酒でも飲みながら話しましょうか、ミカンちゃん、何かオツマミある?」
「かきたねあれり」
「わー! 私、ママと一緒にお酒飲めるの夢だったのー!
可愛い事を言ってくれるブーゲンビリアちゃんが生粋の嘘つきにしか見えないのは私の心が濁っているからかしら
かきたねシリーズの和風カレー味ね。これを容器にザラザラと入れて、飲み物はそうね。浅草パンチが冷蔵庫にあるので、これでいいわね。最近トリスバーシリーズとか、今回は神谷バーシリーズとか、シリーズもの多くなってきたわね。
「わわっ! 神谷バーってあの上級国民御用達の神谷バーですか?」
大衆客最後の良心の上野神谷バーが上級国民御用達? 逆に本当に未来からきた子かと思っちゃうわね。
※東京観光時には一度立ち寄ってみてください。お酒飲めなくてもフードも昔なつかしのレストランみたいです。
「浅草パンチなり? しゅわしゅわ?」
「そうね。炭酸のお酒よ」
「良き! これにて乾杯なりぃ!」
「勇者ミカン! 地球と異世界の最終戦争を始めた根本、ママから離れて欲しいんだけど!」
「まぁまぁ、このお酒はジョッキで飲むのがおすすめだから乾杯しましょ」
私はジョッキを掲げてカンパーイと二人に言ってみる。ミカンちゃんは満面の笑顔で「乾杯なりぃ!」と、九重葛ちゃんは、少し怪訝な表情で「乾杯」とジョッキの中を飲み、
「かー! 浅草パンチの再現度やばっ!」
という私に対して、
「うにゃ? ん? んま? ん」
「なんだろこれ、不味くないけど、謎の味」
そりゃそうよ。電気ブラン出すお店のお酒なのよ。これもまたハーブ感満載で別名をハチブドウパンチ。ミカンちゃんがゲシュタルト崩壊している中、電気ブランに比べて3%という優しい度数なので、私は二杯目をいただきます。
「かきたね。和風カレー味んまっ!」
私はポリポリとかきたねシリーズの和風カレーをつまみながら、んぐんぐと浅草パンチで喉を鳴らす。炭酸なのに美味しいのか未だ判断がつかないミカンちゃんはチビチビと飲みながら「んみゃ? んん?」と疑問符を頭に次々に並べてるわ。
さて、さてさて、ブーゲンビリアちゃん。貴女を見定めさせてもらおうかしら? 犬神家の一族なら、貴女は……
「ぷはー! 慣れるとこれ美味しいね! ママ! お代わりいい?」
この飲みっぷり、あのキツい目つき、そして親の仇がいるのに飲酒を優先するこの姿勢、多分この娘。犬神家の血を感じるわ。
「ブーゲンビリアちゃん、いくつか聞いてもいい?」
「なになに? ママ!」
「うーん、同い年か年上の女の子にママって言われるの、そういうプレイみたいね。じゃなくて、未来の私は捕まってるのよね? ブーゲンビリアちゃんはどうして自由に行動できてるの?」
また禁則事項って言われるかもしれないけど、私はブーゲンビリアちゃんの言葉を待ったわ。どう切り返してくるのかしら?
「これをみて欲しいんだけど」
と言ってブーゲンビリアちゃんが見せてくれたのは首元、そこには黒い首輪。それは多分、囚人とかに付けられる物のように見えるわね。
「私もママの娘だから、時空管理組合に準犯罪者として捕えられてるの。で、ママの身の潔白をはらす為にこうして過去のそれも未来がめちゃくちゃになった世界線にやってきたんだ。ママは、その勇者ミカンたちの口車に乗せられて別の世界線で勝利の女神を殺害してしまうの」
ヴィクトリーアさん? あはは! 死んじゃうの? そんなバカな、腐っても神様だからミカンちゃんでも殺せないでしょ。凄い毒盛っても死なないのに。
「待って待って、ブーゲンビリアちゃん、私とミカンちゃんがこの世界線にやってきたのは、私の世界線にいる同じマンションのマッドサイエンティスト、アン博士が私の部屋の電子レンジ改造した事よ」
いつの間にか三本目の浅草パンチを飲んでいるブーゲンビリアちゃんは神妙な顔で、ミカンちゃんを見つめる。
「まさか、ドクタージャナイ?」
「誰それ?」
「アン・ゼーンジャナイ博士。人類史最高にして最悪の神の頭脳を持つ科学者。私の時代からタイムマシーンを作って逃亡した最高指名手配」
あー、あの人がこっちの世界線にいない理由が分かったわ。というか、もう驚きもしないのは私が犬神家の人間だからなのか、毎晩やってくる異界の住人たちの関わりの賜物なのか?
「アン博士の作る物は最初から安全じゃないので名前少し隠されても今更感あるわね。で、ミカンちゃんは未来で何してるの?」
「うみゃ? これ! うみゃあああ! 金糸雀お代わりなりけりぃ!」
あら、ついに浅草パンチの美味しさに慣れたわね。
「今、ようやく全ての点が繋がったよ。勇者率いる、異世界からの侵略者達はママを助ける為に魔王軍、神界軍、ドラゴンの軍勢、宇宙連邦軍、それに勇者パーティーが大暴れしてたんだ。最高指名手配犯、勇者ミカン・オレンジーヌ。そして大悪魔デュラハン。そして接触禁忌特殊神災。女神ニケと古代のエルフ。セラ」
あー、デュラさんとミカンちゃん。それにあの二人も私の為にえらい事になってるのね。ちょっとグッとくるじゃない。
「特にニケとセラは地球の酒屋やリカーショップに多大な被害を与えてるの」
半分前言撤回ね。
本当に災害というか、海外の暴動起こす人みたいな事してるじゃない。ミカンちゃんはかきたねを鷲掴みにしてバリバリと食べると、
「未来の勇者は帰る場所を奪われり? 勇者は戦う事嫌いなりけり。されど、金糸雀奪われしは、如何なる邪智暴虐に対しても叛逆せり!」
凄い嬉しんだけど、嬉しいんだけどね。ミカンちゃん、自分の世界救う仕事ボイコットしてるのよね。てゆーか、未来の地球大丈夫かしら? ミカンちゃんでも割と災害級の力持ってるのに、今まで来た人から、宇宙人の侵略者の人とかまでやってきてるんでしょ?
「地球、死の星になってたりしない? ポリポリ」
私はかきたねを食べて、浅草パンチを飲みながら、世間話を聞くように未来の地球の危機について尋ねてみたわ。
「異世界からの侵略は凄まじいけど、地球だって負けてないんだよ。バランスブレイカー先生(※104話登場)とかファイナルエージェント(※162話登場)とか、職業魔法使い(※42話登場)とかが筆頭に頑張ってくれていてなんとかイーブンかな」
あぁ、超越者達ね。なるほど、でも私が飲んだ人達が争う未来なんて、あってほしく無いわね。
「ミカンちゃん、ブーゲンビリアちゃんの首輪取ってくれる?」
「良き!」
「これは外せばこの周辺全てを巻き込んで爆発する爆弾だから! 本当はママと共にこれで心中する為に私はこの時間軸にやってきたの」
えっ? それって、ブーゲンビリアちゃん人間爆弾じゃない。あー、未来が拗れた原因である私諸共爆殺する為にね。へぇ!
「まさか最後の一杯が浅草パンチになるとは思わなかったわね」
ミカンちゃんが首輪を剥ぎ取り、爆発が起きると思ったその時。私たちの前に、いつ出ようか迷っていたヴィクトリーアさんの姿。
「これはとんでもない質量だな。人間如きが神をも殺す物を作り出すとは……金糸雀、お前と飲む酒は美味かったぞ。バイバイ、みんな」
セルゲーム終盤の孫悟空みたいなノリでヴィクトリーアさんは首輪型爆弾を持って消えたわ。
「そんな、ママ! この世界の女神が死んだのって……私? 私のせいなのかな?」
「別にアナザークソ女神が死んでも誰も困らないかもー」
ミカンちゃん言い方。
私は少し腑に落ちないのよね。あの程度で女神って死ぬのかしら? これあれじゃない? 私たちに悲しんでほしいムーブでどっかで隠れてるんじゃない?
という事で、一芝居。
「ブーゲンビリアちゃん、きっとヴィクトリーアさんは勝利者なんていない無意味な戦争に警鐘を鳴らす為にご自身を犠牲にしたんじゃ無いかな? もう会えなくなる事は私もとーっても悲しいけど、涙がちょちょぎれそうだけど」
「ママぁー! ママー!」
ほら来た。
のこのこと玄関から普通に入ってくるヴィクトリーアさん、少し焦げてるけど、無傷っぽいわね。
「私がいない世界でも人間は清く正しくやっていけるか静かに去るつもりだったが、そこまで金糸雀が私に依存していたとなると戻ってくる他あるまいな」
あ! 全て繋がった。
これあれだわ。未来の戦争、ヴィクトリーアさんの死んだフリで起きてる。という事でヴィクトリーアさんが死んでないという事実が確定したんだけど。
「ママ! 戦争が終結したって今通信が入ったよ! 凄いママ! 戦争を終わらせちゃった!」
「あれよ、母は強しよ!」
ひとしきり私は私の娘らしいブーゲンビリアちゃんを抱きしめて、そして自分の時間軸に帰っていくブーゲンビリアちゃんを母親らしい表情で見送って、ヴィクトリーアさんに浅草パンチとかきたねを与えながら、一つだけ解決しなかった事に思いを馳せていたわ。
「果たして私の旦那ってどんな人だったんだろう。いや、多分。いや、間違いなくイケメンの筈なんだけど」
未来、クッソ楽しみね。
「金糸雀、さっきいた娘。あれはお前とは違う別世界線の犬神金糸雀の娘っぽいな。ふふ、私はこれでも未来視ができるんだ。凄いだろう? だからお前の未来はまだ何も分からない。よかったな!」
は? 何言ってくれちゃってるの? イケメンとゴールインする最高の未来を楽しみにしてたのに、本当にこの人たち勝利の女神なのかしら?
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