第29話 Bランク冒険者と漬物ステーキと淡麗グリーンラベルと
トントントントン!
本日は白菜の漬物を食べようと思います。どこかのお土産? 名物? それともスーパーで買ってきたお漬物?
いいえ、自家製です。
白菜丸々一個を使ったお漬物で、犬神家はこれが基本常備されているの。カレーライスの時も、揚げ物の時も、お刺身の時も白菜の漬物が私の食卓を彩ってくれました。
作り方は至って簡単です。
白菜、塩、鷹の爪、ジップロックです。まず白菜を綺麗に洗い水気を取ります。そして一枚一枚の葉っぱの中に塩を盛り込んでいきます。少なすぎるより多すぎる方がいいです。結局塩ぬきをするので腐らせない事を念頭に美味しくなーれ! 美味しくなーれ! 萌え萌えキュン! と塩を練り込みます。
この様子をミカンちゃんに見られて鼻で笑われ、デュラさんは私の世界の正当な呪文(ごめんなさい。以前私が嘘をつきました)だとミカンちゃんに力説したりしましたが、塩を盛り込んだ後は、ザクザクとジップロックに入る大きさに切って四袋くらいかしら? に分けて鷹の爪を輪切りに切って一袋あたり十本くらい入れていきます。
これも辛ければ辛い方がいいです。味は塩ぬきでいくらでも薄くできるので腐らせない事!
これが一番大事。
ジップロックは余裕を持たせて大きい物を使います。何故なら凄い水が出てくるからです。それを数日冷蔵庫の暗所で寝かせておけば完成です。
最強のおつまみ、白菜の漬物。
「野菜の漬物! うまい! ご飯が余裕で三杯食べられる!」
「うむ。ただの塩づけ野菜ではなく、なんとも瑞々しく、金糸雀殿の賢者スキルには驚かされる」
賢者スキルというか、ネットのググり能力ね。まぁ、この白菜の漬物は我が家の作り方だけど、普通にお漬物を食べて喜んでいる二人に私はある料理を食べさせてみたくなったの。
それは曰く、岐阜県の郷土料理。曰く、ソウルフード。話には聞いていたけど、半信半疑で今まで手をつけなかった謎グルメ。
漬物ステーキを……
「誰かいないのか? おや……」
そこにはロングブレードを持った好青年。リュックを背負っていて、登山やキャンプにでも行く感じなのかしら?
「こんにちは! この部屋の家主の犬神金糸雀です! あなたは? あー、ここはなんか別世界の人が私の世界、というか部屋に迷い込んでくるらしくて、このように、勇者とか、デュラハンとか来るんですよね」
と、私も慣れたもので二人を紹介。
「勇者だ! 冒険者」
「うむ、紹介に預かった悪魔の侯爵デュラハンである。冒険者」
「勇者に、デュラハン? どういう事だ? 俺はシグ。このロングソードを使った前衛。まぁ自慢じゃないがBランクだ!」
「なんだ雑魚か、ちなみに勇者はSSSランク冒険者」
「うむ雑魚であるな。あまり調子に乗って高ランクダンジョンに潜らぬことだな」
「……う」
「二人ともディスらないで! 私も聞きたい事あるんだから」
冒険者! 出たわね。いまいちどんな職業なのか謎の職業。ラノベとかでもギルドで請け負って生計を立てているというけどいまいち深堀されていないその日暮らし。これはチャンスね。
「あの、冒険者ってどうやって生活しているんですか?」
「えっと、どうやってとは?」
「一回の仕事で何日くらい食べていけるんですか?」
「物にもよるな。街の近くにいるモンスターの退治とかだったら数日から多くて一週間くらい。魔王軍の討伐などの特殊クエストなら数ヶ月から数年食べていけるだけ稼げる時もある」
「へぇ! それってお金はどこから支払われるんですか? というかその原資はどこから出てるんでしょう? そもそも被害が出た際の補填とか」
私が興奮して話を聞こうとしている時に、ミカンちゃんが服を引っ張り、
「そういうのは魔法で大体なんとかなる。かなりあが不明に思うところは大体魔法。そんな事よりお腹空いた!」
「そんなご都合主義なの……まぁそれもそうね。シグさんお酒は飲めますか? 本日は健康を考えてこちらを用意しました! 淡麗グリーンラベルです! 日本の法律上は発泡酒という名前ですが、皆さん的にいえば麦酒ですね」
麦酒という名前を聞いてシグさんは笑いだす。
腰に手を当てて、
「ガハハハ! これでもギルドの酒場じゃ誰にも飲み負けた事ねーんだよな! もちろん麦酒は大好きだぜぇ!」
「それは頼もしい!」
「うむ、飲み明かそうではないか! 冒険者シグよ」
あはは、飲み過ぎたらカラダ労わる系のお酒でも意味ないんだけどね。
サクッと漬物ステーキを作るわよ。溶き卵を解いてバターを引いたフライパンにざく切りした白菜の漬物を炒め醤油で味付けした漬物に溶き卵を流し込み、削り節をかけると、十分少々で完成よ。
「はい、出来上がり。七草粥は電子レンジで温めるだけの出来合いだけど、シメに用意しますねー! 本日は休肝日メニューにしてみました!」
という事で、グラスに淡麗グリーンラベルを注いでみんなに回すと、いつもと変わらぬ。
「「「「乾杯!」」」」
「ぷへぇーー! 淡麗もおいしくなったのよー! 昔は枝豆みたいな味がしてたのに、今は十分ビールなんだから!」
「なんかまるい味だけど、んまい!」
「うむ、これはこれでありであるな」
流石にプレミアムビールとか色々飲んできた二人は舌も肥えてきたみたいだけど、シグさんは、
「何言ってんだ二人とも! こりゃ相当な麦酒だぜ! こんな美味い酒、まずギルドじゃ飲めねーよ!」
「あはは、それは良かったです。そして本日のおつまみ、漬物ステーキです! どうぞどうぞ!」
七味をかけるとおつまみ感アップらしいので、恐る恐る箸を伸ばす。味の方は、なんだろう。不思議な野菜炒めのような。
ステーキ感はないけど、これはいけるわね。
「むしゃむしゃ! むっ、これはご飯が食べたくなる味! 麦酒があう! まさかお漬物を焼くとこんなに美味いとは驚き!」
冒険者シグさんは……
「カナリアさん。俺、今そんな手持ちないんだけどこんな高そうな料理食べ方も分からないし……」
「シグ殿。普通に食べれば良い。そして麦酒で流す。金糸雀殿はここに来た者から無理に金を取ろうとはせぬ。ささ、ぐっとやるといい」
「デュラハンに、それも首だけの奴に諭されるとは思わなかったぜ。じゃあ遠慮なく」
シグさんはフォークで漬物ステーキを食べて、淡麗グリーンラベルで流し込む。熱い息を吐きながら、
「うんめぇー! すげー美味いよカナリアさん!」
「ささ! グラス空いてますよぅ!」
「こりゃすまないな。とと!」
グイっと飲みほすシグさん。それに私とミカンちゃんとデュラさんが拍手。それに気分を良くしたシグさんは、淡麗グリーンラベルを水のように飲み干していく。
「それにしても漬物ステーキ、結構美味しいわね。まぁ、キムチチャーハンや高菜チャーハンも火を通した物ってあるし当然といえば当然ね」
四人で淡麗グリーンラベルのロング缶が二パック十二本無くなったので一人三本ずつ飲んだ計算ね。
「かなりあ麦酒おかわりー!」
「我も同じく!」
「二人とも、今日は休肝日です! なので、もうシメの七草粥一日遅れを食べて終了ね!」
「そ、そんなぁ……」
「まぁ、それがこの世界のしきたりであれば従うこととしよう」
休肝日とは、お酒を飲まない?
違うわ! お酒を少なめにする日の事よ! という事で、普段の寝落ちするまで呑むという身体に悪そうな飲み方を諌めて七草粥を電子レンジで温めて、
「ぐぅ……ごぉおお。がー」
なんだかイビキが聞こえてくる。そこには酔い潰れたシグさんの姿。気持ちよさそうに眠っているので、毛布をかけてあげて、今日は泊めてあげましょう。
「シグさんの分は明日の朝にでも温めて食べてもらいましょうか?」
お茶碗一杯分くらいの七草粥をデュラさんとミカンちゃんと一緒に食べる。私、七草粥って嫌いだったんだけど、醤油味をつけてあげることで結構美味しいじゃない。
「薬草を7つも入れて作る粥とは、これはいい!」
「勇者も魔法力の強烈な回復を知る! 七草粥つよつよ!」
本当この二人は何食べても口に合うのねぇ。一応、シグさんにも耳打ちで「シグさんお腹空いたら、お粥あるので食べてくださいね!」
その日は夜遅くまで飲み明かさずに早めにお風呂に入って、早めに寝る。健康的(?)な一日を過ごし、翌朝。シグさんがいなくなってたんだけど、ちゃんと七草粥を食べてくれてて、何に使うのか分からない砂のような物が入った袋が残されていた。
ミカンちゃん曰く。
「それは星の砂。道具を作る時とかの素材に使うと魔法効果がついた物ができる貴重なアイテム。雑魚冒険者は酒も雑魚だったけど、持ち物は雑魚じゃなかった!」
へぇ! でも私の世界で使い道ないわね。まぁ私の異世界プレゼントコレクションの一つとして預かっておきましょう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます