第22話 ダンピールとオムライスとサッポロビール黒ラベルと
1月も2日目になると、普通のご飯が食べたくなると思うのは人の常だと思うのよね?
カレーとかカレーとか、カレーとか? カレーライスは美味しくてコスパも最強の一人暮らしの親友。アレンジ次第で様々なおつまみにも早変わり。
カレーを冷凍して固めた物をパン粉で揚げればトロトロカレーコロッケとかね。
という事で今日はカレーを作ろうと思ったんだけど、カレーの材料がありません。そしてお金もありません。何故なら、昨晩。コンビニでいろはさんが勇者ちゃんことミカンちゃんと豪遊しようと沢山おつまみを買い込み、あげくお金が足りず、私が立て替えました。きっと永久に返ってこないと思うけど、そんなこんなで本日は金欠です。
冷蔵庫には卵、ケチャップ。そしてお米だけは沢山あります。それに昨日飲み切れなかったビールがまるまる二ケース。
一度、本当に美味しいの? やってみようか? いや、でも……と喫茶店とかで中年のおじさんが飲んでいた組み合わせ、パパや兄貴も美味しいというけど、ずっと気になって一歩踏み出せなかった飲み方。
オムライスとビールのペアリング。これを本日実行してみたいと思います。もし、合わなければ別々に飲み食いすればいいしね。卵は1パック10個。本来2個あれば作れるらしいけど、私の技量では3個ないとチキンライスもといケチャップライスを卵で包み切れないので、3人分。
「かなりあー、おなかすいたー!」
「はいはい、待っててね!」
「金糸雀殿、何か手伝う事があれば我に言うといい」
皆さん、勇者はソファーから動かずに捨てられた子犬のような眼でこちらを見つめ、人類の敵のハズであるデュラハンの首だけしかないデュラさんは私の調理補助を買ってでてくれます。
……これが現実です。
「じゃあデュラさんはこの炊きあがったお米を少し冷やしてからケチャップを少量いれて炒めてください」
「承知した!」
デュラさんは私から料理を学びチャーハンの類はマスターしたのよね。魔法でお米を炒めるから絶対に飛び出さないの。私も負けじと、卵3個を使って思いっきりとく、それをオムライス用のバターを熱した小さいフライパンに流しいれ菜箸でかき混ぜる。半熟の内に火を止め、ケチャップライスを盛る。そして周囲を菜箸え外してフライパンを揺らす。
揺らすの! アースクエイク! 両端を包み込むとケチャップライスを完全に半熟卵でくるんだオムライスの完成。お店とかだとこれを2個で作っちゃうのよね! 同じ要領であと二つ同じ物を作って本日のおつまみ、オムライスの完成!
ビールは少し辛口がいいわね。と言っても銘柄は昨日買い出しで残った、サッポロビール黒ラベル、それを冷蔵庫から取り出すと……
「このような場所に摩訶不思議な扉、魔物の匂いと、これは……」
さぁ、どなたのご登場かしら……やだ! イケメン! しかも羽根とか変な耳とかないし、多分人間のイケメン! どこかの兵隊さんとか? もしかしてミカンちゃんじゃなくてこの人が勇者?
「こんにちは! いらっしゃ……ひっ!」
鋭い槍を私に向ける長髪銀髪のイケメン、服装は凄い貴族っぽい。そして滅茶滅茶私を敵視している。
「ここは何処か? ヴァンパイアを追っているところ、ここに迷い込んだ。貴様もヴァンパイアの眷属か? 人間の女よ」
この人はヴァンパイアハンター的な?? 言われてみれば聖職者的な恰好をしていなくもないような……
「貴様! 恥を知れ! 金糸雀殿に牙をむくとはどういう事か!」
デュラさん! でも首だけで大丈夫かな? あっ、やっぱりこのイケメン、デュラさんに向けて槍を……
「悪魔とは、ここで滅する!」
あぁ、デュラさんが! 私の為に、そんな……と思った時、かきーん! と金属がぶつかる音。そこにはオムライスを待っていたミカンちゃんがスプーンでイケメンの槍を受け止めた。
「何人たりとも、この勇者の食事を邪魔はさせない!」
いまだかつてない覇気でミカンちゃんがイケメンにそう言う。イケメンはミカンちゃんを見つめ……
「勇者だと……? 何故、悪魔と共にいる?」
「悪魔じゃない、呑み友だ!」
なんだろうこのカオスな状況は、
「勇者、貴様……」
とデュラさんも少しだけジーンとしている。イケメンもミカンちゃん相手では中々手ごわいと分かると、槍を下す。そこで私はイケメンに、
「ここは、何故だかみんな迷い込んでくるんです。今からご飯なんですけど、貴方……」
「ジェイクだ。……ふん、恐ろしかろう。そう、ダンピールだ」
だん、ぴーる? 私は今一つどういう人か分からないという顔をデュラさんとミカンちゃんに向けると、デュラさんが教えてくれた。
「人間種とヴァンパイアのハーフであるな。我々悪魔とは違うが、ヴァンパイアも強靭な身体と魔法力を持っていて人間の脅威。いや、村一つ血を啜るなど悪食な点で言えば我等より性質が悪いともいえるであるな。そんなヴァンパイアの天敵がこのダンピール種である」
ふーん、
「そうなんだ。私達今から食事なんですけど、ジェイクさんも一緒にどうですか? そんなおもてなしはできないですけど」
「いや、邪魔をした……俺は先を急いでいるからな」
行っちゃうの……残念、と思った時、ミカンちゃんが一言。
「かなりあの食事の誘いは受けた方がいい。体力と魔力の回復の仕方が尋常じゃない」
そうなの? デュラさんも「言われてみれば確かに」とか言っている。でもこのジェイクさんは帰るつもりらしい。
まぁ、しかたないよね。プッシュ! ミカンちゃんがもう私達の世界になれてサッポロ黒ラベルのプルトップを開けた。それに反応したジェイクさん、
「なんだそれは?」
「ばくしゅ! それも水がいいのか美味い」
ごくりとジェイクさんが喉を鳴らす。あっ、この人。酒飲みだ。という事で私はジェイクさんの分もビールを用意。オムライスは卵1個で作るとなると……たんぽぽオムライスを作ろうかしら、半熟オムレツを作ってナイフで切ってケチャップライスに乗せるアレ……
「おまたせしました! 本日の昼食兼オツマミはオムライスです! そしてペアリングするのは! 日本で一番古いビール。サッポロビールの黒ラベルです!」
とりあえず合うのかどうか、疑心暗鬼だけど、まずは!
「「「「乾杯!」」」」
あー、この苦み、そしてのど越し。今、私は日本のビールを飲んでいるという全身の細胞が喜んでいる感覚。たまらない。さて、ご飯もの、それもオムライス。
オムライスとサッポロビールって大体同期なのよね。どっちも1900年頃に日本で生まれたんだっけ? そんな二人の相性が……
合わないわけはなかった。
「ウマー! かなりあー、ちょー美味しい!」
「うむ、確かに合う。アマじょっぱさが麦酒を飲む手を止めてはくれぬか」
いつもどおり、勇者と悪魔のコンビニは好評。さて、イケメン、ヴァンパイアハーフ。ダンピールのジェイクさんはどうかしら、ビールのおいしさは驚いているけど、オムライスを一口スプーンで、ぱくりと。そしてビール。
「……うますぎる」
ほんとに、そんなに合うの? 私もオムライスを食べて、ビールを……んんんっ! うまっ! これ、世の中の中年のおじさん達は私達に黙ってこんな食べ方を楽しんでいたのね……しゅごい! よく考えれば卵、ケチャップだもんね。洋食屋さんでオムライスを肴にビールを飲んでいたおじ様達を私は偏見の目でやや見ていた。飲めりゃなんでもいいの! でも違った、おじ様達は私なんかが歩いてきた道を遥か何十年も前に進んでいるから、お酒の酸いも甘いも知り尽くしているのね……
ビールが進む、本当に進む。なにこれ? 既に1ケース目が終わり、2ケース目を開けている私、突如ジェイクさんが食べる手を止め、あれ? やっぱ口に合わなかったかな?
「カナリアさん、先ほどの非礼。詫びたい。このような美味い食事を作れる美しい女性に刃を向けるなど……」
えへへ、美しい女性だってぇ~、ふひひ。いつもガールズバーのしょうもない客しか相手にしてないからこんな風に言われるのはもう、超うれしい。もっと言って!
「そんな事ないですよぅ! ビール空ですよねぇ? 新しいのどうぞぉ」
私のその反応にミカンちゃんが、
「かなりあ、なんかキモい。カーバンクル撫で声で」
「うむ、カーバンクル撫で声の金糸雀殿。はじめて見たな」
猫撫で声のね。異世界版かな? いや、基本。いい男の前では態度変わりますよ。もちろん、当然。当たり前の如く。カッカッカッとオムライスを食べ終え、ビールを飲み干したジェイクさんは、もうそれはそれはいい表情で私を見つめ、
「すぐにヴァンパイアを屠り、戻ってくる。その時には語り合いたいものだ。カナリアさん」
「待って、ジェイクさん」
いやー、玄関から外に出たら……行っちゃった。行っちゃったよ……ジェイクさん。私の部屋に残っているのは、
「まだ白飯が残っている。塩にぎりにしてたべる」
「こら、勇者! ちゃんと手を洗ってからにせよ!」
大ぐらいでニートの勇者と、妙にお母さんみたいなデュラハンの首だけのデュラさん、ビールはまだ残ってるや、飲もう。飲み続ける事くらいしか、この私の悲しみは忘れられそうにないや……ハハ。
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