第31話 キマイラと助六と氷結レモンと
さて、久しぶりの大学の授業。私は大学では地味一貫で通っている。まぁ、元々そこまで偏差値の高くない女子高だった事もあり、ピアス開けまくり、髪染めまくり、ネイルしまくりな私だったけれど、大学生になってから大学デビューをしたの。地味系インテリ淑女にジョブチェンジ。
まぁ、でも。新歓でストゼロがぶ飲みした人だよね? とか、テキーラショットで何杯呑める? とか、私が作り出したかった私とはかけ離れてしまってるのよね。そんな私も資料を集めたくて大学の図書館へと向かったのね。
「すみません、あの犬神さんですよね?」
「えっと、はい」
あら爽やか系イケメン、なんだろう。どうせ凄い呑むんですよねー? とか言うんでしょ?
「あの経営学とってましたよね?」
「はい」
「僕も経営とか凄い興味あって、投資とかってされてるんですか?」
「勉強がてらクラウドファンド等に」
もしかして知的なお話から、恋が産まれる。なんて事はなかったわ。要するに学内ねずみ講の勧誘だったのよね。設けられる投資のノウハウが入ったUSBを売りつけてこようとするのね。大学に入ったら宗教勧誘とマルチ勧誘だけは気を付けないと、そんなガッカリ感で家に帰ると、
「かなりあー、これ配達の人が置いて行った」
「話によると、なにやら贈り物のようであるぞ」
えっ? なになに? そこには兄貴宛に“ご当選おめでとうございます”と書かれていた。やたら重い何かを開けるとそこにはレモンチューハイ、氷結レモンが24缶。
しかも、キンキンに冷えてるわね。本日はお寿司が食べたい気分だけどお金があまりないので、私は庶民の味方。太巻きと稲荷ずしを買ってきたの。お花見みたいで丁度いいわね。
ガチャ。
さぁ、今日は……、ファーフードのような服を着た赤毛の男の……子だろうか? 尻尾は蛇、足は馬のような、ファーフードと思えていたものは彼の鬣。彼は一体何者だろうか?
「こんにちは、家主の犬神金糸雀です」
「こんにちは、対魔物用決戦兵器。キマイラです。魔物の軍勢の中に飛び込んだ時、気づけばここにいました。ご迷惑おかけします」
凄い腰低い男の子だなぁ。自己紹介にもあったように、そういうお仕事の方らしく、デュラさんがミカンちゃんの後ろに隠れている。
「あのー、ここは迷い込んだ人が休憩して帰って行く。みたいな感じなので、キマイラさんさえよければお酒どうですか? たっくさんありますので」
「そこに敵首魁がいるのですけど」
「あー、あれは敵首魁ではなくて、この部屋の常連のデュラさんです。そしてデュラさんを守っているのが勇者のミカンちゃんです」
ミカンちゃんはキマイラさんの鬣を触ってやや興奮気味。ほんとうにモフモフした物好きよね。その瞬間、キマイラさんはデュラさんに向かって前足と言うべきか、妙に発達した爪の伸びた手を飛ばすけど、ミカンちゃんに捕まれる。
「かなりあ、動物はお腹が一杯になると狩をしなくなる。これ自然の鉄則」
キマイラってものすごーく、天然自然からかけ離れているような気がするんだけど、とりあえず太巻きを一口サイズに切って稲荷寿司と一緒に大皿に乗せてテーブルにドンと運ぶ。
「口に合うか分からないけど、助六寿司とお酒は氷結のレモンです。なんだか、土日のお昼みたいな食事になったけど……キマイラさん、乾杯しましょ!」
キマイラがお酒を飲むのか、そして助六寿司は口に合うのか、きっと世の中の専門家も知らない事を今から目の当たりにするのよね。氷結みたいな缶チューハイは氷と一緒にバケツに入れてそのまま缶で行くのが法律よ! ふきんで水気をぬぐってあげると、みんなに渡す。キマイラさんの分はプルトップを外して、
「じゃあみんないきわたりましたら!」
乾杯!!
7%と4%があるんだけど、今回兄貴が当選したのは4%の方。ちなみに個人的には私もこの4%の氷結の方が好みだったりするのよね。度数が上がってくるストロング系はどうしても雑味を感じる事が多くて、それなら自分で作った方がいいかなと思えてしまうのね。
それに対して4%の方は雑味が少なくてレモンの味と甘さが引き立つ気がする。そして助六とも妙に息が合うの。
「おいしい。金糸雀さん。始めて呑んだけど、これはすこやかでとてもいい。身体になじむ」
「うふふ、キマイラさん。のり巻きとお稲荷さんどうぞ!」
「これは食べ物なのですか?」
キマイラさんは、一心不乱に両手でのり巻きと稲荷寿司を食べるミカンちゃんを見て不思議そうな顔を見せる。
「うまうま。巻きずし、勇者は大好き! んぐんぐ、ぷはぁああ!」
「これ、勇者。ちゃんとお箸で食べるといい。行儀が非常に悪かろう! んっ、助六。かつて金糸雀殿の世界にいた遊び人を模した食物と聞いている。実に感慨深いものである!」
上品に稲荷ずしをデュラさんは食べると、氷結で喉を潤す。確か揚げ(おいなりさん)と巻き(のりまき)は助六の恋人の揚巻を意味しているんだっけ? 花火を見る時の定番なのよね。これと大阪寿司を持って隅田川花火大会とか兄貴と行ったものね。
でもさすがに4%だとライトだからみんなお酒が進むわね。
プシュ! プシュ! プシュ!
キマイラさんも長い爪で器用に開けて氷結を楽しんでる。味変に、ガリを小皿にだして箸休めよ。
「ガリのハイボール。勇者は好き!」
と言って氷結をグラスに移すとガリを入れて楽しんでいるミカンちゃん。そんなミカンちゃんを興味深そうにしているキマイラさんに、
「キマイラも呑んでみる? ぶっとぶぜ!」
「えぇ、是非いただきま……これは、美味しい! 実に、おいしい」
ガシュ、ガシュと氷結レモン味を飲み干していくキマイラさん。爪をお箸みたいに上品なのか行儀が悪いのか絶妙に分からない食べ方を披露してくれると、キマイラさんはお酒で舞い上がったのか、
「金糸雀さんと勇者、そして怨敵デュラハンに感謝をこめて、戦いの踊りを捧げます」
そう言って、儀式めいた。どこかの海外のラグビーチームのダンスのような物を見せてくれる。それに……まぁ酔っぱらっている私達は盛り上がって同じように部屋でどったんばったんと踊る。24缶の氷結を水のように消費して、気が付けばあれだけあった太巻きに稲荷寿司も底をつき、氷結は残すところ数本となったところ、
「お酒がこんなにも美味しいとは思わなかった。ご馳走様でした。仲間のキマイラ達にも教えてあげます。そして、現在交戦中の魔物の群れを殲滅するので戻ります。ヒック……」
あっ、素面に見えてすんごい酔っぱらってる。いるのよね。泥酔しているのに、そう見せないでちゃんと家まで帰って行く人。キマイラさんがまさにそれで、次の日。だいたい地獄を見るのよね。
二日酔いという名の……あっ、私もか……翌日私達三人はしばらくうーん、うーんと苦しんで二度とお酒なんか飲むもんか! と思った2時間後に再び飲み始めるのよね……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます