第307話 おしら様とカレー鍋トマトラーメンとすごいもソーダ割と

「金糸雀ちゃん、カレーお代わりです」

「勇者も大盛りでおかわりー!」

「二人とも自分で好きなだけ盛ってお食べなさい」

 

 今日は朝からニケ様が来てるわ。前日カレーだったから、翌朝のカレーを食べにきたみたいね。美味しくご飯を食べている時は可愛くて無害なんだけどなー。デュラさんが野菜揚げを揚げて二人のお皿に入れてるわ。

 

「味変であるな! クズ野菜をペースト状にして小麦粉と一緒に揚げたである」

「えすでぃーじーず! デュラさんさすがなり!」

「食べ物を粗末にしないのは大事な事ですね!」

 

 まぁ、ウチは私もデュラさんも結構食べるし、ミカンちゃんが痩せの大食いなんで食べ物が残る事はないけど。

 

「うおー! 高校野球が早くからやってり!」

 

 熱中症対策で早い時間からの試合開始になったんだっけ? 一番暑い時間を避けて開催されているとか? 異世界の人、スポーツ好きだから高校野球も食い入るように見るのよね。

 

「高校球児達はいつ見ても良いであるなー!」

「全員に勝利を与えてあげたいですねぇ! 参加しているだけで全員優勝!」

「クソ女神は存在が敗北なり! 予選敗退かもー!」

 

 またトレンドのやり取りをすぐに使いたがる。ミカンちゃん、本当は地球の人じゃないのかしら? 寸胴鍋で作ったカレーもこのメンツが食べると凄い勢いで減っていくわね。カレーを全て食べ終えた後の鍋を私が洗おうとすると……

 

「コラ娘、周りについているカレーが勿体無いでしょう!」

「「「!!!!」」」

 

 ニケ様も気づいてなかったの? そこには目を瞑った死装束を身に纏った生白い女性? きっと、本来であれば接触しないほうがいいくらいヤバい系の存在なんでしょうね。

 でも今回は同じくらい接触してはいけないヤバいというか、ニケ様がいるし見に回ってみましょう。

 

「金糸雀ちゃんにコラ! とはなんですか! コラとは! 貴女はおしらですね!」

「知り合いですか? ニケ様」

「金糸雀ちゃん、おしらはよくわからない神なんですよ」

「いかにも、人は私をおしら様という。人間の娘と超越した人間の娘と首だけの怪異もおしら様と呼ぶ事を許そう」

 

 おしら様さんね。

 

「えー、勇者。様とかつけたくなしー! 王にもつけた事なし」

 

 無礼の極みね。

 

「我が様付けをするのは魔王様のみであるぞ!」

 

 デュラさんもたまに頑なよね。

 

「金糸雀ちゃんが様付けするのは私だけですよぅ!」

 

 そういえばニケ様はニケ様って呼んでるわね。だってニケ様(笑)って感じなんだもの。おしら様さんは……死装束をギュッと握って泣きそうなのを堪えてるわ。

 

「おしら様さん、泣かないで! 私は犬神金糸雀です。そのカレーのついた鍋を使って何か作りますので、お酒でもどうですか?」

「……のむ」

 

 ふぅ、じゃあ寸胴鍋をどうしましょうか? 

 カレー鍋、洗うの面倒……あーー! 男子大学生とかがこの鍋洗う代わりにここに色々入れて煮込み料理作って食べてるわね。

 だったら永谷園の煮込みラーメン使ってみましょうか。トマト、ニンニクを切ってオリーブオイルとバターを鍋の中に入れて大きめに切った玉ねぎを炒めるわ。そこにトマトとすりおろしたニンニク。適量の水と煮込みラーメンとそのスープ。

 

「うんカレー鍋は洗えるし、割とズボラ男子大学生飯も悪くないかもしれないわね。香りもいいし、普通に美味しいでしょう」

 

 この雑な料理が完成したので、意外と上品な料理っぽいけど、ここは男子大学生が飲みそうな安い焼酎がいいわね。でも私の部屋にある一番安い焼酎ってそれでも“すご“シリーズなのよね。ここは無難に“すごいも“にしようかしら。これよりちょい上位ってなると黒霧島あたりになるけど、いきなり貧乏大学生から飲み屋のおじさんにランクアップしちゃうから。

 甲類焼酎が少しでも入ってないとダメね。正直ソーダ割りに使う焼酎は甲類だけの物より乙類も混ざってる“すご“シリーズがベストかなと私は思うわ。

 

「じゃあ、すごいものソーダ割り作るからみんな運んで運んで」


 というか、カレーをあれだけ鱈腹食べたミカンちゃんとニケ様も普通にカレー鍋煮込みトマトラーメン食べるつもりなのね。お椀に麺と具を入れると最後にチャーシューとネギを別で入れてあげて完成。

 

「はい、おしら様さん! 熱いから気をつけてくださいね」

「ありがとう! 金糸雀ぁ!」

「じゃあみんなグラス行き渡ったら、乾杯しましょうか? まだ昼前なのにお酒飲むってこの背徳感がやめられないわね。じゃあおしら様さんに乾杯!」


 んっんっんっ。あー、このレモンの味もなし、ただの焼酎にソーダを割っただけの正真正銘の酎ハイ。こたえられないわね。

 

「ぷひゃあああああ! シュワシュワ美味しっ!」

「芋のソーダわりは普通に美味いであるな」

「おいじいぃい! 金糸雀ぢゃん!」

「う、うまっ!」

 

 みんな満足してくれたみたいね。焼酎のソーダ割りの場合、結構雑な作り方になるけど美味しい作り方があるのよね。氷を入れたグラうに多めの焼酎を注いでおもっきりかき混ぜてグラスを冷やしてから氷を足してソーダで割るの。すると氷は溶けにくし、キンキンで美味しい酎ハイの完成ね。夏はこれにキュウリなんかを入れても美味しかったりするのよね。

 

「おしら様さん、カレー鍋煮込みトマトラーメンもどうぞ」

「うん」

 

 ちゅるちゅると食べて、「ほふー」と頬を緩めるとそのまま酎ハイをグビグビと飲んでグラスを私に「おかわりー!」とミカンちゃんより飲むの早いわね。まぁ、いくらでも飲みなさい。

 

「はい、お待たせしました。ところでおしら様さんは何の神様なんですか?」

 

 ※諸説ありますが、蛭子みたく多分よくない物(流行病、飢餓不作、ジンクス等)を祀った何かだと思われます。本作では複合信仰としてのおしら様を選んでます。

 

「んー? わたしかー? 色々あるもんね。農耕の豊作」

「えー、凄い!」

「迷った人の道標」

「優しい!」

「異形婚」

「ん? え?」

「約束破り絶対殺す約束」

「あれ?」

「あとはー、わたしの事を話す際は三人に話さないと二十四時間以内に死ぬとか?」

「某呪いのビデオのアレじゃない! いや、アレの元ネタがおしら様さんなのかしら? というか本当に神様なんですか?」

「さぁ?」

 

 うわ! めっちゃ可愛い。もきゅもきゅカレー鍋煮込みトマトラーメンを食べながらそう言うおしら様さん。そしてその無邪気さの中に存在する深淵がまさに歪んでるわね。

 

「勇者もシュワシュワお代わりなりぃ!」

「かなりあぢゃん!! 私はですねぇ、かつて井戸から出てくる髪の長い人間の女の子にですねー! らーめん、おがわりぃ」

 

 このニケ様の狂い方をみていて思うんだけど、神様ってある意味裏表がしっかりしてるのよね。本来の役目をまっとうできているかどうかは別としてブレないのよ。だけど、私の経験上、おしら様さんみたいに何だかふわっとした感じの存在って神様じゃ多分ないのよね。

 

「おしら様殿はなんというか、我ら闇の眷属でありながら、光の創造物のようで実に珍しい存在であるな! ふははははは! 愉快である」

「首だけ妖怪は、一点の光もない綺麗な闇だね!」

「照れるであるぞ!」

 

 それ褒め言葉なんだ。まぁ、おしら様さんがどんな存在かとか正直私からしたら些細な問題なのよね。静かに楽しくお酒を飲める間柄なら問題ないか。

 ニケ様とセラさんってどんだけ迷惑なのかしら……

 

 カレー鍋煮込みトマトラーメンも意外な人気で、というか美味しくて私も一回おかわりしたし全部売り切れたわね。じゃあ、ご飯を入れてリゾットに……というところで私は削ったフランスパンを使ったパン粥にする事にしたわ。さっきまでカレーライス食べてたニケ様とミカンちゃんが飽きないようにね。

 

「おしら様さん、チーズと黒胡椒も入れますけど苦手なもの……アレ? おしら様さんどこ行ったのかしら?」

 

 さっきまでもきゅもきゅ飲み食いしてたおしら様さんの姿が全然見えないんだけど、みんな分からないという表情をしてるわね。

 

 ガチャリ。

 

「コンニチハー! おしら様ダヨー」

 

 あら、おしら様さん何故か玄関から入ってきたわ。

 

「「「!!!!!」」」

 

 私とミカンちゃんとデュラさんはリビングに入ってきたおしら様さんを見て絶句したわ。

 

「だ、誰なり?」

「うむ、おしら様殿であるか?」

 

 私が聞きたい事を聞いてくれる異世界組。さっきまでいたおしら様さんはいわゆる貞子タイプの見た目だったのに、今目の前にいるのはジャンパースカートを履いたダウナーな女の子。似ても似つかない容姿。

 

「私がおしら様ダヨー、ニケに呼ばれてたんだけどー、遅れちゃった。ゴメンーんね!」

「おしら、おぞいぃいい! がなりあぢゃんお酒ぇ!」

 

 ちょ、待てよ! ニケ様、さっきのおしら様さんもおしらって言ってたじゃない。今、目の前にいる人(?)がおしら様さんなら、さっき人の誰よ?

 

 そのあと、素面の時のニケ様に最初に来たおしら様さんの話をしても知らない、覚えてないとお酒のせいで記憶から抹消されていたので何も真実が分からなかったわ。

 今でも、私の部屋におしら様さん(?)がいるのかと思うと……まぁ、別にどうでもいいかと思うのよね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る