第54話 クーシーとピーナッツとテキーラと

 本日、私はガールズバーの仕事終わりにいろはさんが家に飲みに来ないかと誘ってくれたので一杯だけご馳走になろうかとついて行った。ちなみに今日のいろはさんは黒髪ロングに黒のカラコンで逆に新鮮。ちなみにたまに業務後に状況は聞いているけど、炎の精霊イフリーターさんがちゃんとやっていけているかも少し気になったのよね。

 デュラさんとミカンちゃんには昨日作ったカレーをチンして食べておくように伝えているから何か適当にお酒でも飲みながら上手くやってるでしょう。

 という事でいろはさんのあのタワマンにやってきて、

 

「お邪魔しまーす」

「入って入って、イフちゃん! カナきたよカナ! うける!」

 

 なんで私がきてウケるのか全く分からないけど、いろはさんは多分もう酒が入っている。お客さんから何杯か奢ってもらったんでしょうね。

 

「おかえりなさいませいろは様、それに金糸雀様、いらっしゃいませ」

「こんばんわ! イフリータさん、お洒落なワンピースですね」

「いろは様に買っていただきました!」

「ウヘヘ、だってあのエロい格好だと街デートとかできねーじゃん」

 

 ケーブル編みされたニット生地のワンピースを着たイフリータさん。頭のツノは帽子とかで隠せば確かに普通の女の子に見えなくもない。いろはさんの事だからもっとぶっ飛んだ事させてたかと思ったんだけど、案外まともな人なのかもしれないわね。

 

「じゃあ飲もうぜぇい」

 

 ドンとガラスのテーブルに置いたのは瓢箪型をしたボトルの安価なテキーラ。店からもらってきた物っぽいなぁ。何故なら半分くらい減ってるのよね。

 

「なんか音楽かけて、カントリー系」

 

 いろはさんがそう言うとスマートスピーカーがランダムで音楽を再生する。タワマンでIOTも充実してて、センスも悪くない。一体いろはさんは何者なのかしら。

 

「へっへっへ、テキーラメインだからおつまみとか、これでいいっしょ? セブンのバタピー!」

 

 私も好きよ。

 セブンイレブンで売ってるバターピーナッツ。でも、セレブというわけじゃないのよね。お酒もカミノレアル。多分、最安価のテキーラだし、私の部屋で飲む時はアガペ100%の物しか飲まないもの。

 

「レモン何処だっけ? あとしおしお」

 

 ガチャ。

 ……まぁやってくるわね。

 

「いろはさん、見てきますね」

「よろー」

 

 さて、二足歩行の犬が来たんだけど……なんだっけこの人。私もあれから色々調べたんだから、

 

「あー。ゆーあー、コポルト?」

「バウバウバウ!」

「うわ、怒ってる……」

「金糸雀様? クーシーとは珍しい」

 

 そう言ってイフリータさんはクーシーという二足歩行の犬を抱えてリビングに戻ってくる。

 

「イフちゃんが雑魚モンスター連れてやってきた! ギャハハハ!」

「ウゥウウ! バウバウ!」

「めんごめんごー! まぁやってきたなら飲んできなさいなー」

 

 ググるとクーシーさんってケットシーさんの亜種。犬のモンスターか妖精みたいな存在なのね。知らなかったわ。

 

「こちらのクーシーは妖精の門番として比較的高位の妖精ですから、雑魚モンスターやコポルトという言葉に大変憤慨されたようです」

 

 尻尾を立ててめちゃくちゃ私たちを威嚇してる。そんなクーシーさんにいろはさんは笑いながらテキーラのボトルを持って、

 

「酒飲んで機嫌直してちょー! んじゃ、イフちゃんとワンちゃんは知らないと思うからボクがちょっと飲んでみせんね? まずレモンにふれま。でこのアンデスの塩をなめま、かーらーの! ショットを一気飲み、してレモンを齧って最後に塩を舐める。でピーナッツを一掴みぽいっと、んまい!」

 

 思わずガッツポーズのいろはさん。

 ペロリと出した舌で塩のついた自分の指を舐める。

 エロい。

 いろはさんがやるとわざとやってるとしか思えない。

 

「はいはい! じゃあみんなもやってみようか? ボクももう一杯! 乾杯の合図はメキシコ風でサルーね!」

 

 コツンとバカラのショットグラス(私がくっそ欲しいやつ)を合わせると、

 

「「「サルー!」」」

「バウルー!」

 

 かーっ! テキーラうんまっ。ピーナッツがまた合うのよねぇ。

 

「あわわ! これは、キツいですぅ。でも、美味しい。おつまみおいしーです」

「全く粗野な酒だワン。粗野な酒には粗野な食べ物があうものだワン」

 

 そう言って塩のついた自分の指を舐めるクーシーさん。この反応に私は、

 

「えっ? 喋れるの?」

「ワンちゃんめっちゃ喋ってんじゃん! ウケるーー!」

 

 いろはさんは動じないなぁ。時折ピーナッツをつまみながらショットでテキーラをキメる私達。ほんとテキーラ飲み出すと止まらないのよね。美味しすぎるからお酒飲めない女の子とかを狙う不貞の輩がこの飲み方をすすめたりするのよね。

 

「イフちゃんもう真っ赤ぢゃん! ほいチェイサー!」

「ありがとうございます。いろは様……ってこれお酒?」

「イェー! テキーラハイボール!」

 

 出たよ。飲兵衛のビールとかハイボールをチェイサーにする頭悪い飲み方。まぁ、私も出されたテキーラハイボールを普通に飲んでるので人の事言えないんだけど……

 

 こっこっこっと飲み干したクーシーさん。


「こっちの方が美味いワン!」

「はぃ、私もまだキツくないこっちの方が……」


 そんな二人にいろはさんは親指を立てて頬を染めてからドンともう一つのテキーラのボトルを置いた。

 

「味わかるぢゃん二人とも! はい、パトロンどぇーす!」

 

 パトロンはアガペ100%使ったプレミアムテキーラね。というかそっちをストレートで飲ませてカミノレアルをハイボールで飲ませてくれればいいのに!

 

「逆逆! とか思っているカナは頭硬いなー! たまには普通の真逆で飲むのもいいじゃんか! グレナデンシロップとオレンジジュースとパトロンで、ほい! テキーラサンライズ!」

 

 それからなんのテンションか、いろはさんは、トマトジュースとペッパーソースでブラッディショット、ホワイトキュラソーと絞ったライムでマルガリータ。絞ったライム、ジンジャエール、クレームドカシスでエル・ディアブロ。

 

 次々にカクテルを頼んでもいないのに作っていくと、

 

「はい飲んでー!」

「これは色とりどりで飲むのが勿体無いワン!」

「全然勿体無くねーからやっちゃってぇ!」

「はわわ……もう飲めませーん」

「ならば遠慮なくいただくワン!」

 

 というイフリータさんに私は水を飲ませて、休ませるとピーナッツをつまみに、パトロンをショットでちびちびやりながら、いろはさんとクーシーさんのやりとりを眺めていたのね。いろはさんの作ったカクテルを次々に飲み終えたクーシーさんにいろはさんはカミノレアルのショットを差し出して一気に、クーシーさんは飲み終えると次はいろはさんのショットグラスにカミノレアルを注いで飲み比べが始まった。

 

 地球の飲兵衛と異世界の飲兵衛。果たしてどっちが勝つのかと私が思った時、先にカミノレアルが底をついたの。

 

「ギャハハハハ! ワンちゃん、超いい飲みっぷり!」

「人間の女も凄いワン! こんなに楽しい酒盛りは久しぶりワン!」

「ワンちゃんの地元でもおもしれー飲み会あんのぉ?」

「妖精界の酒盛りもいろはの飲み会に負けじとよく飲むワン!」

「行ってみてーーー! ちょ、今度つれてってよー!」


 ボリボリピーナッツを食べながら言ういろはさんにクーシーさんも頷く。


「妖精みたいに自由な人間だワン! 是非招待したいワン!」


 握手してる二人を見てイフリータさんがやや面白くなさそうね。あれだけ呑んでもケロっとしてるクーシーさんは、


「このピーナッツとやらを土産に頂くワン! また飲もう。いろは、炎の精霊、そして女中の女よ! さらばだワン!」


 いや、私。そういや名乗って無かったわ。と言うか確かに服装がやや二人より見劣るからって女中呼ばわりなんて......


 私は犬が嫌いになったかもしれない。

 犬神金糸雀なのに......てかピーナッツしか食べてないから牛丼でも食べて帰ろ。

 ビールも頼んじゃお。

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