第70話 ジャイアントエイプと塩バナナチップスと[アサヒ]贅沢絞り ミルクテイストプラスバナナと

「勇者は圧倒的に言わ猿がすきー!」

「うむ、言わ猿は明らかにヤバい物を見ている感が凄いであるな。聞か猿を察するに、阿鼻叫喚を聞きたくなく、とんでもない物を見ている言わ猿、からの目を背けている聞か猿。完全に拷問現場であるな!」


 二人は日光東照宮の謎的な番組を視聴して“見ざる聞かざる言わざる”を独自の解釈で話しているデュラさん。その後に、自分や他人の欠点や過ちは見ない、聞かない言わない方がトラブルにならないというまともな教えである解説を聞いて感嘆している中、


「そんなあやふやな神ではなく、私を拝めばいいんですよー!」


 と本日はオヤツの時間からニケ様がいらっしゃっていて完全に逃げ出す機会を失ったミカンちゃんはテレビを見る事にして今はお茶の時間。インスタントの紅茶にブルボンのルマンドをお茶請けにしているの。


「はふぅ、この紅茶おいしい。このお茶菓子も」


 ニコニコとお茶にお菓子を楽しむニケ様、このままだと本当に美しいし可愛いからいいんだけど一度アルコールが入るとややこしくなるのでお酒を飲まさずに帰らせようという私の魂胆。


「お茶飲み過ぎたのー!」


 とミカンちゃんがお手洗いに、デュラさんは徳川家康の健康マニアである話を視聴しながら感慨深そうに見ていて、ニケ様はルマンドがよほど気に入ったのか一人で殆ど食べてるわね。ファッション雑誌なんかめくりながら……


 ミカンちゃん遅いわね。私はお手洗いに向かうとノック、トントン。


「ミカンちゃん?」


 反応はない、中には人はいないようだ。


 逃げたわね。ミカンちゃん、小賢しい事を考えるの上手いのよね。そりゃ壁抜けできるならどこからでも出ていけるわね。さぁ、今日も気合を入れて呑みましょうか、説教3時間込みで、オツマミなんかあったかしら……この前久世福商店で買ったバナナチップスがあったわね。バナナつながりでアサヒが出してる期間限定酎ハイ買ったんだっけ?


「じゃあ、デュラさん今から飲んで夕食前にニケ様に帰ってもらいましょうか?」

「うむ、付き合うである。もう我も、女神ニケの語るニケ生誕の話は暗記して言えるレベルであるな、今日は邪神に一目ぼれされた自慢話あたりを聞かされるとなると胃が重くなるであるな……まぁ、我は首だけなのだが」


 覚悟を決めた私はお皿にバナナチップスを、それによく冷やしたアサヒの期間限定酎ハイ、


「[アサヒ]贅沢絞り ミルクテイストプラスバナナです! 最近バナナジュース流行ってますからね!」


 ガチャリ


 おいでましたか、本日のニケ様のクソ説法の被害者。毛深かめな……いや、全身真っ白な体毛につつまれた……


「ウゴォオオ!」

「ジャイアントエイプであるな。雪山等で暮らしているフリーの魔物である」

「フリーの魔物って……にしても日光東照宮繋がりね。いらっしゃい! 私は犬神金糸雀です。犬猿の仲って言いますけど、半分小鳥なのでどうぞ上がってください」

「……ウゴ?」


 ジャパニーズジョークは通じないか、でも身の丈3メートルくらい大きいお猿さんなら言葉も通じないから説法もそこまで苦じゃないかもしれないわね。


「……金糸雀ちゃん、私帰りますね」


 おや? ニケ様、もしかしてお猿さんが苦手ですか? まぁ、でもここで変な事を言うと居座られそうなので、


「あ、はいー」

「金糸雀ちゃん、理由を聞かないんですか?」

「あ、はい。なんでですか?」


 めんどくせー女神様だなぁ……全然興味がないけど私はニケ様の話を伺った。お皿のバナナチップスをポリポリとニケ様は食べながら、


「ま、まぁ一先ず乾杯しましょう」


 グラスに[アサヒ]贅沢絞り ミルクテイストプラスバナナを注ぐととりあえずニケ様の弱点を垣間見れた本日に、


「乾杯!」

「乾杯である!」

「ウゴウゴ!」

「あれは、私がまだ女神になりたての頃」


 うわっ! 贅沢絞りのバナナ味、めっちゃくっちゃおいしー! もう殆どバナナオレじゃん!


「ウキキ! ウゴリア! ウキキキ!」

「金糸雀殿、ジャイアントエイプの奴がこれは美味いと! お礼に踊りを披露したいと言っておるぞ!」

「あはは、そりゃよかったです。でも響くのでご遠慮お願いします」


 ピー!


 するとなんという事でしょう。ジャイアントエイプさんは口笛で素敵な音色を奏でてくれました。私は手拍子でデュラさんは「うむ、この甘い酒はうまい! そしてジャイアントエイプの宴会芸も中々である!」と割りばしを超能力でバチ代わりに缶を叩いてセッションが始まった。そう、酒を飲む時はこうして馬鹿になるのが一番よね!


「いいぞー! ジャイアントエイプさん! デュラさーん!」

「金糸雀ちゃん、私のありがたいお話聞いてますか?」


 あーなんだっけ? なんか、メリクリウスさんとかいうお猿さんの神様とお酒の席でひと悶着あったとかであんまり聞いてないけど100パーニケ様が悪い話でしょ?


「はいはい聞いてますよー! ほら、ニケ様。バナナチップスと贅沢絞り進んでませんよ!」

「まぁ! なんですか金糸雀ちゃん! それにデュラハン。ジャイアントエイプも、そんなんだったら私帰りますよ?」

「お疲れ様でした」

「うむ、酔って転ぶでないぞ!」

「ウホホ! ウホッ!」


 多分ジャイアントエイプさんもバイバイ的な感じで手を振ってるわね。そんな私たちを見て、ブワッと涙を流すと、


「もー知りませんからね? 帰りますからね? 後で謝りにきても許しませんよ?」


 そう言って私の玄関まで何度も振り返りながら言うニケ様、ほんと小者だなぁ。ちゃんと神様やれてるのかしら? 引くに引けなくなったニケ様は、


「本当に帰りますからぁああ!」


 と、がさっとバナナチッププスを鷲掴み、[アサヒ]贅沢絞り ミルクテイストプラスバナナの未開封の缶を二本持って私の部屋を飛び出して行っちゃった。


「さぁ、続きを楽しみましょうか?」

「……う、うぬ」

「……ウホっ」


 バナナチッププスも贅沢搾りのバナナにバナナという組み合わせは間違いなく最高に美味しいんだけど……なんだかみんな手が進まない。私以外は、


「久世福のバナナチップスおいひー! 最近の低アルコール酎ハイも半端じゃないわよねー! もう二人ともどうしたのよ? 暗い顔して、ニケ様の事?」


 あー、二人とも何故か逆ギレして出ていく学校の先生に謎の罪悪感を感じる学生みたいになってるじゃない! 学校の先生もニケ様も向こうが悪いから絶対に謝っちゃダメなのよ!


「ウホ! ウホホホ! ウホッ!」


 ジャイアントエイプさんがジェスチャー、これは多分。


「ジャイアントエイプが女神ニケに謝罪してくると言っておるであるな」


 ダメよ! ダメ! あれは学校の先生もニケ様も力技で自分を正当化しよとしているだけなんだから! 学校の先生の場合は職務放棄で問題にしてニケ様の場合は出禁にすればいいの!


「待って! ジャイアントエイプさん!」


 きっと、私は全てを理解した表情で、それでも自ら理不尽な謝罪を強いられようとしているジャイアントエイプさんの背中を見て止めてはいけないんだとこの時気づいたのよね。私は、いつの日にか人間という万物の霊長は他の猿種にとって変わられる日がくるんじゃないかとそう確信にも似た予感を感じていたのよね。


 どれだけ頭が良くなろうと、どれだけの大きな事が出来ようと人間の心の成長は止まってしまっているんだと思うの。世界はラブアントピースを掲げても人同士の争い事がなくならないように、人の心から憎しみの心がなくなることはないよね!


 かくいう私も、多分ジャイアントエイプさんの謝罪を受けて、私やデュラさんも間違っていたであろうと反省したと思って、それはそれはすこぶる嬉しそうな笑顔で戻ってきたニケ様をみて、憎悪どころから殺意が湧いた私がいるのだから、だから私はこう思うようにしたの、私たちがニケ様といる事で多分とんずらしたミカンちゃんは幸せなんだろうなって……

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