第87話 オークとIKEAのホットドッグとキューバリブレと

「それそこ! うおー! やったあああ! 同点のホームランなりぃ!!」

「村神様、ここに復活であるな!」

「わふー! 昨日のメキシコ戦に続き凄いのですぅ!」


 ミカンちゃんとルーさんはレプリカユニフォームをデュラさんはハチマキをして朝から熱烈に日本代表を応援中。なんというか野球とか私は全然興味なかったんだけど、イケメンが多いのと国際大会ってなんか野球に限らず面白いからついつい見ちゃうわね。

 私の場合はにわかファンにならないようにあんまりはしゃがないようにしてるわ。


「かなりあー! 勇者お酒のんで応援したいかもー!」


 と言ってドンと3割値引きシールが張られたバカルディのホワイトラムを取り出すミカンちゃん。そのボトル兄貴のお酒保管庫に何本かあったんだけどなぁ。野球観戦といえばビールみたいなイメージがあるんだけど、ラムかぁ。


「キューバリブレでも作りましょうか? 確かコーラとライムも何個かあったわよね。となるとオツマミかぁ、というか朝っぱらからお酒飲むってガチで落伍者みたいね……」

「それには及ばない! 勇者、IKEAでこれ買ってきたり!」


 ドンと次に取り出したのはIKEAのホットドッグセット、バンズ・ソーセージ・ピクルス。そしてあの鮫のヌイグルミもちゃっかり買っているミカンちゃん。あとで邪魔になっても知らないわよ。


「よし! じゃあ、朝食兼野球応援飲み会しますかー!」

「「「おーー!」」」


 IKEAのホットドッグは美味しいんだけど、私はひと手間かけるわよ。刻んだキャベツをカレー味で炒めてチーズを絡めるの。で湯煎したソーセージとチーズカレーキャベツをバンズに挟んでオーブントースターでチン。最後にピクルスとケチャップとマスタードをかけて完成!


 がちゃり!

 さぁ、今日は誰がやってきたのか……


「ちょっと誰か見てきてー!」

「分かりましたぁ! 犬神さまぁ!


  お利口さんのルーさんが玄関に走っていく。そこで、


「ぶひー! ちょっとなんでルー・ガールがこんなところにいるが! ま、まさかオデを食べようとして、やめてけろ!」

「ち、違いますよぅ! 私はそんな事しませんよぅ!」


 さぁ、誰がきたのか……えっ? ええ?

 そこには巨大な豚のような顔をした大男? でも凄い気が弱いのか頭を隠して震えてる。そんな滅茶苦茶強そうな怪物を見たデュラさんとミカンちゃんは、


「なんだオークなの」

「オークであるな!」


 あぁ、オークさんね! イメージとしてはとんでもモンスターかと思いきや森にで迷った人を出口まで誘導してくれる亜人か妖精だったっけ? でも凄い豚感ね。ソーセージ何本分くらいになるのかしら……。


「驚かせてごめんなさい! オークさん、私はこの部屋の家主の犬神金糸雀です! みんなここに迷い込んできちゃうんですよ。どうせなんでゆっくりしていってくださいね」


 私が笑顔で微笑むとオークさんは、


「オデ、こんな美しい人間の娘さんみたのははじめてだぁ」


 とか褒められるので、


「えぇ、ほんとですかぁ~えへへ、そんなそんなぁ」


 あんまり褒められ慣れしていないから、顔が豚でも男性にこんな事言われると超アガるわねぇ。案の定そんな私を見てミカンちゃんが「かなりあきもーい」と辛辣な事を言ってくるけど無視よ無視! ミカンちゃんみたいにちやほやされた事がない私はこういう時くらいテンションあげてもいいでしょ! とまぁ、役者も揃ったので、


「じゃあお酒作りますね!」


 冷蔵庫からコーラ、クラッシュアイス、ライム、そしてホワイトラム。それらを混ぜてお手軽に完成。確か世界一飲まれているカクテルだったかしら? 

 みんなにカクテルが行きわたった事で私はロンググラスを掲げて、


「じゃあ貪欲に! 日本代表の優勝を願って! かんぱーい!」

「「「「かんぱーい!」」」」


  コーラにラムとライムが香る割と万人受けしやすいお酒なのよね。炭酸が苦手な人以外は大体美味しく飲めるわね。


「うわぁあああ! 口の中が爆発したぁあ!」


 オークさん、強炭酸に驚いてそう叫んじゃった。ミカンちゃん達の言う麦酒も炭酸のお酒だと思うんだけど……


「はっはっは! ここまでキツい炭酸は我らの世界にはないであるからな! オーク殿。ここは異世界、そして異世界の酒と珍味である! 心してかかると良い!」


 あぁ、まぁ異世界のみんなからすれば私たちの世界は異世界よね……ややこしいなぁ。


「うきゃああああ! 勇者コーラ好きー! そのままもお酒に割るのも好きー!」


 ミカンちゃんのコーラとエナドリの消費量は半端じゃない。ゴミの日にコーラとエナドリだらけの袋を捨てに行く私の身に少しはなってほしいわ。


「うむ! ラムコークであるな! うまい」

「はぁああ。私もこれ大好きですぅ!」


 みんなが一杯楽しんでいる中、日米戦ではさらに日本が一点を追加してミカンちゃんとデュラさんが大盛り上がり。


「「うぉおおおおおお!!」」


 異世界の人って喜び方がアメリカンよね。そんなアメリカンなみんなにアメリカの国民食。ホットドッグを、


「はい! 沢山あるから遠慮なくどうぞ! 炭酸系のお酒との相性は抜群よ!」


 お肉大好きなルーさんは大きく口を開けてぱくり! もぐもぐと咀嚼しキューバリブレをごくん。


「やーん! 美味しいですぅうう!!」


 みんなを見て、あまり食が進んでいないオークさんに私はホットドッグのお皿を持っていく。


「オークさんもどうですか? 美味しいですよ!」

「これは何だべか? 肉のようだけんども?」

「これはソーセージと言って、ブタ……んんっ」


 これは前のクラーケンさんの時と同じ共食いフラグじゃ。でもオークさんってそういうの気にせずに食べそうなんで言ってみる。


「私たちの世界の豚という生き物のお肉で作った食べ物です」

「とんでもねぇ! オデは野菜とパンしか食わねんだ!」 


 ほほー、異世界にもヴィーガンがいるのね。じゃあソーセージを外してカレー風味のキャベツドッグなら!


「これなら食べれるでな? いただきまーす! おぉ! こりゃうめぇ! さっきはびっくりしたけんども、この酒もうめぇなぁ! 金糸雀さはいい嫁になるでな?」

「えぇ、本当にぃ? 誰にでもそんな事言ってるんでしょ?」

「んな事たぁねぇ! 嫁に欲しいくらいだぁ!」


 パパ、ママ! 初めてプロポーズされちゃったわ! 豚の顔をした男性だけど!


「もう! オークさんお上手なんだからぁ! グラス空いてるじゃない! 入れるね?」


 私がオークさんにそうやってお酌してカレーキャベツドッグをあげるものだからルーさんが嫉妬して割ってきたの。


「犬神様ぁうるうる! 私もお代わりぃ! あのホットドッグぅ!!」

「はいはい、ごめんねぇ」


 そんなルーさんを見てオークさんは口元をにぃと笑うと言った。


「安心しなっさい! ルーさん。もうちと早く出会っでたらオデも求婚したっけど。来月、森の一番美人のオークと結婚するでなぁ! はーはーだ! こんなうめぇ酒、うめぇ飯を食って、こりゃ夢だな?」


 そう言ってほっぺたをつねって私たちになんだか古臭い笑いを提供してくれるオークさん。私のイメージのオークとかけ離れた彼を見ていると、異世界物のオークの設定って何処から来たんだろうとちょっと疑問に思うわね。


「おっ! 勇者とデュラハンの親分がえれぇ静かだんね?」

「あぁ、日本が優勝するかどうかの局面みたいですね!」


 私たちも静かに大谷選手がアメリカを象徴するようなスター選手のマイクトラウト選手から三振を取った瞬間! ミカンちゃんはデュラさんの首を抱きしめて!


「「「「「おぉおおおお!」」」」」


 私たちはその世紀の一戦に皆心が一つに繋がったような気がするわね。

 再びキューバリブレで祝杯!


「「「「「優勝おめでとう! かんぱーい!!」」」」」


 私は兄貴のリカーラックにあるお酒を一本と家に余っている野菜とかをオークさんにあげて結婚祝いとして、


「こーんな! えれぇもんもらっちって悪いねぇ? また森に来たときはおでがひっくり返るくらいご馳走用意すっからなぁ? ありがとう! みんな! さよならだ!」

「さよならー!」


 私たちは興奮冷めやらぬ中、オークさんを見送る。野球なんて知らない異世界のオークさんでも興奮したあの試合を胸に、これから昼呑みでもしに行って語り合おうとした時、恐怖の扉は開かれた。


 ギィと……あぁここから出てくる者と目を合わせてはいけない。

 なのに何故かしら、私たちは私の部屋の玄関の扉から目を離せないでいたのね……

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