第110話 ドッペルゲンガーとチャプチェと淡麗極上生と
皆さん、芥川龍之介という小説家について名前くらいは知っている。何作か読んだ事あると思われるでしょう。芥川龍之介はその独特な作風と真面目な本人の性格から病みやすかったと思われます。
ドッペルゲンガーを見たとか言って服毒自殺したと言われていますが、私は小説家というお金にならない仕事、未来への不安のようなものがそれらを見せられ精神的に参ってドッペルゲンガーが見えたかのように感じ、命を経ったというのが私が考えうる芥川龍之介のストーリです。
私は本日、ミカンちゃんとデュラさんが上野動物園に行くというので、大学の課題もあったので一人の時間を過ごしていたのですが、玄関を開けると、私がいるじゃないですか……
「誰、この美女!」
私の第一声、自分を見たらこれって絶対言わなきゃいけないやつよね? きっとミカンちゃんあたりがいると、かなりあきもーいと言ってくるでしょうね! やかましいわ!
「あれ? 私の家に帰ってきたら私がいるんだけど……」
「モンスターというわけじゃないのよね?」
「そういう貴女? 私もモンスターじゃないのね」
玄関でそんな話をするのもアレなので、私は私に部屋に入るように伝えた。それもそうねと私は部屋に入る。
「唐突ですがここで金糸雀クイズ! 私が小学校の頃に好きだった男の子の名前は?」
「俳優の鈴原虎太郎」
「正解! じゃあ貴女から私に」
「兄貴の友達にバーテンダーがいるけど、ボロクソにまずいと言っていたハイボールにするウィスキーの銘柄は?」
「信じられない事だけど、角瓶」
「正解!」
十分ね。これ私だわ。私たちはリビングにある私のテーブルの上で二人で時系列を合わせてみた。今日の日付、前日に食べた物。
私が先ほど進めていた課題。そこで私は分かった事がある。私の時間軸が正常だとすると、今目の前にいる私は未来から来た事になる。未来と言っても数日後の私。逆に言えば目の前の私が正常だとすると私が過去の私となる。
「私は、数日前に私と出会ったの?」
「ううん、出会ってないわ。どうでもいいけど、パラレルワールドが立証されたかもしれないわね」
「どちらかと言えば未来分岐点みたいなのがあるんじゃない? とりあえず何か呑む?」
「飲む呑む! ミカンちゃんとかは動物園か!」
私は冷蔵庫を開けると、淡麗極上生が私たちに飲んで欲しそうにこっちを見ているので、今日のお酒はこれね。すると未来の私は冷蔵庫から食材を適当に取って「おつまみはチャプチェでいい?」「うん、お願い」と流石は私、凄いコンビネーションね。双子を超えた反応と言っていいかもしれないわね。
味付けは料理酒、味醂、醤油、オイスターソース、おろしニンニクにおろし生姜……完全に私のレシピだわ。冷蔵庫の野菜とかを適当に切って味付けタレにお肉を漬け込む。その間いに春雨を茹でる。
うん、私の作り方の順番ね。
「私、できたよー!」
「ありがとう私、ほんとこんなできた女の子、どうしてモテないのかしら?」
「ほんと世界の謎よね? 私って可愛いか、可愛くないかというと、可愛いよりよね? きっと……多分」
「私、何か悲しくなるからその話題やめない?」
「そうね。ごめん」
なんだろう。相談相手に私っていいわね。配慮? そういうのを感じるわ! 二人で並んでチャプチェを前に淡麗極上生を開ける。
「ほいじゃあ私に乾杯!」
「かんぱーい!」
カチンと私達は缶をぶつけ合いそして発泡酒の淡麗極上生をぐいっと呑む。生ビールとあまり変わらないくらい発泡酒は美味しくなった。特に生き残ってきた淡麗は本当に頑張ったわね。
「「ぷひー! これだぁああ!」」
息ぴったりで私達は声をあげると再び缶を無言でコツンとぶつけた。そしてチャプチェ、何だろう。こんなに食べる前から安心感のあるチャプチェがあるだろうか? だって私の作った料理なんだもの。
「はっきり言うわ。私」
「どしたの私?」
「この味、私じゃないと再現不可! おいしー!」
「自画自賛、かなりあきもーい!」
「ミカンちゃんのモノマネ? じゃあ私も、うみゃああああ!」
私達はチャプチェをおつまみに極上生が進む。甘辛いような、翌日のすき焼き感を感じる私の作ったチャプチェの味付けがお酒が進むわ。それにしても今日は異世界からのお客さんどころか、ニケ様もやってこないわよね。
「何かさー、ドッペルゲンガーを見たら死ぬとか言うじゃん?」
「言うわね?」
「今の私たちってノーカンなのかしら? ドッペルゲンガーどころか本人じゃない」
「そもそもドッペルゲンガーの定義って何なのかしら?」
それよね。私達はチャプチェをおつまみに、二本目、三本目あたりまだ極上生を飲みながらドッペルゲンガーについて議論した。
私と数日後の私が同じ席で食事をしているという事で、数日後に私が死ぬという状況は否定、回避されていると思われる事。
「とはいえ、数日後の私? がその数日後に死ぬかもしれないじゃない」
「それもそうね。じゃあこの議論は振り出しに戻るか」
この時は思わなかったけど、すっごいバカな議論を私達はしていたの。だって私と私なので、私の知識以上のことは絶対出てこないわけなのに、ドッペルゲンガーという物に関して私達は再三、話し合った結果。
「ドッペルゲンガーはいないわね。うん」
「そうね! 私、イカの塩辛あるけど食べるわよね?」
「もちのロンよ」
小皿にイカの塩辛を出して箸休めに摘む。そして同じタイミングで極上生をグイグイと飲み干す。何だろう? ミカンちゃんやデュラさんといる時とは違って、一人でリラックスしている時のようであり、私という話し相手がいるこの状況、何かいいわね。
「そう言えばさ、酒盗ってどうして使い切る前にまた買っちゃうのかしらね?」
「あるあるね。一つの瓶に纏めちゃったりして、消費期限とかうやむやよね」
「そうそう!」
自分のズボラあるあるを自分と話す機会なんて超レアね。どうやら異世界と繋がっていたと思える私の部屋の扉、あれって時間まで飛び越えちゃうのかしら? まぁ、どうでもいいけど。
「まだ呑む?」
「呑むー!」
「知ってたー」
「やっぱり?」
冷蔵庫からもう一パック淡麗を持ってくると、面倒臭いのでそのまま三缶ずつ飲む事にして、ほろ酔いの私は私に言う。
「一番最初にクルシュナさん来た時、あれなんで来たんだろうね?」
「今思えばあれが始まりだったわよね? クルシュナさん元気かしら? 同じ人が来る事ないわよね?」
「だよねー! 今なら前に来た人とか超、おもてなしするのに」
私が話し相手だとお酒進むわー! もう一パックくらいいけるかしら? そんな事を考えているとガチャリ、
「ニケ様?」
「どうだろ、見てくるね?」
「いや、私も行くよ! 絶対ニケ様びっくりするんじゃないかしら?」
それもそうね! 私達は悪い顔をしてニケ様をお出迎えしに行った。
しかし、玄関にいたのはニケ様じゃなかった。
「えっと……貴女は誰かしら? 何かすごーい、美女に見えるんだけど」
「うん、そうね絶世の美女ね」
妙に黒い瘴気を放っている私に似た何か……これってもしかして、ガチのドッペルゲンガーでは……
「「ミカンちゃん、デュラさん、早く帰ってきてー! というか、この際ニケ様でもいいからきてー!」」
私達を見て、ドッペルゲンガーはニヤリと、声を出さずに笑った。笑ったのだ。私は、いや私達とはとりあえずビビる心臓を抑えながら、というかもう結構酔ってるんだけど……
「「あの、良かったら何か飲みますか?」」
こう言わざるおえなかった。
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