第105話 GW特別編 ダンタリアンときのこ、たけのこ戦争とロンサカパ23年と

 ピーンポーン!

 ピンポーン!

 ピンポーン!

 ピーンポーン!

 

 うるせぇ!

 

 私の家、基本的に異世界からの人ばっかり来るからインターフォンが押される事ってないのよね。どうせ、宗教勧誘かNHKの勧誘とかでしょ?

 そう思ってカメラを見ると……そこにはピンク色のロングの美人、居留守しよ。この人は何人かはわからないけど、兄貴の知人のダンタリアンさん、名前的にフランスの人かしら?

 そういう名前の悪魔もいるけど、あれって17世紀のオカルト本に記されていたから多分、16世紀のフランスにいた三銃士のダルタニャンあたりが元ネタじゃないかと思ってるのよね。

 

 ピンポン、ピンポン、ピンポン、ピンポン!

 鳴り響くインターフォン。警察呼ぼうかしら? そう思った時、ミカンちゃんが解除ボタンを押してしまった。オートロックが開かれるや否や、インターフォンの鳴る音は止み、代わりに1分後に廊下を走る音。

 そして、

 

 ドンドンドンドンドンドン!

 

「ちょー開けてよー! 文無しでさー! 家帰る金ねーから泊めてぇ! もしもーし!」

 

 無視をしていたら、カチャカチャと玄関から音がする。そして、ガチャリと扉が開かれた。

 

「はーい! みんなのぉ? アタシのぉ! だーん! たーり! あーん! ワォ!」

 

 来やがった! 兄貴の友人のパリピ一号。ダンタリアンさん。入ってきたダンタリアンさんはバーテンダーのような胸元の開いたエロい格好。クソ美人なのに人を小馬鹿にしたような表情、縦割れしたパープルアイが特徴的なまさに小悪魔といった女性。

 

「あれ? 犬ちゃんは? カナちゃんだけぢゃん」

「私も一応犬ちゃんなんですけど、兄貴はどっか行ったのでお引き取りください」

「えぇ! 固い事言うなよー! これ持ってきてやったんだからさー!」

 

 少し期待してダンタリアンさんの持ち物を見ると、きのこの山とたけのこの里。そんなダンタリアンさんを不思議な生物でも見るように見つめているミカンちゃんとデュラさん。

 

「えぇ! 異世界の人と異世界の魔物来てんじゃん! ウケるー! なにここ? 不可視境界線? もうはやんねーって! プププ! よろよろー! アタシは! ここの家主の酒呑みマブダチ だーん、たーり、あーん!」

「勇者ミカンなり! 大悪魔!」

「おぉ、大悪魔殿であるか! 我は魔王軍大幹部、デュラハンである!」

「首だけじゃん! よろしくねー!」

 

 えっ? しれっと異世界の人と知ってたり、二人から大悪魔とか言われてるけど……ダンタリアンさんってそっち系? いや、まさかね。兄貴と飲みすぎて翌日ゲロ吐いてるヤバい女の人よ。でも異世界のくだりくらいは聞いておこうかしら? もしかしたらこの部屋の秘密が!

 

「あのダンタリアンさん、異世界とか何か知ってるんですか?」

「ううん、知らないよ。アニメとかの設定じゃん! しんねーの? カナちゃん、それよりアタシのボトキー飲もうぜ! あー、これこれ! 最高のラム! ロンサカパ23年」

 

 下段にあるボトルキープの高級ラム。それってダンタリアンさんのお酒なの? この人、もっか焼酎派じゃなかったっけ? そんな確認をする前にダンタリアンさんはロンサカパ23年を開けると、勝手にグラスを用意して、

 

「ウェーイ! 飲もうぜ! ミカンちゃ、デュラちゃ! ほれ、カナちゃんも」

 

 すごいペースに乗せられて私たちはグラスを掲げる。

 乾杯の音頭は取らずにショットグラスをカチンをぶつけてきゅっと一口。

 や、や、やべー! 

 このラム……

 

「うきゃあああああ! うみゃあああ!」

「フハハハ! こんな美味いラム酒があるのであるな……」

「でしょでしょ? こいつはやべぇよ! さぁ、じゃあおつまみねー! 永久に戦争状態のお菓子さ! 人間という連中は争いが好きよね! というか、杉のこの村の事、思い出してあげなさいよ!」

 

 小枝が生まれた事でラインナップから無くなったわ。それにしてもまた、こんな美味しいラムに駄菓子をぶつけてくるなんてどうかしてるわ!

 と、私が一端のスノップ(お酒の知識をひけらかす人)気取りでいたら、ダンタリアンさんが話し出した。

 

「いいウィスキーは安い飴ちゃんとかさ、いいブランデーやラムは安いチョコ菓子とか妙に合うのよね。お互いいいのだとどっちが主役かわかんなくなるでしょ? そういう時には日本のお菓子は味もそこそこいいから丁度いいのよね」

 

 そうだ。この人は兄貴と同じで酒狂いなのだ。私なんかとは飲んできた酒の種類も知識も量も合うペアリングの試し方も全てが凌駕しているのだ。ぽりぽりとたけのこの里を食べてラムを含む。

 くっそー、よく合うなぁ。

 

「勇者、きのこの山が好きなりぃ!」

「我はたけのこの里であるな!」

「プププ! 戦争勃発じゃん! じゃあミカンちゃとデュラちゃの意見をどうぞー!」

 

 出たよ。この揉める必要のない謎の戦争。私? 私はどちらかといえばたけのこの里を買う事が多いかしら? クッキーっぽくて甘いのよね。でもきのこのビスケットみたいな歯応えにミルクチョコレートも捨てがたいわ。

 

「チョコレートが多いなりぃ! 噛んでいる感も勇者スキー!」

「我はあれであるな。子供向けのお菓子らしい甘さを感じ、口の中で溶ける感じが良い! このラム酒にもよく合うである!」

 

 ハチミツを思わせる粘度に、果物やナッツ類、でもダークラムなのでコーヒーやココアみたいなロースト感も感じるのよね。そりゃ、こんなのどんなチョコレートでも合うわよ。

 

「いやぁ! アタシは口に入ればなんでもいいけどねー!」

 

 ポイポイときのこの山とたけのこの里を口に放り込んで、ラム酒をぐいっと飲み干すダンタリアンさん、そしてすぐにラムをグラスに注ぐ。でも私もデュラさんもミカンちゃんも止まらない。

 

「「「おかわり!」」」

 

 このロンサカパ23年しかお酒を置いていないバーという物もあるくらいラム酒の王様と言えるロンサカパ。これってカクテルとかにしたらどんな味になるのかしら……

 

「勇者しゅわしゅわで飲みたいー!」

「よぉし! じゃあトニックウォーターで割ってあげよう!」

 

 ウチの部屋のトニックウォーター置き場も知ってるのが兄貴の友達らしいわね。続いてショートグラスを取り出して、レモンジュース、シンプルシロップ、ロックアイス、そしてロンサカパをシェイカーに入れてショートグラスに注ぐ。

 

「はいデュラちゃはサカパサワーよ! カナちゃんはどうしよっかな」

 

 砂糖、をライムで溶かして、そこにペパーミントを潰す。その後、氷、ロンサカパ、炭酸水を入れて軽くステア。

 モヒート!

 

「カナちゃんミントジュレップ系好きだもんね! アタシは、ストレートに限るけどさぁ」

 

 それぞれ、好きな飲み方で高級ラムを口にして、時折きのこの山やたけのこの里を口に入れてお酒を楽しむ。こういう楽しみ方を久しく忘れていたわと私は静かに外を見る。

 思えば、このダンタリアンさんには葉巻バーでお酒を飲みに連れて行ってもらったり、異世界とは関係のない外国のちょっとヤバい美人だったわ!

 

「いやー! 飲んだ飲んだ! お菓子ももうねーし! 帰ろっかなぁ! じゃねー! みんな!」

「えー、帰るの? 勇者、大悪魔とババ抜きとかしたいー!」

「それは次回にしようぜー! んじゃ、デュラちゃもカナちゃんもバイバーい!」

 

 そそくさと帰っていくダンタリアンさん、私の見間違いでなければ背中に小さな悪魔の羽が生えていたんだけど……きっと飲みすぎたからよね? そうに違いないわ! だって普通に玄関から出て行ったし、異世界の人じゃないわ。

 

「もう、お酒飲むだけ飲んで行って……片付けもちゃんとしてよねぇ……」

 

 そう言いながらグラスを片付け、空になったロンサカパ23年のボトルを箱と一緒に処分しようとした時……私はとんでもない物を見る。このお酒、ダンタリアンさんのボトルキープじゃねぇ……

 ちょ! あの人なにやってくれてんのよ! いろはさんでもそんな事しないのに……恐る恐る下段にあるどこででも売っている蕎麦焼酎の裏を見ると、そこにダンタリアンと書かれていたので、ダンタリアンさんは確信犯的にいいお酒を飲んで出て行きやがった……最近お酒出荷規制かかってるのよ!

 私は泣く泣く、同じ物をアマゾンでポチって、ダンタリアンさんに文句を言ってやろうと思ってスマホに登録している電話番号にかけた。

 

“おかけになった電話番号は現在使われておりません。もう一度番号をお確かめの上〜“

 

 ぐあぁああ! クソがぁ!

 

 私はゴールデンウィーク早々、大悪魔によって被害を被ったのであった。そんな私に追撃してくるかのように扉が開く。

 

「みっなさーん! 女神が来ましたよぅ!」

 

 次から次に……私はダンタリアンさんの蕎麦焼酎をニケ様にボトルごと渡すと、静かにこう言った。

 

「これもって帰ってください」

「え? 金糸雀ちゃん? え?」

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