第104話 バランスブレイカーと余り物ホットサンドと神戸ハイボールと
月末、生活費はバイト代とミカンちゃんが入れてくれるお金でそこまで困っていないんだけど……三人で生活していると微妙に料理に力を入れちゃうのよね。そうなるとまぁ、割と余るのよ。食材が……
冬なら全部掘り込んでキムチ鍋にでもすればいいんだけど、暖かくなってきたし、アレ使いますか!
「じゃじゃーん! 直火でも行けちゃうホットサンドメーカー! ダイソーで1000円で売ってたわ!」
「うぉーーーー! それは! 憧れのホットサンドメーカーであるな!」
うんうん! デュラさんなら喜んでくれると思ったわ! ミカンちゃんは、プリキュア見て仮面ライダー見てるわね。
「プププ! この絶妙に下手な演技が癖になりっ!」
それは演技云々じゃなくて、イケメン俳優を世に輩出する為の登竜門であってストーリーとか演技とかどうでもいいのよ。子役上がりの俳優とかだけ異様に演技がうまくて不自然感がもりもりになるのがまたオツなのよね。
私? イケメンが見れればそれでいいけど。あぁ、ターゲットは私みたいな面食いと仮面ライダーがテレビの画面で動いていれば喜ぶ男の子と大人になれなかった大きいお友達ね。
ガチャリ。
「はいはい! ミカンちゃん出てきて!」
「えぇ! 勇者、今からワンピ見れり」
「ハードに録画しておきなさい」
完全に日曜日の小学生の一日ね。ミカンちゃんは渋々玄関に向かう。そしてミカンちゃんは「やばし!」と叫ぶ。私は余り物の野菜や、ベーコン、卵、スライスチーズと材料を取り出していると、デュラさんも「金糸雀殿、ここより動かずに隠れているといい。魔王様級の何かが来たである」
ドラゴンのレヴィアタンさんとかが来た時のビビり具合。またなんか凄い種族の人でもやって来たんでしょう。
だって、玄関の方で……
「我が至高の暗黒魔法。魔王様直伝・ファイアーバグ!」
「勇者必殺の! 光の魔法剣なりぃ!」
とか騒いでる声が聞こえる。玄関壊さないでよ? 私は野菜を切って「ちょっとぉ!」と二人を注意しようとすると、
「おいおいおいおいなんだなんだ? 落ち着け」
低く、それでいて落ち着いた声。ミカンちゃんが後退りリビングダイニングに戻ってくる。デュラさんも同じくフヨフヨと浮いて、アレね。二人で太刀打ちできない系の人来たのね。異世界ってどうなってるのかしら?
そして入ってきたのは……えぇ! えぇえええ!
イケメン!
「ここ日本だよな? なんでお前らみたいな奴らがいるんだ?」
そこには薄い緑の着物を来た男性。年齢はどのくらいかしら? 二十代後半くらいかしら? いってても三十代ね。あと金髪っぽいけど日本人かしら?
説明しよう。
私はイケメンや美人がくると声がワントーン高くなるの。
「あっ、いらっしゃいませ。散らかってますけどどうぞどうぞ! そこのソファーに」
「か、かなりあきもーい……」
「金糸雀殿、風邪であるか? いつもと声が違うである」
目の前の脅威を前にして二人ともツッコミはしてくるのね。五月蝿いわよ! 基本的にイケメンと美人を前にしたら態度変えるに決まってるじゃない!
「覇王種と見受ける……何用か?」
「バランスブレイカーなり……勇者とデュラさんの必殺技をどうすれり?」
よく見るとこのイケメン、右手に何か凄い力を乗せてるけど、これがミカンちゃんとデュラさんのさっきの魔法的な何かなのね。それを思い出したように見るとイケメンは、
「あぁ、これか? んっ。お前ら危ねぇから家ん中でこんな力使うな。母ちゃんに言われなかったか?」
握り潰したわ。あれかしら? 俺TUEEEEE的な? ミカンちゃん顔面蒼白、デュラさん開いた口が閉じなくなっちゃった。
「えっと、私はこの家の家主の犬神金糸雀です」
「あぁ、犬神な。俺は……」
「先生なりぃ!」
「うむ先生という感じであるな!」
「あー、まぁそんな感じだな」
えぇ! 名前! 名前教えてぇ! 謎のイケメン、先生と二人に呼ばれて、デュラさんが「先生よ。本日は食事を食べていくといい。酒も中々の揃いであるぞ」「俺は酒は飲めない」「ならコーラを出せり!」
ミカンちゃんとデュラさんの強者であり優しい相手への懐く速度の速い事。犬みたいね。先生の横に座るとミカンちゃんとデュラさんが先生は何をしているのかを尋ねる。
「政府の仕事で異世界に逃げた犯罪者を追っててな」
えぇ? そういう仕事って存在するの! 私は聞き耳を立てながら薄めに切った食パンに千切りキャベツ、ベーコン、目玉焼き、中にケチャップを入れてプレス。弱火で両面が狐色に変わったらお皿に出して四等分。
二つ目は、トマト。ソーセージ、スライスチーズ、ピーマン。薄めに切った食パンにケチャップとタバスコを混ぜた即席ピザソース。でプレス。同じく両面狐色になったら四等分。
「お待たせしました! 第一陣でーす! そしてお酒は……」
ブラックニッカディープブレンドを冷凍庫に放り込んでたのよね。本日は神戸ハイボール。氷を使わずに冷やしたウィスキーと冷やしたグラス、冷やした炭酸水で作るキンキンに冷えてるハイボールね。
先生は下戸なので、ノンアルコールカクテル。
「先生はコークジンジャーです」
「あぁ、ありがとう」
「じゃあ、素敵な先生と冷蔵庫の残り物達に乾杯!」
かんぱーい! とゴクゴクとミカンちゃんは飲み干して、
「うみゃああああ! 頭キーンってなり!」
「ほほー、氷がないハイボールというのも美味いであるな」
「コーラにジンジャエールか、何年振りに飲んだろうな。うまいなこれ」
レモンとライム絞ってますからねぇ! 気に入ってもらえて嬉しいです! じゃあホットサンド行きましょうか!
「どうぞどうぞ、ホットサンドも炭酸系のお酒やジュースに合いますよ!」
外はサクサク、中はふわっ、そしてむにーっとチーズが伸びて、これはミカンちゃんにドストライクかしら。
「うんみゃあああああ! 勇者、超スキー!」
「おぉ、美味いな。あと懐かしい味だ」
「えぇ、そうですかぁ。先生が来るの知ってたらぁ、もっといい料理用意したんですけどぉ、松阪牛とかぁ」
買った事ないけど……ミカンちゃんが私を見てキモいキモい言ってるのは無視よ。ピザ風ホットサンドに口をつけながら先生は、
「金糸雀だったか? お前、兄貴いるだろ?」
「え? もしかして兄の知り合いですかぁ?」
「あぁ、あいつが小学校かそこらの時にちびっ子キャンプの引率した事があってな。あの時、成人してたの俺だけだったからなぁー」
えっ? 兄貴が小学校の時に成人してたって、先生今何歳……私の中に謎の懸念を感じた時、ホットサンド第一弾が終わったので、デュラさんが、
「次は我が作ろう!」
デュラさんはS &Bのカレー粉。玉ねぎともやしを潰して塩をまぶす。ツナ缶。からしマヨネーズ。やるわねデュラさん。隠し味に七味ね。私の作った王道の次に食べるからスパイス系でせめるのね……二枚目はりんご、もしかして……フードプロセッサーで潰したりんごと砂糖、シナモンを混ぜる。薄切りにした食パンにバターを塗って、りんごのペーストを塗るとプレス。
インド風ホットサンドに、アップルパイ風ホットサンドね。ミカンちゃんが「ハイボールお代わりなりぃ!」というので、私とデュラさんの分も作って、先生はまだ半分くらい残ってるけど、2杯くらいは飲むでしょ。準備だけしてデュラさんのホットサンドを楽しむわ。
「んまーい! デュラさんこれ殆どアップルパイよ」
「はははは! 金糸雀殿が早くに学校に向かわれる際、勇者の朝食係の時に何度か作り試行錯誤したであるからな! アップルパイと違って煮込んだ林檎を使うよりペーストを塗った方がそれっぽくなるである」
「デュラさん! よくぞここまで高めたり!」
ミカンちゃん、貴女食べるの専門でしょ? どうしてそこまで偉そうになれるのかしら……「おぉ、これも美味いな。デュラさん、首だけで器用に作るな」殆ど表情が変わらずに黙々と食べて、モクテルをコクりと飲んで喉を通す先生。イケメンってなんで物食ってるだけでカッコ良いのかしら?
デュラさんのカレー味のホットサンドもかなり美味しい。流石に四等分とはいえ、ホットサンド一枚分食べるとお腹一杯になって来たわね。
「ふっ! 勇者が作れり!」
嘘でしょ。ミカンちゃんこの前袋麺作れるようになったレベルじゃない。止められなかった私、ミカンちゃんはパーンとポテトチップスコンソメパンチをパーティー開けしてる。コーンの缶詰、さっき私が切った千切りキャベツの残りをさらにみじん切り……マヨネーズを両面に塗った食パンにコンソメポテチとコールスローもどきを挟んでプレス。
「できたり! かなりあー、シュワシュワおかわリィ!」
「はいはい。先生もお代わりどうですか?」
「あー、お茶もらえるか?」
「烏龍茶なら」
「じゃあ烏龍茶を」
ミカンちゃんの作ったゲテモノホットサンド。私は神戸ハイボールを一口飲んで、恐る恐る。デュラさんは普通に、先生は変わらずに無表情で……
実食!
「んんんっ?」
「…………これは……はははっ」
「あぁ、普通に美味いな」
「うんみゃあああああああ!」
そう、恐るべき事にミカンちゃんのホットサンド、多分私やデュラさんのより美味しかったのである。何これ? なんかこう……凄い凹む。
流石にパンはお腹に溜まるわね。食休みしていると先生が懐から古風な財布を取り出して一万円札を取り出し私に渡すので、
「いやいやいや、いいですよ! こんなの残り物で日曜日の朝にみんなでご飯食べただけじゃないですか!」
「朝から酒飲むのか」
「……そ、それは」
「ふ、兄貴にそっくりだな。じゃあご馳走になった。そろそろ俺行くわ」
笑った顔もカッコいいとか先生何者なのぉ!
やだぁ、超イケメン。
「先生、またこれり?」
「うむ! 先生とはもう少し話したいであるな」
「あぁ……まぁ時間があって気が向いたらな。ちょっと探してる奴いて中々見つからないんだ。もしここに来る事があったら俺が探してたって言っておいてくれよ。ニケって女らしい。色んな国でクレームが出てて注意して欲しいって言われてんだ。なんか、食い逃げ? タダ飯やタダ酒食らってる厄介な奴でな。じゃあ俺行くわ」
そう言って先生は去って行った。それから数日の間、私たちはニケ様が来る度にニケ様にこう言われる事になる。
「なんですか皆さん! 生ゴミでも見るような目で女神を見て! 恥を知りなさい!」
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