第106話 オオトカゲともんじゃ焼きとシャンディガフと

 とても粉物が食べたくなる日ってあるわよね? 部屋の片付けをしているとホットプレートが出てきたので私の今日の気分は粉物。

 お好み焼き? 焼きそば、パンケーキなんかもいいわね。ミカンちゃんがドンキホーテで買ってきたお菓子の中にベビースターが入っていたので、今日はアレにしましょうか!

 

「本日はもんじゃを作ります」

「ほう! 文字焼きなる食べ物からもんじゃになったという東京下町のソウルフードであるな!」

 

 凄いデュラさん詳しいわね。ミカンちゃんに至っては……

 

「うおー! 勇者もんじゃ好きー!」

 

 何処かで既に食べた経験ありと……まぁ、でもこの金糸雀さんの作るもんじゃ焼きは一味違うわよ! 冷蔵庫の中には鮭フレーク、チーズ。

 そしてミカンちゃんの買ってきたベビースターラーメン。丁度いいわね。

 

「ホットプレートの電源を入れて、オリーブオイルを使うわ! 牡蠣の缶詰とにんにくチップをパラリとアヒージョ感を出しておいて……」

 

 薄力粉と水、味の素を少々混ぜ込みます。刻んだキャベツ、鮭フレーク、チーズ、天かす紅生姜、そしてベビースターラーメンを中に入れてさらに混ぜる。それらをドーナッツ上にホットプレートに土手を作る。そして残りの生地と水分を真ん中にぐつぐつとしばらく焼いてあげて……

 

 

 ドンドンドン!

 誰か来たけど、ドアが開かないわね。

 

「ちょっとどっちか開けてきて!」

「勇者行けり! この感じはもふもふとみたり!」

 

 あぁ、手でドアノブ開けられない系の人来るんでしょうね。まぁ、人じゃないけど……それでミカンちゃん走って行ったのね。

 

「うぉおおお! ヤベェ奴が来たりと勇者は宣言せり……オオトカゲなりぃ」

 

 オオトカゲ? オオトカゲってなんだったっけ?

 私はあまりにも普通すぎる名称にそれが何か思い出せない。そんな時、デュラさんが叫んだ。

 

「なんと! あのオオトカゲであるか! 洞窟とかにいて冒険者と並の魔物であるとペロリと飲み込んでしまうあの! オオトカゲを見るチャンスなんて我なかったのでちょっと興奮であるな!」

 

 それ大丈夫な魔物? ペロリと私たち飲み込まれないでしょうね! この前のケルベロスさんみたいな大きさの来たらアウトでしょ。

 私はやや焦がし始めているもんじゃをザクザクと潰しながらミカンちゃんが戻ってくるのを戦々恐々と待っていた。


「ヒヤヒヤしていて勇者はオオトカゲ好きかもー!」

 

 小型犬くらいの大きさのみた事ない爬虫類をミカンちゃんは頭に乗せて戻ってきた。なんだろう。私爬虫類って別に嫌いじゃないし好きでもないんだけど、異世界の生き物ってなんか様になるのよね。

 オオトカゲさん、ドラゴンっぽいトカゲ。

 

「初めまして、犬神金糸雀です。でもオオトカゲさんってもんじゃ食べるのかしら? というかお酒は……なんか飲みそうな感じね」

「勇者しゅわしゅわ飲みたし!」

「このソース系には麦酒であるかな?」

 

 ビールね。このもんじゃという若干おやつ感のあるおつまみを相手にする際、ビールもいいけど、ここはちょっとお菓子感のあるカクテルにしましょうか!

 

「本日はシャンディガフを作ります! おすすめはインドの青鬼なんだけど今切らしてるので、プレモルにしようかな」

 

 シャンディガフは誰でも簡単に作れるカクテルね。ビールとジンジャエールをトゥワイスアップ、半々で割って飲むのね。そもそもジンジャエールがかなり主張する飲み物だからビールも個性的なので割ってあげるほうがいいって兄貴が言ってたわ。

 

「金糸雀殿! 牡蠣ももんじゃに混ぜ込んで焼くであるな?」

 

 ザクザクとデュラさんはもんじゃ焼きを完成に近づけてくれる。じゃあ私はお酒を完成させましょうか、シャンディガフにレモンを絞って、

 

「さぁ! 乾杯しましょ! オオトカゲさんは深めのお皿に入れましたので」

「ギュルルルルル!」

「おぉ! 飲む前から美味そうと言っており!」

 

 グラスをカツンと合わせ、オオトカゲさんのお皿にもコツンと合わせて、

 

 かんぱーい! 

 

 シャンディガフの喉越し、ビールが苦手な人でもグイグイ行けちゃうわけで……ビールが好きな人からしたらそりゃもう。

 

「ぷはぁあああああなりぃい! 麦酒みたいで麦酒じゃなし、クソうまし!」

「ほほー、面白い口当たりであるな」

「ギュギュギュ!」

 

 ではもんじゃ前のお神酒、シャンディガフを飲んだので、もんじゃの食べ方をレクチャーしようじゃないですかぁ! 小さなヘラで鉄板に押し付けて焦げたあたりでパクリと、そしてもう一度シャンディガフ!

 

 くっそー! なんて美味いんだ君たちは! 結婚ちしまえよ! シャンディガフともんじゃ。

 

「う、うまい! あっ魔法が!」

「うみゃああああああ! もんじゃ超つよつよぉ!」

「ほほっ! これは美味いであるな」

 

 ちょっと待ってちょっと待って! オオトカゲさん、人間になっちゃったよ? 鱗とか顔についているけど、まぁイケメンじゃない!

 

「オオトカゲさん、元々人間だったんですか?」

「いえ、悪い魔法使いに美味しい物を食べると人間になってしまう呪いをかけられてしまったんです」

 

 それは語るも涙、聞くも涙なお話らしい。私には分からないけど、デュラさんとミカンちゃんがよよよと泣きながらもんじゃ焼きを食べてる。

 まぁ、でも悪い事をする魔法使いっているのね。

 

「あの、まぁ今日は飲みましょう! その姿だとグラスの方がいいですよね?」

「金糸雀様、ありがとう」

 

 ほらぁ! イケメンに微笑まれるのってもう最高よね。というかさ、悪い魔法使い、グッジョブ! シャンディガフのお代わりを作っているともんじゃが無くなったので、二つ目を作ろうかしら、チーズと明太子。ネギにお次はポテチを潰して入れるわ!

 

「駄菓子をぶち込むというのがミソなのであるな?」

「最近はもんじゃ専門店とかではしないんだけど、昔は駄菓子屋で買ったお菓子を別料金払ってもんじゃ作ってくれるオヤツだったからね。基本駄菓子はマストで入れるわね。ベビースターが基本主流で、うまい棒とかたまに甘いお菓子入れる時もあるわよ」

 

 基本ソース味になるので、どちらかといえば塩っぱいお菓子の方がいいんだけどね。ミカンちゃんがある駄菓子を取り出した。

 

「これ、入れり!」

「それは!」

 

 お菓子という肩書きがありながらもご飯のおかず、お酒のおつまみにそのままなってしまう。

“さくら大根“

 

 私は細かくさくら大根を刻んで二つ目のもんじゃに混ぜ込んで焼いた。あぁ、これ絶対美味しいやつね!

 

「魔法とかミカンちゃんやデュラさんで解除とかできないの? まぁ、個人的には解除しなくていいけど」

 

 と本音を言う私に対して、デュラさんもミカンちゃんも無理との事。そんな簡単に呪いや魔法の類をホイホイと解除できるわけないとミカンちゃんに若干馬鹿にされたんだけど、大体アニメとかラノベとかだと瞬殺で解除できるじゃない。

 

「あぁ、でも美味しいもの食べるのはこの姿の方がいいですね。あっ、これお美味しいです。んぐっ、はぁ。お酒も美味しい」

 

 チーネギ明太ポテチ大根もんじゃ。んん、これは中々ジャンク感が半端ないわね。お酒が進むわね。

 そろそろ、この時間になると来る頃合いかしら? 私はビールに似ているジュース“こどもの飲み物“を冷蔵庫から出すと、

 

 ガチャリ。

 

「こんばんわ」

「……邪魔をしていいか?」

 

 ミカンちゃんがそそくさと逃げようと玄関に向かっていたけど、何事もなかったかのように戻ってきたわ。ニケ様じゃなくて、ルーさんとレヴィアタンさんが来たからね。

 

「いらっしゃい二人とも! さぁ、座って座って!」

「はぁ! 勇者焦ったぁ! クソ女神が来たかと思ったー!」

 

 ミカンちゃんはルーさんとレヴィアタンさんにオオトカゲさんを紹介。そして二人にシャンディガフを作ると、もんじゃ焼きの食べ方を教えて、二度目の。

 

 かんぱーい!

 

「わふ! おいしですぅ!」

「あぁ、これは美味い。しかしオオトカゲよ。貴様の魔法。解いてやろうか?」

 

 さっきデュラさんやミカンちゃんでは解けないという魔法をレヴィアタンさんは解けるという。それに固まる二人とオオトカゲさんの回答は、

 

「いえ、ありがとうございます。レヴィアタン様。でも結構です。人の姿になれる事で人と喋れますし、それに美味しい物も食べやすいですし!」

 

 ウフフとあははと私たちはもんじゃ焼きパーティーを楽しんでいた。シャンディガフといえど飲み過ぎればそこそこいい感じで回ってきて、やっぱりやってきたのはニケ様。

 

「こーん、ばーん、わー! みんなの勝利を願うニケ! 来ました!」

 

 ミカンちゃんはもう逃げる気も無くなったのか、レヴィアタンさんの横にさりげなく座り、ニケ様対策を、私はこどもの飲み物をグラスに入れてニケ様に渡してあげようとしたその時……

 オオトカゲさんを見て、

 

「嘆かわしい。誰がこのような魔法をかけたのでしょう。ご安心なさい! この女神ニケの力を持ってすれば、あなたの魔法解いて見せましょう! マジックドレイン!」

 

 あっ! ミカンちゃんは口をぽかんと開けたまま、デュラさんは見るからに悲しそうに、ルーさんは手で口を隠して、レヴィアタンさんは目を瞑る。

 オオトカゲさんは人間の姿から元のオオトカゲの姿に戻ってしまった。

 

「お礼は結構です。私はあらゆる者をちゃんと見ていますよ! さぁ、飲みましょう!」

「ギュルルルルル!」

「あら? 嬉しさのあまり興奮していますね! さぁ、みなさん食べましょう!」

 オオトカゲさんをレヴィアタンさんは優しく抱き抱える。そしてミカンちゃんが半泣きでニケ様に指を刺してこう言った。

 

「帰れり!」


 そんな一悶着が起きそうになったけど、レヴィアタンさんが加護として自由意志で人間に変身できるように取り繕ってくれたので事なきを得たわ。

 しかし、すげぇ!

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