第107話 フレッシュゴーレムとスーパーのお寿司とテキーラと

 デュラさんはお寿司が好きなのよね。ちゃんとしたお寿司屋さんのお寿司を注文する事は私の家では中々ないけど、デュラさんは回転寿司やスーパーのお寿司も全然いける口なので、本日は料理を作るのが面倒という理由で、スーパーのお寿司を購入。三人前買ってきたんだけど、まさかのミカンちゃんがオフ会の友人と呑みに行くというので、一人分余っちゃったからニケ様にでも食べてもらおうかなと思っていたら……

 

 ガチャリ。

 ですよねー! 普通に誰か来るの考慮してなかったわ。誰が来たのかしら? そこにいるのは、なんかツギハギだらけの女の子。

 

「あれかしら? フランケンシュタイン的な?」

「ほぅ、フレッシュゴーレムであるな」

「こんにちは……ここに勇者はいますか?」

 

 ミカンちゃんの友達かしら? 

 

「えっと、貴女はミカンちゃんのお友達?」

「いいえ、私は勇者に恨みを持つ錬金術師が生み出したフレッシュゴーレム。勇者を殺す為に生み出されました」

 

 う〜ん、ミカンちゃんもまぁあれこれやらかしてそうなのよね。ここは異世界の事といえばデュラさんにアイコンタクをと、

 

「勇者はここにはいないであるよ。フレッシュゴーレム殿。相当な錬金術師によって生み出された者と見受ける。まぁ、せっかくきたので、酒でもどうか?」

「お酒? 飲みます!」

 

 自然に話を呑み方面に持っていったけど、デュラさん、ただお寿司を食べたいからやっつけで言ったかもしれないわね。

 デュラさんは動画サイトで最近お寿司とテキーラが流行っている事を知ってペアリングしたいって言ってたから、本日は普段飲んでるクルエボの絵スペシャルじゃなくて、プレミアムテキーラのクルエボ1800を出しちゃおうかな?

 前者はテキーラの主原料であるアガペ使用率が100%じゃないからカクテル系に後者はアガペ使用率100%のプレミアムテキーラなのでショットで飲むのに適してるから、本日はお寿司という事で、ショットグラスじゃなくてぐい呑みで!

 

「じゃあお寿司とテキーラのペアリングが本当に合うのか! そしてフレッシュゴーレムさんとの出会いに! 乾杯!」

 

 かんぱーい! とぐい呑みを合わせてお寿司前の一口。

 くぅ! さすがはプレミアムテキーラ。いい仕事してるわぁ!

 

「はぅ……強いお酒。あぁ、でもすごいおいしいですぅ。私に使われている材料のいくつかがお酒に目がないので」

「ほ、ほう。と言いますと?」

 

 私の質問に対してデュラさんがクピっとテキーラを口につけてから私に分かるように説明してくれた。

 

「フレッシュゴーレム殿は生物の死体をいくつもつなぎ合わせて生み出された魔法生物であるな。岩や鉱物などに比べて元々生命が宿っていた物の為、こうして意思疎通しやすい利点があるが、それ故創造するのが極めて難しいと言われているである。近縁種にキメラがいるのだが、奴はそもそも生きている生物を繋ぎ合わせるので似て非ざる物であるな」

 

 ははーん、ゾンビ的な物とは違うのね? というか、やっぱりフランケンシュタイに近いんじゃないかしら? フランケンシュタインって凄い昔の人の創造作品だったけど、まさか異世界からの情報じゃないでしょうね……

 

「私の場合は人間をベースに大蛇、トロール、ダークエルフ、ゴブリンなどですね。この食べ物、頂いても?」

「あぁ、大丈夫ですよ! えっと左上から」

 

 マグロ、サーモン、中トロ、炙りサーモン、穴子、甘エビ、ミル貝、イクラ、ネギトロ、えんがわね。

 この色合いしか考えずに配置してあるスーパーのお寿司が実にいいわ。飾らずそれでいて中トロの部分にだけ中トロとパッケージにシールが貼ってあるの。

 

 デュラさんはサーモンから、私は甘エビね。フレッシュゴーレムさんはマグロ。お醤油をお米にちょこんとつけて、ネタにわさびを乗せると。

 実食!

 

 うん、まぁこんなもんね。美味しい美味しい。

 

「んまーい! であるなぁ!」

「ほんと、お魚の死体を生で食べるなんて! 斬新!」

 

 デュラさんはお寿司好きだからどれ食べてもこんな感じだけど、フレッシュゴーレムさん、中々の言いようね。まぁ、確かにそうなんだけどさ。

 お寿司を楽しむとそこにテキーラをこくんと一口。

 あぁ……はいはい。これ凄いわ! お寿司にテキーラなんて考えた事なかったけど、生臭さみたいなのが完全に洗われるからすっごい合う! ビール、日本酒、焼酎、ハイボール神話とはなんだったのかしら? 

 中華にワインとか、まぁ実際に合わせるべきお酒より合う組み合わせが最近色々あるから驚きはしないけど、ちょっとなんかショックね。

 

「次はオレンジ色の魚の死体ですね」

「ふふっ、フレッシュゴーレム殿! サーモンは白身であるぞ! 食べている物の色が身についているのである!」

「なるほど、白身の魚の死体に生前食べていた生物の残滓が残っているという事ですか! さながら私、フレッシュゴーレムの様ですね」

「ははははは! 一本とられたであるな! では我はミル貝を」

 

 こんな食欲が湧かなくなるお寿司の食べ方ってあるかしら? 私は次は……中トロね! ここで大一番を食べて気持ちを切り替えるわよ!

 昔、大トロ食べ放題のお店に行って兄貴と空気を読まずに食べまくった結果、途中から中トロしか出てこなくなったのを思い出したわ。

 

 うん、まぁスーパーの中トロってこんなもんよね。テキーラがよく合うわ。フレッシュゴーレムさんとデュラさんがなんかいい感じでお寿司食べてるわね。モンスター同士って他種族感で結婚とかするのかしら?

 

「あっ、お酒切れた。二人とも、テキーラお代わりどうですか?」

「いただきます!」

「我もいただくである!」

 

 この間にガリを食べて、一旦リセット。私たちの食べ方には個性があるわね。フレッシュゴーレムさんは左から順番に食べていき、デュラさんは白身の魚からどんどん赤身に、私は好きな物から食べていく感じね。

 

 そして三人がそれぞれ食べていく中で、一致したお寿司が……お寿司の中でも中々のダークホース。

 

「味付けをされた魚の死体ですね」

「穴子であるな」

「穴子美味しいのよねぇ」

 

 不思議とお寿司で食べると鰻より穴子よね。穴子飯より鰻重の方が美味しいのに……これは本当に謎よ。ここでお酒もちょっと味変しましょうか?

 

「ライムを絞ったテキーラをロックアイスとトニックウォーター、最後にペパーミントを添えて、テキーラトニックでどうぞ!」

 

 これはまず間違いない組み合わせね。そもそもちょっとこのジャンク感のあるスーパーのお寿司や開店寿司は炭酸系のお酒合うのよね。あと、焼酎のお湯割りとかね。

 

「おぉおお! これはまたよく合うであるな」

「本当に美味しいです。味付けをされた魚の死体を食べる為にあるようなお酒です」

 

 なんというか、言い方! スーパーのパック寿司のいいところって、いい感じの量なのよね。回転寿司でいうと5皿前後なんだけど、一つずつ食べられるので大体十種くらいあるし、おつまみとしてもご飯としても優秀よね。

 

 昔の江戸前寿司のお土産包からこんな感じらしいけど、スーパーのお寿司はそれを模してるのかしら? 残すところ私たちのお寿司も残り一つ。フレッシュゴーレムさんはえんがわ。デュラさんは中トロ、私は普通のマグロ。

 パクリと食べて、テキーラで流す。

 

「……美味かったである」

「はい本当に、このお魚と軟体生物の死体達は死体の集合体である私の体の栄養となってくれたでしょう」

「このスーパーのお寿司結構美味しかったですね」

 

 ギィ、ガチャ。

 

「こんばんわ! 金糸雀ちゃん。ご飯を食べにきましたよー!」

 

 わりと迷惑よね。まぁいいけど。私たちは満足して余韻に浸っている中、ニケ様が私たちがスーパーのお寿司を食べ終わっている姿を見て凄い悲しそうにしてるので……冷蔵庫から私は同じお寿司の詰め合わせを取り出す。

 

「こちらニケ様の分ですよ。中トロじゃなくて、大トロなんで私たちよりいいのですから、お酒は呑みすぎないでくださいよ? こちら、クルエボが凄い合うので、ショットグラスでどうぞ!」

 

 ニケ様の分がないと思っていたニケ様は自分の分を私が用意していた姿を見ると、花が咲いたように笑顔になるどころか、泣いて私に抱きついた。

 

「あれあれどうしたんですか? ニケ様?」

「だってぇ! 金糸雀ちゃん最近冷たいから女神の分とか用意してないと思うじゃないですかぁ! でも用意しててくれたんですねぇ。金糸雀ちゃん、好き!」

 

 いやぁ、お酒飲まなかったらねぇ……ほんとずーっと見てたいくらいの美人なんだけど、

 

「あぁん、お寿司おいひー! ところで金糸雀ちゃん! 私を待ってくれなくてみんなで先に食べるとはどういう事ですか? そこに座りなさい!」

 

 本当、ニケ様さぁ……ほんと……

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