女子大生と居候達編(デュラハンと勇者)
第49話 ダークエルフと焼きおにぎりとほうじ茶割りと
午前2時20分。ゆっさゆっさと私の身体がゆすられる。地震かな?
いいえ、ミカンちゃんです。
「かーなーりーあー! おなかすいたー!」
今日の夜、うどんだったので腹持ちが悪かったみたいね。食べ終えた時の満腹感に対して、急激にお腹が減って目が覚めたんだと思うけど、少し我慢を覚えてほしいな。まぁ、一人で火を遣っちゃダメって言ってるのは私なんだけど……
「しかたないわね。何か冷蔵庫に……冷凍したおにぎりがあるから焼きおにぎりつくったげるわ。ええっと、お味噌と醤油と」
レンジで加熱したおにぎりを取り出すと、醤油をハケでぬりぬり、味噌はみりんとお酒を混ぜてこっちもぬりぬり。オーブントースターで……なんか私もお腹空いてきたんだけど……寒いしほうじ茶の焼酎割を……
ガチャ……やってしまった。今日そういえばうどんに天ぷらという激重組み合わせでお酒飲まなかったんだった……普段は天ぷらをおつまみににシメのうどんという流れだったけど、色々あって……体重の方とか、体重の方とか、体重の方とか!
ミカンちゃんは勇者の加護とかいうクソチートで太らないし、そんなのくれるなら私が勇者やるわよ!
と、愚痴ってもしかたがないので、
「ごめんください。誰もいませんよねー……ひぃ! 人間!」
おどおどした透き通るような白い肌、それに銀色の髪、耳がピンと尖っているのでこの人は……
「エルフの方!」
「だ、ダークエルフですぅ……」
うーん、エルフとダークエルフ。どっちも美形ね。違いはなんだろう。エルフに人種があるとすればそんなところかしら? サンプルとしてこの部屋には今まで一人しかエルフはきてないので分からないけど、妙におどおどしている子ね。
「とりあえずこんばんは、私は犬神金糸雀。で、こっちが勇者のミカンちゃん。もう一人のデュラさんは多分爆睡してるわね」
「ゆゆゆ、ゆうしゃああ! ひぇ……おたすけ」
ミカンちゃんはちらりとダークエルフさんを見て今はオーブントースターにくぎ付け。あまり興味はないみたいね。
「今、お腹空かしてグズってるだけだから、とりあえず玄関で立ってないで入ってください。お茶で割ったお酒くらいしかありませんが」
そう言ってリビングに案内。さすがに夜も遅いので乾杯の音頭は取らずに、デュラさんを起こさないように頂きます。
「はぅ、優しい味……私はダークエルフのエイルですぅ。聞いてくれますか? 金糸雀さん、話すも涙、聞くも涙な私の境遇」
「ええっと、そうねぇ」
チン! とこの瞬間オーブントースターが焼きおにぎりの完成を告げた。それにミカンちゃんが、「かなりあ! はやく! はーやーく!」とぐいぐい私のパジャマ用のジャージを引っ張ってくるので、
「エイルさんも焼きおにぎり食べましょう。とりあえず話はそれから、ね?」
「はぃ~」
お腹がすいてムスっとしているミカンちゃんととりあえず話を聞いて欲しいエイルさん、もしかすると私、保育園の先生とか向いてるかも、無理か……この人たちとこれからの将来を担う子供達との大きな違いは……
「じゃあ、吞みましょうか!」
お酒がある事よね。たくわんと焼きおにぎり、この素朴な美味しさに、主張しすぎないほうじ茶が合うわぁ、あっ!
「うっみゃあああああああ! 勇者、ご飯すきー、焼いたご飯もすきー! このお茶にお酒混ぜたやつもすきー!」
口を押えようかと思ったけど、ミカンちゃんお大声を止める事ができなかったわ。デュラさん、起きないかしら? うん、鼻提灯を作って夢の中みたい。
「ミカンちゃん、デュラさんねてるからしずかに!」
「勇者、静かにしてた」
「あれで……」
エイルさんが焼きおにぎり味噌味をゆっくりと食べて、
ブワッっと泣き出した。
「うぅ、おいしい。うわー、おいしい。うっうっう、うわーーーん」
「どうしたの? 美味しすぎて頭ばぐったのかしら?」
「おいしすぎて、涙が、涙がとまりま。うわーーーーん!」
ミカンちゃんがほうじ茶割りのお代わりを待っているので作ってあげる。エイルさんはようするに美味しい物を食べると感極まる系の人みたいね。でもまぁ、お茶漬けとか焼きおにぎりとかシメ系とホットのお茶割の相性って神がかってるのよね。おにぎりはあと3個。
「ねぇ。お茶漬け食べる? ちょっとだし汁作るからお酒でも飲んで待っててね」
私がだし汁を作りに席を立つとエイルさんは心底心細い表情をしてミカンちゃんを見つめる。ミカンちゃんは、あちあち言いながらほうじ茶割りを飲んでる。
「あの。勇者、私……人間に迫害されてるダークエルフですよ? やっつけようとかしないんですか?」
「勇者は弱きの味方! でもダークエルフとか知らなーい」
「かつての世界を恐怖に陥れた異世界の魔物を信仰し、エルフと敵対し、魔王軍とも敵対し、人間とも敵対した結果村八分をくらっているダークエルフですよぉー! 後に残された私達がどれほど酷い目にあってきたか……」
なんか異世界も色々大変なのね……でも先祖のやらかしで残された人たちが迫害されるのはどこの世界も同じなのね。とりあえずだし汁もできたので、三人分お椀に焼きおにぎりを入れて、
「はい、おダシいれるわよ!」
ふひゃあああ! いい香り。これ絶対美味しやつだわ! せっかくの焼きおにぎりをダシじるでほぐしてお味噌とダシが混ざる事で完成する焼きおにぎりのダシ茶漬け。
ここは焼酎ロックで〆ましょうか、麦百パーセント二階堂。ほんと安定の美味しさね。
シメセットを前に、エイルさんはスプーンで、私とミカンちゃんはお箸で……
「やばっ! ウマっ!」
「うみゃーーーん! 焼きおにぎりのお茶漬けうまー!」
「ああん、もう私もここに住んじゃダメですか? なんでもしますよ」
お茶漬けを食べながら元の世界に戻るのを拒んでいるエイルさん、さてどうしたものかと私が思っていると、ミカンちゃんは静かに、ナイフをというか勇者の剣を渡した。
「ダークエルフ、勇者のこれをあげる。これを持っていれば勇者だからいじめられないの! 自分の事も自分の種族も自分で守る!」
あっ、ミカンちゃん、職業放棄したんじゃ! お茶漬けをサラサラと食べて、ロックの麦焼酎を飲み干すとミカンちゃんから伝説の剣を受け取り、
「ゆ、勇者……ダークエルフでも勇者になれるかな?」
「果物農家の娘でも勇者になれる。エイルも勇者になれる!」
ミカンちゃんの実家果物農家だったのね。柑橘類でも作ってるのかしら……エイルさんは勇者の剣を腰にさして来た時とは違う真剣で弱弱しさを感じさせない強いまなざしで、
「なってみます! ダークエルフの勇者に! 金糸雀さん、勇者、ありがとうございました!」
そう言って私の部屋から元の世界に帰っていったエイルさんを見て、私はミカンちゃんに尋ねてみたの。
「ミカンちゃん、あの勇者の剣あげちゃっていいの?」
「大丈夫。勇者はすぐに無くすから同じのを沢山持ってる! ほら、カモン! アイテムボックス!」
どさどさと、勇者の剣。フェニックスブレイドとやらはバーゲンのセールス品のようにこれでもかというくらいミカンちゃんの収納領域から取り出されたの。
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