第349話 イブリースとヒグマベーコンとサッポロ冬物語と

 ※限定数千本のビール購入を狙っており、更新がずれるかもしれません。悪魔の名前がついたビールを出している某メーカーが天使の名前がついたビールを出しましてその情報集め中です。

 

 本日は、いろはさんに呼び出されていろはさんのマンションにやって来ているわ。ミカンちゃんとデュラさんは以下略……私もデュラさんの料理食べたいわ。前回はミカンちゃんの希望で鱈チリだったって聞くし、今日もミカンちゃんの好きな魚料理なんでしょうね。

 日本酒が恋しいわ。

 

 と言っても異常気象みたいに昼間は暑くて、夜は冷え込む東京の気温。今は日本酒よりビール飲みたい気分ね。いろはさんのタワマンに着くとオートロックが開かれたのでいろはさんの住んでいる階層へ、

 

 ビー! とインターホンを鳴らすと、ガチャリとイフリータさんがお出迎えしてくれたわ。

 

「いらっしゃいませ金糸雀様」

「イフリータさんお久しぶりです!」

 

 彼女はミカンちゃん達の世界で神殿を守っている炎の魔人。イフリータさん。勇者を待つのが仕事なんだけど、そもそも勇者が私の家にいるので、イフリータさんも偶然立ち寄ったいろはさんの家に居候中。

 

 ※詳しくは37話参照

 

「あっ、そのワンピース可愛いですね!」

「ふふっ、ありがとうございます! いろは様に買ってもらいました」

 

 タワマンのくっそ綺麗な部屋に私を呼び出したいろはさんは何の用かしら? 既に日本酒をロックで飲んで出来上がってるわ。

 

「おーう! 金糸雀。まぁ座れ、水でも飲んで」

「酒でしょ」

「金糸雀からしたら水も酒も一緒だろーがぁーい!」

「普通に違いますけど、まぁいただきます」

 

 景虎か、普通に美味しいわよね。私は常温でいただきます。うん、新潟のお酒ってなんでこんなに万人受けするのかしら?

 

「で? 何の用ですか?」

「あーそうそう! この前アタシ、北海道行ったぢゃん?」

「行ってましたね。ガールズバー、二週間くらい休んでましたし、白い恋人いただきましたし」

「そうそう、で。ヒグマ撃ちに行ってたんだー」

「は?」

 

 ヒグマってあのヒグマ? 日本最強の猛獣よね? ちなみに日本三大猛獣はヒグマ(クマ)、マムシ(ハブ)、オオスズメバチ(スズメバチ)よ。

 

「狩猟免許持ってるんですか?」

「十八の時に罠免許取って二十歳で銃の免許も取ったぜぇ! ほらほらこれ!」

 

 写真を見ると、スコープ付きの銃を持っているいろはさん。

 

「ライフル銃ってのですか?」

「違う違うちなみにライフルは銃を取得してから10年かかるからアタシはショットガンね。ただ、一発こっきりの破壊力重視のスラッグ弾専用ショットガン。見た目はライフルっぽいね」

 

 ※基本ヒグマ撃ちはライフル持ったハンターが行いますが、ショットガンでもやれない事はないそうです。ただ、目の前10メートルとかで心臓ぶち抜かないといけないらしいので現実的ではないとか、海外の11歳の男の子がゼロ距離射撃でヒグマを倒しているニュースとかあるので、近ければやれるみたいですね。

 

「やばそうならイフリータちゃんに助けて貰えばいいし、ちょっとクマの肉食べたくなったから行ってきたんだよ。最高だったね。命と命の奪い合い」

 

 はぁ……やっぱこの人はやばい人だわ。

 

「で? 熊肉食べようって話ですか?」

「ザッツライト!」

 

 マジか……熊の肉は流石に食べた事ないわね。ジビエといえば、鹿と猪と兎くらいかしら? どれも独特な味がしてまぁ、普通に美味しかったけど、熊ってどうなのかしら?

 

「せっかくなんでいただきます」

「さすがは金糸雀。割とゲテモノとして食べたがらない人多いんだよねぇ! そんなお利口な金糸雀にはこれを飲ましてあげよう!」

 

 冷蔵庫からドーンといろはさんが取り出したのはサッポロ・冬物語。冬季限定ビールね。熊のお肉がどんな感じかわからないけど、多分ビールと合うんでしょうね?

 

 ガチャリ。

 

 やっぱりここでも来たわね。

 

「いろは様、金糸雀様。お下がりください! 凄まじい魔力を感じます」

 

 あぁ! ああ! 前はミカンちゃんとかデュラさんもそういう人来たらこんな感じになってたけど最近はしないのよねぇ。慣れって怖いわね。

 

 玄関より顔を出したのは……

 

「イフリータさんの妹さん?」

「ちょー美少女ぢゃん!」

 

 私達の感性! そう、炎ようなセミロングの髪、健康的な褐色の肌、少し眠そうな表情、イフリータさんを少し幼くしたような美少女登場したけど?

 

「あれは……私の上位体。神の領域に入ろうとしている魔人達の長、イブリースです」

「さよう。何故、炎の魔人が人と共にある? 神殿警護はどうした?」

 

 あぁ、上司の人ぉ?

 

「まぁまぁ、イブリースたんも一緒に酒飲もうぜぇ……おおっと!」

 

 いろはさんに向けてイブリースさんは炎を放ったわ。部屋に燃え移る前にいろはさんはその炎を手で包むように消したわ。この人、なんか謎の事できるのよね。前にもなんか呪文唱えたりしたし、ほんと謎。

 

「人間風情が、長きにわたる修行を終えたイブリースに喋りかけるな」

「あのさぁ? イフちゃんが神殿警護してないと、いつから思ってんのかなぁ? イブリースたん」

「……なんだと?」

 

 おっ、いろはさん劇場が始まったわ。「まぁ、座りなよイブリースたん。位が高いなら作法は重んじようぜぇ? ここは聖域なんだからさぁ、供物はこれ……ヒグマベーコン。野生の気高き神獣の肉さ」

 

 アイヌではそうよねぇ。

 イブリースさんは目をカッ! と見開いていろはさんの適当な話を聞いてるわ。「そして冬を迎える為の甘露」サッポロ冬物語ね。

 

 いろはさん、普通に飲み会を始めるつもりだ。「イフリータちゃん、儀式の盃を!」「あ、はい! ただいま」

 

 とビールジョッキ持っていたわ。それも人数分。

 

「さぁ、みんな手に冬物語が行き渡ったかい?」

 

 こくりと頷く、イブリースさん。それを見るといろはさんは、

 

「イブリースたんを迎える我が家、まさに神殿さぁ! そこを守っているイフリータちゃんはできた部下だろう? さぁ、乾杯! 無礼講さ!」

 

 いろはさんすげぇ!

 無礼講。日本の最強の言霊、この部屋は神様だろうと悪魔だろうと、王様だろうとただの飲み友でしかない状況に変えたわ。

 グイグイと冬物語を飲むいろはさん、釣られて私も、イフリータさんも。そして神様とかそれに近い人ってしきたりに弱いのよね。この空気に流されてイブリースさんもぐいっと。

 

「んま! なんじゃこりゃぁ!」

 

 さすがはサッポロ。魔人ですら喜ばせるビールね。黒ラベルのキレッキレは無くなってないのに、すんごいコク!

 

「いろはさん、お代わりいい?」

「いいけど慌てなさんな。まずは熊ベーコンを食べようじゃぁないかぁ」

 

 それだ! いろはさんは業務用冷蔵庫から取り出したお肉を軽く炙ってドイツ製のナイフと共に持ってきたわ。


「さぁ、やってくれぇ! 好みでわさび醤油を使うといいよ」

 

 とりあえず、そのままの味わいで……ん? 食感は牛肉っぽいけど……!! ぐっと来た! 獣臭さが全くないわけじゃないんだけど、それよりもお肉が明らかに甘い。なにこれ?

 

「めっちゃ美味しい! 牛でも猪でもない何だこれぇ!」

「だろぉ? 五等級の牛肉より高い肉なんだぜぇ! ほら、冬物語」

 

 あぁ、いろはさんに餌付けされてる私。でもこの肉は冬物語との組み合わせがベストだわぁ! 冬籠の前に栄養をしこたま取ったヒグマのお肉は……いろはさんとの生存競争に負けたその味は……

 

「うんめぇぇええええ! なんだこれぇえええええ!」

 

 イブリースさん、逆手に持ったフォークで熊ベーコンを食べて、方針状態。ぷにぷにとほっぺを押していろはさんはその指を冬物語に向ける。それにイブリースさんは操られたように冬物語をグイグイのみ、熊ベーコンをパクり。

 

「うめぇ、うめぇ!」

 

 いろはさんは尋常じゃない量のワサビを熊ベーコンに乗せてパクり、そして冬物語をグビグビ喉をならす。

 

「この熊くんが見れなかった来年の春をアタシ達が見るんだ。これは実に円環だとは思わないかい?」

 

 イブリースさんがモッモッモ! と熊ベーコンを食べるのでなくなっちゃた。と思ったらいろはさんが業務用冷蔵庫から追加を出してくれたわ。というか、あの冷蔵庫。熊一頭分あるとかじゃないでしょうね?

 

「イフちゃんも飲んだ食ったぁ!」

「はい!」

 

 上質な油、口溶けの良いお肉。思ってた熊の肉って凄いキツい匂いがすると思ってたんだけど違ったわ。これならいくらでも食べられそう。

 はっ! と我に帰ったイブリースさんはいろはさんを睨んで言ったわ。

 

「人間! 騙されかけたが、これが儀式なわけがなかろう? ただの宴会だ!」


 それはそう。

 いろはさんはどう切り返すのかしら? ガールズバーでも頭の回転と口の達者さでお客さん人気も従業員人気も高いのよね。

 でもこれは……

 

「熊送りって知らないかなぁ……知らないよなぁ。今、イブリースたんが食べている熊。これは神獣と言ったよね? その神獣が円環に帰れるように、そしてアタシ達が神獣の命をもらって長生きできるように、供養と感謝を込めた儀式さ」

 

 トンといろはさんはイブリースさんの前に冬物語を置くわ。「!」

 続いて、さらに追加で持ってきた熊ベーコンもトンと置く。「!!」

 

 確か熊食べるのよね? 熊送って……

 さぁイブリースさんは?

 

 目の前の冬物語をぐいっと呑み出したわ! 落ちたわね。

 

「人間と思っていたが、名のある神と見受ける」

「アタシはいろはだよ。神かぁ、そうだねぇ。強いていえばアタシはアタシというカムイだね」

 

 じっと見つめ合ういろはさんとイブリースさん。

 

「イフリータはいろはに使え、この神殿を守っていたか」

「そうそう! 大体そんな感じ」

「今までの無礼を許してほしい」

「あー、気にしてないさー!」

 

 頭を下げてイブリースさんはトボトボと気を落として帰って行こうとするので、いろはさんは。

 

「カムイは、上位存在の神の事じゃあないんだぜ。ただそこに存在する事の意味をカムイというのさ。確かに信仰している以上神格化しているんだけど、一般にアタシや君たちが考える神の概念じゃない。だから、この冬物語もカムイ。熊ベーコンもカムイ。そしてその恩恵をアタシ達は受けて、送るのさ! イブリースたん。まだ飲めんだろ? 帰んなよ? 寝かさないぜ?」

 

 引き止められたイブリースさんは嬉しそうに戻ってきたわ。ほんと、いろはさんって人たらしなのに神たらしでもあるわよねぇ。

 

 あっ、こういう時って……

 

 ガチャリ。

 

「私も混ぜてください!」

 

 来たわねニケ様、孔雀ちゃんには追い出されたけど……

 

「おぉ! 無銭飲食常習犯のニケちゃんぢゃーん! おう! 飲んでけ、食ってけー!」

 

 パァアアアアア! とニケ様に笑顔が生まれたわ。うん、いろはさん、くる者拒まないもんねぇ。

 ほんとこういうところだけは尊敬するわ。

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