第348話 ナラシンハと豪州産サーロインステーキ(湯煎調理)と金麦限定醸造 帰り道の金木犀と
私は今、狼碧ちゃんじゃない従姉妹の家に向かってるのよね。そこは格安アパートらしく東京にこんなところあるんだと思えるような……よく言えば古き良き、悪く言えば今にも潰れそうなそんな家。表札の殆どが外国籍の人の名前の中で達筆な字でかまぼこ板を表札として“戌神“と書かれている部屋。
私の家は本家関係の姓が犬神、分家関係の姓が戌神、そしてそれらと絶縁している家が狗神という姓を名乗る事になっているらしいけど私には関係のない事ね。今回はかなり遠縁だけど、大学の先輩に当たる孔雀ちゃんに呼び出されて遠路はるばるやってきたというわけ。
「孔雀ちゃーん、来たけどー?」
デュラさんとミカンちゃんにお留守番を頼んで5000円置いておいたので出前か、ミカンちゃんが買い物に行ってくれればデュラさんがご馳走作ってくれてるでしょうね。私は手土産代わりにスーパーで安売りしていたステーキ肉を下拵えして持ってきたんだけど、出ないわね。
インターフォン壊れてるし……
「あー。悪ぃ悪ぃ。朝方まで研究棟にこもってたから……寝てたわ」
ガーリーな服に白衣を身に纏った、孔雀ちゃんが出てきたわ。中学生みたいな見た目だけど確か大学院生で中々就職せずに大学に入り浸っているから……あれれ? 今何歳だこの人。
「用ってなに?」
「そうだったそうだった。実はよう、私、検疫系の就職先見つかっちまってさー! んで、金糸雀がそういえばウチの大学生だったなーと思って、学部違うけど、共用系の教科書使えるんじゃね? と思って、処分する前に呼んでおこ〜かなーって話だぜ!」
「えっ、おめでとう。もしかして検疫って?」
「あたぼう、酒関係よぅ! これで高級酒飲み放題だ!」
「飲んでいいのそれ?」
「バレなきゃいいんだよ! バレなきゃ」
すぐクビになりそうな予感ね。この人、昔からぶっ飛んでたからいろはさんとかと仲良くなれそうね。
それにしても……教科書の類は普通にありがたいわ。
「もらっていいなら、全部ウチに着払いで送ってもらっていい?」
「学部関係ないのも結構あんぜ?」
「うん、暇つぶしに読むから」
「別にいいけど、結構やばい量あるからちゃんと見繕ってなよ?」
部屋の中にはびっしりと本が並んでいたわ。そう言えば孔雀ちゃんって私の受験勉強見てくれたりとかしてたんだっけ? あれあれ? 孔雀ちゃんの小学校からの思い出から殆ど容姿変わってないんだけど、化け物かしら?
「しっかし、なんも食ってねーから腹減ってね? なんか食いにいく?」
「孔雀ちゃん栄養面終わってるでしょ? だから、なんか作ってあげるわよ。これ持ってきたし」
「えー、まじでぇ! サンキュー金糸雀ぁ。んじゃ、冷蔵庫に冷やしていた私のとっておき出しちゃおうかな」
そう言って孔雀ちゃんが出したのは、金麦。まぁ、美味しいけどね。あーでも限定醸造だ。アンバー風味の帰り道の金木犀。季節物の新商品出してたのね。
コンコンコン!
誰かきたわね。いや、まさか……ノックだし、普通に同じアパートの住人とか、孔雀ちゃんの友人とかよね。
「おぉ! ナラシンハ君ぢゃん、さーしぶりぃ!」
「何か美味しそうな匂いがしましてな! ハハっ!」
おっと……名前的には海外の人っぽいけど、筋肉隆々の男性で、顔がライオンなのよねぇこれがぁ……どう考えても地球の人じゃないんでしょうけど。
「孔雀ちゃん、お知り合い?」
「あー、うん。たまにナラシンハ君遊びに来るのよ。どっかの神様だって〜」
「やっぱり? 初めてまして私は犬神金糸雀です。孔雀ちゃんの従姉妹です」
「よろしくねー! あー、目元とか似てるねぇ! 二人とも超美形ですなぁ!」
ナラシンハさん、お上手ねぇ。確かに、私の家系はみんな目つきは悪いけどどちらかと言えば顔は整っている傾向にあるわね。
「今から、味付けステーキ焼くんですけど、よければ一緒にどうですか? いいわよね? 孔雀ちゃん」
「もちのろんだぜぇ! ナラシンハ君は結構飲める口だかんねぇ! 金糸雀ぁ、ギアあげていいよぅ」
へぇ、そんな飲める神様なんだぁ。じゃあ、私の料理も少し頑張ろうかしら。私が取り出したストックバックに入ったステーキ肉を見て孔雀ちゃんが、
「何それ海外産のお肉か?」
「うん、国産は高いからね。でもまぁ、見ててよ。兄貴直伝だから」
「おぉ、兄さんの調理方法なら間違いないね。私が大学受かった時も色々作ってくれたなぁ。兄さん」
そう言えば、最初に東京に来たのは兄貴だから他従姉妹の面倒めっちゃ見てたらしいわね。
ストックバックの中は、梅酒、醤油、味醂、生姜にニンニク、そして市販のステーキソース。これに漬け込んで、このストックバックに入れたまま低温で湯煎します。片面5分くらいで湯煎すると、バターを引いて熱したフライパンで外側を焼いてあげて完成。一口で食べれるサイズにスライスしてあげるわ。
「はい完成、漬け込んだ豪州産サーロインステーキの完成よ! 適当にレタスも添えたので巻いて食べても美味しわよ」
私の料理をテーブルに置くと、よく冷えた金麦限定醸造 帰り道の金木犀と冷えたグラスを持ってきてくれたわ。
「いいねいいねぇ! じゃあ乾杯しよっか? 今日もうまいもんが食べられる事に感謝して乾杯だぜ!」
「カンパーイ!」
「美女二人に乾杯!」
んっんっんっん!
「「ぷっひゃああああ! 美味い!」」
孔雀ちゃんとハモったわ。金麦の限定醸造、毎年何種類か出るけど、本当売り方上手いのよねぇ。ビールっぽくない金麦なのに限定醸造系はクラフトビールっぽいみたいな感じでお得感満載。今回のはアンバータイプを謳っているだけあってやや苦味が強くて香りもいい感じね。
美味しいわ。
「わー。この麦酒美味しいねぇ! この世界のお酒何飲んでも美味しいから困っちゃうなぁ!」
「ナラシンハさん、分かる神様ですね! でもこれ麦酒じゃないんですよね。ビールテイスト酎ハイ的な第三のビールなんですよ。金麦出してるサントリーは本物のビールよりこの金麦シリーズ作る方が美味いんですよね」
「あーそれ分かるわぁ。生もプレモルも美味しいけど、あと一歩足りないんよねぇ」
香るエールはバチくそ美味しいので、あれは別格だけどね。レギュラービールもプレミアムビールも他社に若干劣るかなぁって思うけど、この第三のビールに関してのみ言うと頭ひとつでてるわ。
そして金麦の守備範囲の広さはおつまみとのマリアージュね。
「ステーキも食べて食べて! ミディアムにしてみたんで」
「中身真っ赤! これいけんの金糸雀」
「牛肉は周りをちゃんと焼けば大丈夫よ。孔雀ちゃんってウェルダン派だっけ?」
「お肉はしっかり焼きなさいって親に言われてきたからなぁ。まぁ、金糸雀の料理なら大丈夫か、いっただっきまーす!」
もにゅっと孔雀ちゃんが一口でお肉を食べて咀嚼。
「んまい! 普通にこれ美味いわ」
「でしょでしょ? ナラシンハさんも遠慮せずにどうぞ」
「ありがとう。いただきますな! むぐ……うわ! おいし」
へへへへへ! 海外産の筋ばったお肉は下味つけて湯煎して焼いてスライスすれば大衆居酒屋のおつまみに早替わりよ。
「んっんっん! ぷはー! おきゃわり! 無限に食べつけれるぞ金糸雀」
そりゃそうよ。私が作ったんだもん。それに金麦の限定醸造の帰り道の金木犀がほんとよく合うわ。ステーキ食べてるのに、パンもご飯もいらないの。金麦の限定醸造があればそれだけで満足ね。
「レタスに巻いて、食べてみーよっと」
うん。脂っこいステーキをレタスが優しく包んであっさりさせてくれるわ。これはワサビが合いそう。
「あー、ワサビ完全に正解だろぅ! 私もやろー」
「自分も是非!」
気がつけばロング缶がそれぞれ4本ずつ転がってるわ。本当にナラシンハさんよくのむわね。気にせず行けるわ。
ガチャリ。
おや? この入り方はまさか……
「孔雀ちゃん! どうして女神を呼んでくれないんですか!」
嘘でしょ! どこでも現れると思っていたけど、ニケ様が登場。それに孔雀ちゃんはグイグイと金麦限定醸造を飲み干して「帰れ、クソ女」と一言。もちろんそんな事じゃ帰らないニケ様を孔雀ちゃんは、立ち上がると、玄関に引っ張っていくわ。
「はい、さようなら、もう二度と来んなよ!」
ガチャリ。
無理やり追い返したわ。
強っ! と言うかニケ様、かわいそうだけど一体何やらかしたの? 少し苛立っている孔雀ちゃんは冷蔵庫から新しい金麦 限定醸造 帰り道の金木犀を取り出して缶のままプッシュと飲み始めたわ。
「金糸雀」
「はい?」
「ステーキ無くなっていたから、なんか冷蔵庫の中身で作ってよ」
「あーはいはい」
その冷蔵庫の中身がなんもないわね。
「何にもないからコンビニかスーパー行ってくるね」
「おーう! 任せたー!」
孔雀ちゃんの部屋を出ると、体育座りで俯いているニケ様が顔をあげて仲間になりたそうに私のことを見つめているわ。
「はぁ……ニケ様、今からスーパー行くので一緒にいきましょうか?」
パァあああああ! とニケ様に笑顔が咲いたわ。
ほんと、この人美しいのになぁ……
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