女子大生と居候達(勇者、デュラハン、人狼)とご近所さん(女神)
第78話 ルー・ガルーとアイスの実とBAR Pomum‹桃と紅茶›と
「ゆ、勇者は人狼じゃないかもー……デュラさんが怪しいかも」
「いやいや、我は善良なデュラハンである。そうなるとだんまりな金糸雀殿も怪しいである」
善良なデュラハンとは? 魔王軍大幹部なのに、今私達はワンナイト人狼中。嘘が下手すぎてミカンちゃんがもろ人狼ね。私は一言。
「ミカンちゃんは嘘をつくとき少し考えて目が泳ぐのよ。ニケ様が来る時に席を外す時の反応なんだけど、人狼じゃないという時もその反応なわけね。人狼はミカンちゃん、ミカンちゃんを追放するわ」
そして裁きが下った。追放されたミカンちゃんは罰ゲームでドーナツを選ぶが一番最後になる。
「無念ナリー」
空気を呼んだ私とデュラさんがミカンちゃんの好きなポンデリングを残してミカンちゃんの機嫌も直ったところで、本日は久しぶりに見て買ってしまった物があるのよね。数年食べてなかったんだけどフルーツ感が増したという、
「今日のオヤツはアイスの実もあるわよ!」
「おぉ! 勇者アイスの実スキー!」
ガチャリ。
本日はお早いご来訪だなとか思って私が玄関に向かうとそこにはなんともワイルドな少女がキョロキョロとしているわね。そして私と目が合うと警戒している。
「こんにちは、私はいぬが……きゃああ!」
「人間、こんなところまで」
私に覆いかぶさる少女。これは大胆な……というよりちょっとヤバい感じ? 少女には牙、そして指の爪は長く伸びて、
「てい! と勇者は掛け声と共に蹴りをくだせり!」
「がぅ!」
ピンチの時のミカンちゃん。思いっきり女の子を蹴り飛ばしたけど大丈夫かしら。
「あおーーーん! ゆうしゃまで!」
少女の手が毛深く変わる。そして頭から耳がぴょこんと生えた。
きゃわわわわわ!
「ルー・ガルーであるなまさに人狼である」
「悪魔……?」
デュラさんを見てルー・ガルーさんが不思議そうな顔をするので私は改めて自己紹介。
「ルー・ガルーさん。私はこの家の家主の犬神金糸雀です。名前的には半分貴方の友人みたいなものね」
確か狼と犬の違いって殆どないのよね。但し犬と同一とされると狼は怒るだなんて設定もあったりするけど……
「いぬがみ? フェンリル様なのか?」
「フェンリル様じゃないけどまぁしいていうなら犬神だし大神様かしら?」
式神にも犬神っていたような気がするけどそこは気にしない事にしましょう。だって、ルー・ガルーさんがさっきとは打って変わって生えた尻尾を振りながら私を羨望の眼差しでみているんだから。
「まぁ、そういう事でルー・ガルーさん今からオヤツタイムなんですけど一杯どうですか? スイーツに合うお酒用意したんで」
「犬神様が言うなら」
そう言って私にすりよってくるルー・ガルーさん。服装は普通の村娘って感じなのに何かから逃げてきたのかしら? ちょっと汚れているので私が着なくなった服をあげる事にする。黄色いカンフージャージ。
やーん可愛い!
「こんな立派な服まで……」
「人狼よく似合うのー!」
「うむ、金糸雀殿と並んで……姉妹? のようであるな」
それって私が姉でいいわよね? ジャージを着て並ぶとルー・ガルーさんの胸元がですね。まぁそれそれはエベレストのようで……異世界の人ってほんとスタイルいいですよね? いいですね? ずるいですね! えぇ、私は日本人の一般的な体形ですとも!
「おっといけない。理性を失いかけてたわ。じゃあ! ルー・ガルーさんのお話を聞きながらお酒入りティータイムと行きましょうか! 本日のお酒はこちらです! サントリー。BAR Pomum‹桃と紅茶›。アルコールはなんと2%。まさかのほろ酔いより度数が低いチューハイね」
それらをみんなのシャンパングラスに注いでいく。紅茶の綺麗な色に、注いでいる時点で凄い桃の香りが広がる。果汁はそんなに入っていないのに、いきなり期待度が高いわね。
「じゃあ! 可愛い私の妹(協調)分のルー・ガルーさんに乾杯!」
「「「かんぱーい!」」」
味わ完全に大人のピーチティーね。物凄い口の中に桃感が伝わってくるのに甘さは随分控えめ、この手のお酒はReady to drink。通称RTDと言って手軽に飲める事を強みとしているんだけど、これは悪くないわね。
「うみゃあああああああ! 勇者、ももスキー!」
「うぅむ。この世界、神の果実と言われている桃が平然とその辺で売っているのには驚いたが、食べ方だけでなく飲み方まで極めているとは恐れ入ったである」
「甘くておいひぃです。犬神様ぁ」
いいわね。このほろ酔いじゃない低アルコール酎ハイ。なんかお酒メインじゃないくてこのティータイムの雰囲気を邪魔しないわね。ミカンちゃんのテンションはいつも通りだけどね。
「じゃあ、ドーナッツとアイスの実食べましょ!」
私はエンゼルフレンチをルー・ガルーさんに渡すと、「かぶりついてみてください! 美味しいですよ!」「はい、では」とぱぁくとかぶりつき、感想を言うまでもなくルー・ガルーさんの表情が緩んでいるので私は思わず親指をあげて、チョコファッションを食べる。
「もちもちなのー! 勇者、ゆうしゃぁ。ポンデリングだぁーいすき!」
うん、日本国民全員好きよ!(私調べ)デュラさんはハニー・ディップね。ドーナッツという甘ったるいお菓子に対して、バー・ポームムはほんとよく合うわぁ! ふふっ、でもメインはアイスの実なのよね!
「はいみんな、アイスの実。氷代わりにグラスに入れてもいいし、そのまま食べてもいいしこれもよく合うわよ!」
私の提案にデュラさんはすぐさまアイスの実を氷代わりにグラスに落としてるわね。ミックスベリーとかも凍らして氷代わりにお酒に入れて呑むと映えるし美味しいのよね。私は一つブドウ味を、
「うわっ! 今のアイスの実ってこんなに果物感あるの! すごっ!」
「アイスの実?? 氷から果実が? ちべたっ! でもおいしーです! 犬神様ぁ!」
きゅううううと目を丸くして体全体で美味しいを表現してくれるルー・ガルーさん。
「甘々ー! 冷や冷やー! アイスの実おいしーのぉおおお!!」
ミカンちゃんが絶叫。異世界の人たちは甘いは美味しいみたいだから脳がやられてるんでしょうね。一応果実農家だった筈なんだけど、本物の果実に近いと感じてるのかしら?
「ところでルー・ガルーさんはどうしてここに?」
「村に住んでいたんですけど、村の人が何者かに噛まれて怪我をして、死んでしまったんです。村の中に人狼がいるって事で、私が人狼である事がバレて」
「ほぅ、ルー・ガルーは人間や他亞人社会に溶け込む習性があったであるな? して、貴殿がその人間を?」
「違います! 私は何もしていないんです! でも私がルー・ガルーだと分かったら村の人たちは松明を持って……」
というのが事の顛末ね。それで命からがらここに逃げ込んだと。その時の事を思い出して私の胸の中で泣いているルー・ガルーさん。さて、困ったな。
「まぁ、落ち着いて! ここにはルー・ガルーさんを虐めるような人はいないから、お酒にアイスの実もまだ沢山あるからね」
まぁ一人くらい増えても良いんだけど、なんか凄い懐いてくれたし尻尾すごいブンブン振ってるし……あっ! そういえばちょっと前にこんな娘きたわね。コボルトガールの子だったかしら?
「ルー・ガルーさん、いく宛てが無かったらしばらくここにいる?」
「良いんですか?」
「良いわよ! ほとぼりが冷めて、元の世界に帰りたい時はガルンちゃんってコボルトガールの女の子を頼ると良いわよ! その人の主人がもしかしたら私の知っている人か、多分話の通じる人間だと思うから助けてくれると思うわ」
「はう! 犬神様ぁ!! ありがとうございますぅー!」
「さぁ、じゃあもう一度ルー・ガルーさん歓迎に乾杯しましょうか!」
かんぱーいという時に、当然やってくるニケ様。
「こーん、にーち、わー! みっなさーん! 私が来ましたよー!」
両手を上げて満面の笑顔でアイドルみたいに登場したニケ様、私はセブンイレブンで売ってたルイボスティーを私たちが使っているシャンパングラスと同じ物に入れてニケ様に差し出した。
「今日はお茶会ですから、はいどうぞ! アイスの実もありますよー!」
「あらぁ! ありがとう金糸雀ちゃん。あーん、冷たくておいしー! でも、私のこのお茶、皆さんのと違って桃の香りがしなくないですかー?」
「気のせいですよ気のせい! ニケ様、ミスタードーナッツもありますよー!」
「まぁ! とーっても美味しそうですねー!」
その日、ニケ様は一滴のお酒も飲まずに甘いものばかりで満腹になって帰ってくれた。というか、本当。お酒飲んでない時のニケ様、超綺麗でついついアイスの実食べさせてあげるくらい甘やかしちゃったじゃない。
今日は何だか幸せな気持ちで終えたなと思った時、ミカンちゃんがポンデリングをちぎりながら食べて一言。
「ルーの村。他の人狼がいり?」
そういえばそうよね? 人狼は一人じゃなくて二人いたんでしょうね。という事はルー・ガルーさんを追い出して安心しているであろうその村は……今頃。
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