第356話 ケイローンと森永ハイソフトと生姜の漬け込み酒と

「それなんなり?」

「これ? 梅酒とかと一緒で、生姜をお酒に漬け込んだ生姜酒よ。飲んでみる?」

 

 と言うのが今日の始まりだったわけなんんだけど……

 

「金糸雀、これ何がおつまみ合うのか分からないんだけど」

 

 えっ? 生姜酒ってそのままお薬的に飲む物じゃないの? そう、これは私、地球生まれの日本人が先入観的に考えていた事への異世界からの挑戦だったわ。普段、お湯で割って温まるくらいで考えていた事が馬鹿だったわ。

 

「そうね! 普通に何でも合うと思うわよ! 夏場は炭酸水で割ったらジンジャエール酎ハイ。揚げ物と一緒にぐーね! 冬は無難にお湯割りで粕汁なんかと一緒に飲むと寝る前はあったかスヤスヤよ」

「うむ……金糸雀殿では……金糸雀殿が思う一番合うおつまみは何であるか?」

 

 あー、はいはい! そう来ましたかデュラさん、一番合うおつまみという一番難しい概念ね。人によって違うという逃げ道は許されそうにないわね。

 

「じゃあ、一番決めてみる?」

 

 私はショットグラスにストレートで注いだ生姜の漬け込み酒をトンと置いて長い戦いのゴングが……

 

 ガチャリ。

 

 扉が開く音がしたわね。一旦、この件は置いておいて一旦お出迎えよ。本日のお客さんは……

 

「あら、ケンタロスさん系の方かしら?」

「いかにも! 小生こそ、ケンタロスの賢人。ケイローンにて候」


 私も、ミカンちゃんもデュラさん、そしてケートスさんも賢人を見て……

 

「「「「生姜の漬け込み酒の最高のオツマミは何ですか?」」」」

「このお酒のオツマミ……をと問うか? 様々な英雄達に教鞭をとって来たがこれほどまでに厄介な課題はなかったな……宜しい! では検証を開始する」

「「「「ハイ! ケイローン先生」」」」

 

 と言う事で、私達は以下のおつまみを用意してみたわ。

 

・お肉代表 ソーセージ

・お魚代表 かまぼこ

・チーズ代表 6Pチーズ

・お野菜代表 トマト


 と、とりあえず4選手をエントリーしてみたわ。

 

「じゃあ、最高のオツマミ探しに! 乾杯」

「乾杯なり!」

「乾杯であるぞ!」

「乾杯だけど」

「さぁ、生徒達よ乾杯」

 

 かー、きつい。度数は30度少々なのに、生姜成分がツンとくるわ。まずはお肉代表からソーセージ、アルトバイエルン選手の登場よ。

 

 いざ実食。

 

 うん、普通に美味しいわね。ここに生姜酒を……あー、全然アリだわ。

 

「勇者、しゅわしゅわで合わせたいかもー」

「うむ、これは絶品である!」

「まぁ普通だけど」

「ふむふむ、味わいとスパイス感がよく合う。合格」

 

 ミカンちゃんとケートスさんが少しダメな感じね。というか、ミカンちゃん全部しゅわしゅわって言うんじゃないかしら? 続いて、お魚代表かまぼこよ。

 あー、これはこれでいいわ! 焼酎にさつま揚げみたいな感じ。

 

「ん? うまー! うまうまなりっ!」

「蒲鉾の素朴な味が生姜によく合うであるな」

「悪くないけど」

「美味しいが、少し最後に生姜のえぐみが残るな」

 

 炭酸教のミカンちゃん……というかお魚大好きミカンちゃんだからね。ケイローンさんがダメみたいね。そしてここで三人目の加工品。6Pチーズよ。6個目はニケ様用ね。

 

 なるほど、こうなるのね……どっちも強めの味だけど喧嘩せずに口の中でいい感じに踊ってるわ。

 

「……えぇ、勇者苦手かもー」

「まぁ可もなく不可もなくであるな」

「普通に美味しいかも」

「これは! 当たりだ。うますぎる!」

 

 なんかケイローンさんもただ美味しいか美味しくないかしか言わないので、完全に趣味の領域よね。最後はお野菜担当。あの海原雄山も一番美味しい野菜という事でトマトを挙げていたので、冷やしトマトね。

 

 トマトと……生姜酒……これは……カクテルみがあるわね。実に悪くないわね! さて異世界組は?

 

「うんみゃい!」

「ううむ、少しこれはお互いの良さを殺しているであるな」

「微妙かも」

「小生の住む森にこういう味の果実があったような気がするな」

 

 結果、人それぞれじゃない。いや、ストレートの生姜漬け込み酒に合う物がこれなので、水割りやソーダ割り、お湯わりとかでまた違ってくるんだろうけど、これ! という物が意外と見つからないものね。

 

 そんな中、まさかの人物が奇跡を起こすのよね。

 

 ガチャリ。

 

「金糸雀! 酒くれ酒! 後みずぅ!」

 

 ご存知、神様達より長生きしているエルフのセラさん、一体どこで何をしているのかいまいち分からないけど時折やってきては我が家の食材とお酒を飲み食いして消えていく厄介者ね。果たして、本日は……

 

「そうだ。お前達にお土産があるんだ!」

 

 この前はチップスターとか持ってきたけど今日は……

 

「うおー! ハイソフトなりっ!」

 

 森永の長々と続く銘菓キャラメル・ハイソフトね。旅にハイソフトとかいうキャッチコピーまであるのよね。

 

「森永のミルクキャラメルと双璧のコンビだが、私は思う。ミルクキャラメルはコーヒー、ハイソフトは酒に合う……とな」

 

 と言って、イケメン顔で私にウィンク。初対面ならかなりテンションが上がったんだけど、セラさんのヤバさを知っている私はドン引きよ。

 しかし、この中で一人……

 

「なるほど。どうやら相当長い年月を生きるエルフとお見受けする。それをこの酒に合うか試させてはくれまいか?」

「珍しいなケンタロスの賢人かぁ、いいとも。金糸雀。私にも同じ酒を」

 

 随分飲んでるセラさんにお酒出すの嫌だなぁと思ったけど、ケイローンさんが試したがってるので仕方ないわね。

 私達は、まさかのキャラメルを目の前に生姜の漬け込み酒のショットグラスを手にしたわ。

 ウィスキーとかのおつまみにはたまに私も食べるけど……これ、どういう組み合わせ?

 私だけ未知の組み合わせにビビりながら……

 

 実食。

 

「「「「「!!!」」」」」

 

 これ……嘘でしょ。ハイソフトは生クリームをふんだんに使っているお菓子なわけでかなり味が濃い。そしてめちゃくちゃ甘いのよね。この甘味、キャラメル味が完全に生姜の漬け込み酒の濃い味わいを凌駕して、生姜の良い香りを引き立たせてくれてるわ。

 言うなれば、高級な海外のお菓子を食べている感じ。きっとこの私の感想は私だけじゃないはず。

 

「うんみゃあああああああああ! こりゅれうみゃああああああ!」

「おおう、何ということか……クソエルフの持ってきたものが最適解であったか?」

「めっちゃ美味しいけど!」

「答え合わせをする必要もなさそうだな。小生もこれが一番と頷く」

 

 ほんと、エルフとしてはなんの役にも立たないセラさんだけど、私の兄貴と飲み友だっただけあって、少しだけ一日の長があるのかしら? これに関してはお礼を素直に言わないとね。

 

「セラさん」

「金糸雀。気持ち悪い……うっぷ」

「ちょ、またですか? 早くトイレに」

 

 前言撤回、やっぱりダメだわこのエルフ。本当にはやく何とかしないと……私はセラさんの背中をさすりながら死んだ目で彼女を見ていると追撃が後ろから聞こえてきたわ。

 

 ガチャリ。

 

「みっなさーん! 女神が来ましたよー! あら? あらあら、今日はスパイシーな香りのするお酒に、キャラメルですねぇ! 私はキャラメルやキャンディーが大好きなのです!」

 

 神様の世界って甘いものあんまりないらしくてキャンディーの詰め合わせをこないだニケ様に渡したら他の神様達から好評だったらしいのよね。

 でも、ニケ様にお酒のませるとどうせ暴走するんで。

 

「あら美味しい! 実にキャラメルと合うお酒ですね? 薬湯のような味のするお酒です」

「クソ女神化しておらず」

「うむ……ハイソフト効果なのか、生姜の漬け込み酒の力か……」

「奇跡が起きたんだけど」

 

 私はその光景をセラさんの介護で見ることができなかったんだけど、それからその組み合わせを飲ませてもいつも通りクソニケ様になるだけで、この日の事は夢だったんじゃないかと今でも思ってるわ。

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