第357話 本当はヤバいシンデレラとかしわ入り湯豆腐とカップ酒 北雪と

 昔々、あるところにシンデレラという美しい女の子がいました。というか設定上は私の娘という事になるけど、私は二十歳だから一体いつの頃の娘よ。

 

「シンデレラ、シンデレラ何処なの?」

「ここです。おかん」

「おかんって言わないでよ。そこはお母様って言ってちょうだいな。ちなみに私は犬神金糸雀。貴女の継母よ! あー、なるほど、貴女は連れ子だから同い年くらいなのに娘なのね」

「お母様、人を呼び立てておいて一人で自己完結されるなら私は作業に戻りますけど?」

 

 なんか好戦的なシンデレラね。まぁいいわ。

 

「お掃除にお洗濯は終わったのかしら?」

「お母様、我が屋敷のお掃除ロボットとドラム型洗濯機の性能をご存知ない?」

 

 …………なにこの子、私と戦争したいのかしら?

 でもこんなシンデレラにはこれまた私の娘という設定の……意地悪な姉が二人いるのよ。

 

「デュラさん、ミカンちゃんいらっしゃい!」

 

 そこには首だけのデュラハン、意地悪な長女デュラさん。

 

「ふはははは! シンデレラよ! 貴様の掃除も洗濯も我が先にしてしまったぞぉ! ついでに料理の片付けもなぁ!」

 

 めっちゃいい姉ね。

 

「勇者、ソシャゲに忙しい故、かなりあの呼び出しをスルーせり」

 

 とソファーの上で寝転ぶ次女ミカンちゃん。

 

 意地悪な姉じゃなくてダメな姉ね。まぁいいわ。なんと、私の手の中には招待状があるのよね。

 

「お城の王子様の結婚相手を選ぶ舞踏会があるらしいの。国中の美しい娘を集めているんだって。デュラさん、ミカンちゃん行ってらっしゃい」

「我、首だけ故舞踏する事ができぬであるな。しかし、美しい娘のみを集めようとしている事が実に現在のTPOを無視し、封建的すぎて受け付けぬであるな。次期王となるのであれば容姿だけでなく、妃となる者の器を測るべきである。よって丁重にお断りしよう」

 

 長女はダメね。じゃあ、ミカンちゃんね。

 

「えぇ、勇者ゲームオフある故、クソパーティーには参加せず。オフ会後に打ち上げにて帰りは終電なりっ」

 

 次女は……予想していたわ。

 

「本来なら私が行きたいので、じゃあシンデレラ」

「あっ、お母様、お断りします。このままの私が行った所で他の芋娘と大して変わらない為、見向きされませんから。王子様を落とすには劇的な出会いと印象操作が必要でしてよ。それに未成年の女子を招いたパーティーなのに夜通しというのも少し考えものでしてね」

 

 なるほど、何これ? どういう状態なの? なんか面倒になってきたから夕食にしましょう。

 

「シンデレラ、食事の準備は?」

「それに関しては我とケートス殿で鰹出汁の湯豆腐にかしわを入れて用意しているであるぞ!」

 

 設定無視のケートスさん出てきちゃったわ。後々、魔法使いとしてシンデレラになんやかんやあって帰ってもらおうと思っていたのに。

 

「煮るだけだから余裕だけど」

「湯豆腐かぁ、じゃあ。お酒は寒い地域のカップ酒で決めましょうか?」

 

 ドーンと用意したのは北雪ね。

 新潟の純米吟醸、お米は日本酒界最高のお米である兵庫県の山田錦100%。キレ味に日本酒ファン達を満足させる一品ね。

 本日はカップ酒で頂くわ。

 

「えぇー、勇者しゅわしゅわがいいー」

「お母様、私はスパークリングワインの方が、黄色い猿が作ったお酒はちょっと」

「いいから飲んでみなさいよ。不味かったら好きなの出してあげるわ」

 

 という事で、カップ酒は蓋を外してそのまま飲むのが作法ね。

 

「乾杯」

 

 クイッっと一口。なんか、世の中色んなお酒があるけど、日本酒程甘露と呼ぶに相応しいお酒はないと思うわ。スルスルと入った後に身体がジーンと暖かくなる。命を入れているような気持ちになるわ。


「はぁああ、うまぁ」

「美味しいけど」

「うむ、これは美味い日本酒であるな」

 

 で? ギャアギャア煩い小娘達は?

 

「うみゃい! お代わり!」

「お母様、2本目をどうぞよろしく」

 

 スコン! と二人はカップ瓶テーブルに打ち付けてそういうわ。手のひらくるくるが凄いわね。まぁ、このお酒の美味しさが分かったんならまぁいいわ。手早く2本目を二人に渡すと、

 

「じゃあ、冬の代名詞。湯豆腐つつこっか?」

 

 湯豆腐と麩ではなく、かしわと長ネギで決めて味付けしたスープ。そのままでも出汁が効いてるのでいけるわねぇ。すかさずここで北雪よ。

 

「お母様、お城の御馳走ってこの湯豆腐より優れているのでしょうか?」

「さぁ? 豪華かもしれないけど、多分今日は湯豆腐に勝てるご馳走なんてないんじゃない?」

 

 シンデレラは北雪をクイッと4分の1飲んで、そして長ネギをパクり「あちゅい」と女子を苛立たせる熱いアピールをした後に、

 

「そんな不毛なパーティーに向かう芋娘達は愚かですね。座して天命を待てという言葉も知らないんでしょうか?」

 

 随分猛毒みが強いシンデレラだけど、北雪、湯豆腐、ネギ、かしわと三角呑みしてるわ。

 

「ふはははは! まぁ、舞い上がるのもやむなしであろう。町娘が王族と婚礼できるなど、勝ち確のイベントであるからなぁ」

「平民ならではの考えで、一石を投じれるけど」

「シンデレラは興味なき?」

 

 お鍋を囲むのは実に楽しいわね。明らかに異端の筈のシンデレラも長年一緒にいた友人みたいね……とか私は思ってたのよね。

 

「いい質問ですわね。ミカンお姉様。私が王族の一員となった暁には現王政の貴族を皆処刑し、私の考えた政を国中にしき、統制をとります。そして私の銅像を建てて、悠久の平和をもたらせるつもりですわ!」

 

 歴史上、自分の銅像を建てた人は基本的にまともな終わりが訪れていないのよね。まぁ、でもお酒の席だからそういう戯言でもドン引きしながら聞けるレベルね。

 

「北雪お代わりいる人?」

 

 全員挙手。ほんと、この部屋にいる人も来る人もいい飲みっぷりで堪らないわね。全員分、少しだけお湯の中に放り込んでぬる燗にしてからみんなに配るわ。

 

「じゃあ、そろそろエンジンかかってきたでしょ? ポン酢や、薬味で味変しましょ」

 

 湯豆腐といえばポン酢ね。もみじおろしに生姜、と各種薬味を用意した上で2回戦目。暖かい日本酒は口福という言葉を感じさせてくれるわね。

 

「勇者、シンデレラやべーやつだと思うかもー」

 

 ストレートにシンデレラをディスったミカンちゃん。ちょんちょんと七味唐辛子をかけた湯豆腐を一口、そして北雪をグビリと飲んだシンデレラは、

 

「ミカンお姉様、狂った世界を変えようと思うと、狂人にならざる終えませんわよ。その時代に何を言われようと、私が行った事は歴史が証明してくださるでしょう?」

「なんと! それほどまでの覚悟が、感服したである」

「普通にやばいけど……」

 

 かしわの入った湯豆腐を相当気に入ったのか、シンデレラは頬に触れながらパクパクと食し、そして時折グビリと北雪を流し込んでるわ。それにしてもミカンちゃんと同い年くらいだろうにかなりお酒強いわね。

 5缶目、私でも……あれ? 私いつの間にか8缶目だったわ。まぁ、そんな事より、ことの顛末は気がつくとシンデレラはこの部屋にいて、私の事をなぜか継母、ミカンちゃんとデュラさんを連れ子の姉、そしてケートスさんは魔法使いのはずだけど何故かその設定はぶっ飛んだみたい。

 で? この子いつ帰るのかしら?

 

 ガチャリ。

 

「みっなさーん! 女神が来ましたよー! ご挨拶はまだですか?」

 

 そしてややこしいニケ様までやってきちゃったわ。ニケ様がリビングに入ってくるとシンデレラが、


「女神様! お待ちしていましたわ! 今からお城の舞踏会に行くので、この見窄らしい服を変えて、何か乗り物を用意してくださらない?」

「貴女は私を信仰するシンデレラ! 良いでしょう! 武闘会ですか、厳しい戦いになりそうですね。乗り物は、これにしましょう」

「ああん! それ、勇者のミニ四駆ぅ!」

 

 ミカンちゃんのミニ四駆を魔法でマッドマックスの人が乗ってそうな乗り物に変えたわ。そして「服はそれぇ! 最高加護のものですよ!」とシンデレラは物々しい甲冑に身長と同じくらいの巨大な剣を背中に装備してるわね。

 これ、大丈夫なやつじゃないわね。

 

「そしてこの刃物が飛び出るブーツもつけておきます! シンデレラ、これらの魔法は十二時までに魔法が解けます。いいですね? それまでに終わらせるのですよ!」

「わかりました! 女神様」

 

 シンデレラはどうやって玄関から出ていったのか分からないけどとんでもない装いでお城の舞踏会に向かったわ。そこで王子様と出会うのだろうけど……私はその数ヶ月後、古本屋で本当はヤバいグリム童話という物を読んでこの後のお話を知る事になるわ。

 それは……言葉にできないような内容だったので、また別の機会に語るとしましょうか。

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