第351話 風邪の神とトマト鍋とボジョレヌーボ2024と
「うおー! シャウエッセンうまし!」
「ご飯と味噌汁とシャウエッセンはマストだけど」
ウチの朝ごはんはご飯の日とトーストの日とオートミールの日があるけど、やっぱりご飯の日がバチくそ人気ね。いい加減、お米の価格落としてもらわないと困るわね。
「最近は香薫に負けているらしいであるが、朝に食べるのはシャウエッセンが最強であるな!」
「そうですね。シャウエッセンは朝食マイスターで、香薫はおつまみマイスターでアルトバイエルンは焼肉、BBQマイスター的な使い方をウチの家ではしてますね」
日本の市販のウィンナーってお手頃でなんであんなに美味しいのかしら? パリッとしない皮のやつももれなく美味しいものね。
「……ケホケホ、あれちょっとヤバいかも」
「おぉ、大丈夫であるか? 金糸雀殿ぉ!」
「大丈夫です……けど、これは何だか風邪を引くような気がします」
あっ! これ風邪ひくなと思う瞬間ってあると思うのよね。喉に違和感だったり、やたらくしゃみが出たり、そして次の日、もれなく発熱というやつね。そして今は時間が朝。睡眠も十分に取った私の身体は元気でいるから、大丈夫かなと1日を過ごして疲れが溜まってくる夕方から夜にかけて具合が悪くなってくるまで未来が見えたわ!
「急遽だけど、今から鍋作ります。お昼ご飯兼、お昼飲みで風邪のウィルスに負けない体のコンディションにするわ!」
「おおぅ、手伝うであるぞ金糸雀殿」
「あーしも手伝うけど?」
「ありがとうございます。デュラさん、ケートスさん」
ミカンちゃんは安定のソファーでごろ寝してゲームしてるわ。
「今日はトマト鍋を作って、ワインで温まります」
ドン! とボジョレヌーボを私は取り出す。
本来は明日、11月の第三木曜日に開けるのが普通なんだけど、明日は風邪に負けて飲めないかもしれないから。
「トマトは四個、大きめに切って、メインの食材は玉ねぎと豚肉、ジャガイモ、人参、そしてキャベツです」
キャベツ。今、馬鹿みたいに高いのよね。チリソースとトマト缶、ケチャップにコンソメ、そしてすりおろした生姜とニンニクを入れてぐつぐつと煮込むわ。その間に私は加湿器を……
ガチャリ。
「ミカンちゃん、見てきて!」
「えぇ、勇者今マッチング対戦中ぅ!」
「ミカンちゃんなら対戦しながらでもできるでしょ」
ミカンちゃんはスマホゲームをしながら玄関に向かうと、
「だ、誰なり?」
「力を持った人間か? 邪魔をするぞ」
なんか偉そうな人が入ってきたわ。着物を着て気難しそうなおじさん。いや、元気なおじいさんかしら?
「私は犬神金糸雀、この家の家主です。貴方は?」
「私を知らぬのか? この日本の病魔・風邪の神だが」
「あの、お引き取りください」
「今、奥で何かを作っているな?」
人の話聞かない系か……よりにもよって、風邪の神様来ちゃったよ。これって明日は絶望的かしら?
「お鍋をちょっと」
「ほぉ、鍋か、それはいい。何鍋か?」
「トマト鍋です」
「トマト鍋? そのような悍ましいものを作っているのか?」
「別に悍しくはないですよ。美味しいですよ」
「ハッハッハ! ならば娘、そもそも鍋とは何か? 何を持ってして鍋と言うのか?」
めんどくせーなこの爺さん。
「鍋物は土器で貝とかを煮て食べる事から始まってるわね。ちなみに世界最古の文明が5200年前のメソポタミアと言われているけど、青森県の土器が15000年前の物という事が分かっているから、日本が世界一古い文明というか、日本から派生して世界ができたと言っている考えをもつ考古学者が最近出てきたわね。という事で15000年前から、大きな器で物を煮て食べる物が鍋よ。よってトマト鍋も鍋ね。じゃあ風邪の神様に聞くけど、鍋って何?」
「グゥ……」
風邪の神様を私が完全論破したら、呆然と立ち尽くしているから私は調理を終えて、ワインを飲む準備もしていると渋い顔をしてまだ突っ立ってるので、
「風邪の神様も一緒に食べましょ! お鍋はみんなで囲んで食べるから美味しいのよ」
「仕方がない。食すとするか」
そこまでして食べてもらいたい訳じゃないけど、偏屈な老人ってどこにでもいるからね。あと、早くお鍋を食べて温まりたいわ。
「それじゃあ、一日早いけど、ボジョレヌーボに乾杯!」
「乾杯であるぞ!」
「乾杯なりっ!」
「乾杯だけど」
私たちがそう言ってグラスを掲げているのを見て風邪の神様も同じく「乾杯じゃ」とワインを一口。
うん、やっぱ若いだけあって普段飲んでるワインみたいなコクがないけど、ジュースみたいなフレッシュさが堪らないわね。
「うまい! よい酒じゃ! でかした娘よ!」
まぁ、うん美味しいんだけど、ワインを飲んだ時の感動みたいなのはボジョレーってないのよね。今年もボジョレー飲んだなーみたいな感じで、ワインを普段よく飲んでいる異世界組も、
「おぉ、うまいワインであるな」
「勇者、シュワシュワがいい」
「うまいけど」
みたいな、淡白な感想ね。だけど、若いワインにはあ若いお料理よ。和洋折衷のトマト鍋。リコピン一杯でピリ辛で栄養たっぷりよ。
「じゃあお鍋も食べましょ!」
私とデュラさんで全員の器によそってあげる。まずは、トマトから……
「あちっ、ふぅふぅ! うんまぁ。ここでボジョレーよ」
あぁ、正解に近いわね。ミカンちゃんはキャベツをパクりと食べて。
「あー! あー! うんみゃい! 勇者これしゅきー」
いつの間にかボジョレーをコーラで割ってカリモーチョ飲んでる。デュラさんは少しタバスコを振ってニンジンと玉ねぎね。私もあとでやろーっと。
ケートスさんはホクホクのジャガイモ。お箸で器用に割ってパクり、ぱぁあああと笑顔が咲いてからのボジョレー。
「ケートスさん美味しい?」
「美味しいけど」
もう、この返しが可愛いんだからぁ! サメっぽいのにお芋とかお野菜好きよねぇ。さて、風邪の神様は?
「スープがいい。ワインに合うねぇ。そしてこのトマト。色合いで主張しているのに、味は優しくてそこまで主張してこないのがいい。こりゃうまいねぇ」
なんか、時そば(落語の演目ね)みたいになってるけど楽しんでくれて何よりよ。私も身体がポカポカしてきたし、風邪になる前に予防できそうね。風邪ひきかけで風邪の神様と一杯やってる謎な状況だけどね。
ボジョレヌーボをみんなで3本、そしてトマト鍋の具もあらかたなくなったところで……
「シメのスープパスタにするであるな!」
「お願いしますデュラさん」
デュラさんはトントンとウィンナー、玉ねぎ、ピーマン? ニンジンを軽くフライパンで炒めると半分に折ったパスタと共にトマト鍋にイン。
もしかして……デュラさん、あなたまさか!
「ナポリタン風スープパスタであるぞ!」
こんなの美味しいに決まってるじゃない! 私たちはパルメザンチーズを少しかけて、タバスコを二回ほど振ると、シメパスタをいただきます。
「んっ! 美味しい!」
「うんみゃあい!」
「普通に美味しいけど」
「麺がいいねぇ、スープに絡んでたまんねぇ」
それぞれシメパスタも楽しんでお腹がいっぱいになったところで、デュラさんがデザートにグリューワインまで用意してくれたわ。
「金糸雀殿、片付けは結構であるから、それを飲んで歯磨きをしたら休むであるぞ! クソ女神がやってきたら念の為に病気よけの加護をかけるように言っておくである」
「すみませんデュラさん、じゃあお言葉に甘えて」
私が部屋に戻ろうとした時、ミカンちゃんが「あたりめたべり?」とみんなに勧める。デュラさんは「おぉ、いただくであるぞ」と、ケートスさんは「食べるけど」そして……風邪の神様は。
「ぐぁああああ! 力を持った娘っ子、なんてものを持っているんだ。これはたまらん」
と言って出ていったわ。なんでもチャクラジジイ的な名前が風邪の神様で、スルメイカが苦手らしいわね。日本の妖怪的な存在ってなんでそれが? みたいな物嫌いよね。ベッコウ飴とかね。
アレルギーかしら? あぁ、やっぱ風邪っぽいわね。睡魔が襲ってきたわ。それから私が目を覚ましたのは夜の21時。
「おぉ、起きたであるか? 食欲があれば今日の食事を温め直そう、なければパン粥でも作るが金糸雀殿どうであるか?」
「いやぁ、ニケ様きてました?」
「うむ、金糸雀殿の容体を見てから少しして帰って行ったであるぞ。金糸雀殿の体に障ってはいかんと静かにな」
ニケ様に今度お礼言わなきゃね。
「かなりあ」
「ん? どうしたのミカンちゃん」
「クソ女神が、あそこのお酒もっていけり」
「えっ?」
あっ! 私の大事なオールドパー12年が……ない。
えっ? 治療費って事?
ニケ様……それは流石に……
「金糸雀すまない」
「ケートスさんどうしました?」
「えらく強いエルフが来て、おつまみアソートが強奪された。金糸雀の病魔を消し去ってくれた凄いエルフだが……止められなんだ」
あー、はいはい。高級ウィスキーに高級おつまみをね。
まぁ、今回だけは許してあげるわ。慌ててやってきてくれたっぽいし、なんだかんだで色々優しいのよね。
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