宅飲みすると必ず異世界の人が相席してくる件

アヌビス兄さん

女子大生の一人飲み編

第1話 獣人とカルビーポテトチップスのり塩と限定版金麦と

 私は犬神金糸雀いぬがみかなりあ。兄貴がなんのかんので部屋を解約してどこかに行くというので、代わりに兄貴の部屋を私が借りる事になった。


 私は今年、二十歳になった花の女子大生……のはずだったのだけれど、新歓コンパで先輩達が用意した大量のストロングゼロを一人でガブ飲みしていたら引かれてサークルに入るも浮いてしまい三日で辞め今に至る。


 私は趣味という程の趣味もなく、タダ酒が飲めるならと参加した程度なので、後悔はない。兄貴の部屋にはありがたい事にお酒はいくらでもあるので……ん?


「何か置き手紙? なになに? “一番上と一番下の棚にある酒は大事なお客さんのボトルキープなので飲まないように“……それ以外はいいんだ。兄貴も私もお酒以外に趣味がないからこれだけは守らないと殺されちゃうな……冷蔵庫は……」

 

 冷蔵庫って食べ物とか普通入れてると思うでしょ? 冷凍庫にはロックアイス、冷蔵庫には冷えた第三のビールのみ。何故か入れ忘れたのかソーダ、シャンパンやスパークリングワイン。が冷蔵庫の横に並べてある。

 さすがに同じ遺伝子を持つ私でも引くわ。

 

「グラスも各種揃ってるし、私の宅飲みライフは約束されたようなものね。とりあえず入居祝いにジャンクなところで楽しみたいかな……どーれーに、しーよーうかな?……」

 

 その時である。

 ガチャリと扉が開く音。

 えっ? なんで? 鍵しめたハズなんだけど……

 ちょっと誰?

 

「すまない邪魔をする。迷ったらしい、少し休ませてくれないか?」

 

 何? えっ? 怖いんですけど……。

 なんか犬みたいな耳をした、綺麗な女の人。それもコスプレかな? やばい人かな?

 

「今から一人で宅飲みするのでごめんなさい。出ていってもらえますか?」

「連れないことを言うな、そうだ! 申し遅れた、私は北の領にあるノビスの町で冒険者兼、ギルド酒場の給仕として働いているクルシュナだ。銀細工士のクルシュナと言えば店で商品を見たこともあるんじゃないか?」

 

 知らねぇ! というか、何? そういう設定の人? 凄い美人だけど、オツムがヤバい人かな?

 

「えっと、警察呼びますよ?」

「なんだか分からんが、これでどうだ? クリエイト・シルバー!」

「えぇええ!」


 目の前で鉱石を髪飾りに変える手品を見せて私の頭にポンとつける。芋ジャー姿の私には絶対似合いそうにない素敵なデザインだった。

 

「一休みさせてもらうお礼にこれではダメか?」

「えっと……じゃあ少しだけ。私はカナリアといいます」

「見た目同様に可愛い名前だな」

 

 なんだろう? このクソ美人にそんな事言われると馬鹿にされているように感じるのは私が卑屈すぎるのだろうか?

 

 冷蔵庫には……酒しかねぇ! 兄貴、馬鹿っ! ソーダ水とかでいいのかな?

 

「カナリヤは何をしていたのだ? もしかして就寝前だったか?」

「いえいえ、さっきも言った通り寂しく一人酒ですよ」

「酒か! 私も一杯もらっていいか?」

 

 おや? この美人のクルシュナさんとやら、飲める口か……オツマミは……さっき買ってきた。

 

「こんな物しかないですが……カルビーポテトチップスのり塩にコロッケです。あと今冷えてるのが、これしかないんですが……金麦・期間限定醸造です」

 

 一応お客さんなので、私はクルシュナさんにロング缶を渡す。

 

 

「つ、冷たい! なんだこれは!」

「えっと、缶ビール……ですけど……第三のビールなんでビールじゃないですけど……」

 

 あっ、これはこんな安酒飲んだ事ないっていう……なんかクルシュナさんパリピっぽいからリムジンでシャンパンとか飲んでいるんだろうか? あぁ、飲み友いなさすぎてパリピのイメージが偏りすぎている。

 プシュ!

 私は無意識の内にプルトップを開けた。

 

「ほぅ! そうやって開けるのか! と言うかこれに酒が入っているのか! なるほど! えい!」

 

 プシュ!

 

 えっ? 缶の開け方知らない系? 

 

「じゃ、じゃあクルシュナさん、乾杯!」

「うむ! 乾杯」

 

 ごくごくごくと、今の第三のビールではトップクラスに金麦が美味しいな。

 

「ぷはぁああ!」

「うまい! こんなバク酒。飲んだことがないぞ! さぞかし高いのだろうな!、100ガルドくらいか?」


 いえ、近所のドンキで115円くらいでした。


「あと、つまらない物ですが」


 私はお皿に入れたカルビーのポテトチップスのり塩以外に惣菜のコロッケをクルシュナさんに出すと、クルシュナさんはポテチを一枚取ってまじまじと見つめる。

 

「なんと薄い。職人の腕が相当な物だな……なんだこれは! 美味い! それにこのしっとりとした揚げ物……中の具材も相当に手が混んでいるな」

 

 普段アンタ何食ってんだよ! 

 いや、一応ポテトチップスは戦後間もない頃には上級国民しか行けないような高級バーのオツマミだったし、コロッケだって高級料理クロケットから来てるんだけど……今や超ジャンクフードの代表格よ? ビールよりもこの第3のビールがバッテリーを組むのには一番です。

 

「あの……クルシュナさん、良ければまだまだありますので……飲みます?」

 

 少し顔を赤くしたクルシュナさん。あっ、この女! 飲兵衛だな! 引くわ! とか思われたかな?

 

「悪いな……頂いて良いか?」

「も、もっちろんです! 飲みましょう! クルシュナさん!」

 

 ロング缶をお互い三本ずつ開け……あっ、私は350の缶も開けたか? 私はほろ酔い。クルシュナさんは結構ガッツリ酔ってふわふわしてる。ソファーで船を漕いでいるので、今日は泊めてあげようかな。

 

「クルシュナさん、もう遅いですし、女の子をそんな状態で追い出せないので、私の……と言うか兄貴のベット使ってください。私は寝袋で寝ますので」

「……私はここで……かまわ……ん」

「良いしょっと! あとこの耳外しますよ……ん? 人間の……普通の耳がない? この犬みみふわふわしてて……暖かくて、たまにピクピクしてる……えっ? 本物?」

 

 ははーん! 私、多分酔ってるな。弱くなったかな? 片付けは明日でいいや。私も寝よ。これが夢かもしれないし……

 

 

 喉が渇いて目が覚めた。

 

「ほらね! ほら! やっぱ夢だった! おかしいと思ったのよ!」

 

 兄貴のベットにはクルシュナさんなんていなくて……私は寝袋を片付けると、金麦の缶を片付ける。

「一人でロング缶のパックと350缶開けちゃったか……飲みすぎたな……ポテチもコロッケもこんな食べて……太るって私……まぢか……」

 

 私は私の筆跡ではないであろう字と読む事ができない文字で一文何かが書かれている紙切れを見つけた。そしてその横に多分……クルシュナと読むであろう名前が書かれている。

 

 ふと頭に手をやるとそこにはやっぱりクルシュナさんが作ってくれた髪飾りがある。

 

 私はまだこの時は狐につままれたような気持ちだったのだが、どうやらこの部屋には、私の知らない世界の住人がお酒を飲みにやってくる場所になるのだ。

 私が手に入れた兄貴の部屋、私の宅飲み部屋は何故か異世界の住人との相席居酒屋のようになっていく事を私は知る由もなかった。


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