第77話 白竜城
砂糖の取り扱いや為替を始めてからはや四ヶ月。
二つの事業はかなり順調に進んでいて、商人たちがこぞって我が国に訪れていた。
他国の商人が安値の小麦などを持ってきて、高値の砂糖を大量に買って外に持っていく。
つまり輸入した額に対して輸出額が大幅に上回る。凄まじい貿易黒字でウハウハとなっていた。
そんな中で俺たちはアミルダ様に呼ばれて、玉座の間へとやって来ている。
そういえばあまり語っていないが、セレナさんはタッサク街でアミズ商会の面倒を見てもらっている。
商会を放置するわけにもいかないし、かといってどこぞの馬の骨に任せるのも無理。
そんなわけで彼女に白羽の矢を立てていた。もうすぐ後任が育ちそうとのことで、近いうちに彼女もまた自由に動かるようになりそうだが。
「よく来たな。今日こそは新しい城の名を決定する!」
アミルダ様は万感の想いを込めるかのように力強く宣言した。
そう! まだ決まってないのだ!! この城の名前は!!!
仮にも国の象徴なので素晴らしい名前をと悩んだ結果、今の今まで未だに確定してないという大惨事だ!
「もういいかげん国民も呆れておるわ! 何なら
「叔母様、もう白亜城でよいのでは……?」
「ダメだ! いくら何でもそのまま過ぎる! 他に白い城が造られたら被るだろうが!」
アミルダ様は城にすごく強い感情があるようで、珍しく妥協をしないためこんなことに……普段なら実利を取って名前をさっさと決めるだろうに。
正直なところ、俺も白亜城と内心思ってるんだよな。
それにこの城のモデルは姫路城。彼の城は白鷺城とも呼ばれていたし、白亜城でも問題ないとは思うのだが……。
「白なのはよい! だが白だけしか特徴のない名前はダメだ! 汚れたら灰色城と笑われるオチが見えるわ!」
「そ、そうですかね……?」
いかん、アミルダ様が珍しく面倒くさい感じになってるぞ。
「うーむ……アミルダ様、ようやくよい城を手に入れたと舞いあがってるのである」
「舞いあがってなどおらぬ」
アミルダ様は腕を組んでキッとした表情になるが……間違いなく気が昂ってるかと……少し笑みがこぼれてるし。
まあ彼女の気持ちは分かる。
一領地程度の国土にまで落ちぶれて、滅ぶ寸前だった国が美しく立派な城まで建てられたのだ。
白亜の城を自分のことのように愛おしく感じているのだろう。
「では白夜城はいかがであるか? 夜も白く輝いてハーベスタ国を照らすという意味を込めるのである!」
おお、バルバロッサさんがよい案を出してくれた。
いいじゃないか、白夜城。格好良いしハーベスタ国を照らすというのも縁起がよい。
これならば文句がないだろうと思ったのだが……アミルダ様は少し不満顔だ。
「それだとエミリの光魔法が連想されるだろ。この城の主は私だぞ」
「「「えぇ……」」」
あ、アミルダ様は腕を組んで少しだけムッとした顔をしている。
珍しく見せる姿は可愛らしいのだが、これでもダメなんですか!? バルバロッサさんが珍しく考える方向で働いたのに!
「じゃ、じゃあ白炎城とか……」
「城に炎という単語は縁起が悪い」
確かに城の名前にゲンを担ぐのを気にする人は多い。
例えばこんなエピソードがある。戦国時代の引馬城という城が、浜松城に名称を変更されたのだ。
その理由は馬を引くというのを撤退するみたいで、縁起が悪いという話だった。
更に言うなら名称変更を行ったのは、無名大名ではなくてあの徳川家康である。
他にも今浜という場所に城が建てられたのだが、名称は何故か長浜城となった。
おそらく信長の『長』が使われているとされている。
つまり大成する人は城の名前も気にする……のかもしれない。
「じゃ、じゃあアミルダ様とハーベスタ国の名をお借りしましょう。アミスタ城とか……」
「響きが微妙だ」
「ごもっともで」
ハーベルダ城も微妙だし……アミルダとハーベスタを組み合わせてもよい名前は難しそうだ。
かといってアミルダ城なんてしたら、自己顕示欲が強すぎると笑いものになってしまう。
「ならばいっそ、民衆から意見を求めて城の名前を決めるのである!」
「確実に白亜城になるからダメだ」
「お、叔母様が面倒くさい……」
本当に城の名前、永遠に決まらないのではなかろうか。
いやそれは流石にマズイな真剣に考えよう。おそらくアミルダ様は、それとなく自分のことを城に入れて欲しいのだ。
アミルダ様と言えば炎……だがその単語は使えない。そうなると……炎の竜ではないだろうか。
「……
「……よし! 白竜城に決定する!」
「「「やった!」」」
アミルダ様がすごく嬉しそうに叫んだ!
と、とうとう決まったぞ! 苦節数か月、ようやっと城の名称が決まったぞ俺達は何やってたんだ……。
今までの即断即決はどこへやら、これまでの国政で最も決めるのに時間かかったのが城の名前とは……。
頼むぞ白竜城! これだけ悩んで決まった名前なんだから、国のシンボルとして末永く残らないと許さないからな!?
「よし! では城の名前が決まったので早速発布する! それと以前から話していた他国の重鎮を招いての外交パーティーも行うぞ!」
「し、城の名前が決まってないから動いてなかったのですか!?」
「当然だ、城の名前も決めてないのに招待など出来るか! ふふふ、白竜城……よい名ではないか」
ご満悦のアミルダ様。
いやお気に召したのはよいのですが……それで国政が滞ってたらダメでしょ。
エミリさんやバルバロッサさんもジト目をしていて、それに気づいたアミルダ様は誤魔化すようにコホンと喉を鳴らした。
「……もちろん今までパーティーを開いてなかったのは、城の名前が決まってないからだけではない。経済が復興しつつあり、砂糖などの自慢できる品が広まるタイミングを待っていたのだ」
確かにアミルダ様の仰ってることは間違ってないのだろう。
商会などが力を取り戻して経済が動き始めた。外交を始めるのに絶好のタイミングなのは間違いがない。
……でも城の名前がなかなか決まらなかったのは、貴女のせいだと思うのですが。
「更に言うならアーガ王国の土地を更に少し奪い、この城が国境付近から多少離れた場所になったのも大きい」
実は我が国はアーガ王国の土地を更に浸食することに成功していた。
なお別に攻め込んだわけではない。アーガ内の国境周辺の村の民衆が白竜城を見て、趨勢を理解して従順を示してきただけだが。
白竜城の威光の力によって国土が増えたのである。
おかげでこの城の位置はアーガ王国との最前線ではなくなったので、外交パーティー会場に使えるようになったのもありがたい。
「よってこれより外交パーティーの準備を行う! 各自に頼みたい仕事を言い渡す!」
アミルダ様は話を逸らすように声を荒げなさった。
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