第5話 兵士全員に甲冑揃えます。でもそれだけじゃつまらない。


 俺は屋敷からしばらく歩いた先にある練兵所に訪れて、軍務担当のバルバロッサさんに挨拶をしていた。


「ぐははは! よく来たなぁ! 自分の仕事は大丈夫か!」

「もう一ヶ月分の仕事は終わりました。なのでバルバロッサさんの手伝いをしようかと」

「うむ! よい心がけであるな!」

「いやバルバロッサおじさん。仕事が速すぎることに突っ込みはないのでしょうか。S級ポーション三樽ですよ……」

「見張りのエミリ様が否定しないのだから真実なのでしょうぞ。早くやる分には問題ないのでは?」

「そ、そうなんですけど……」


 バルバロッサさんは「ぐははは!」と高笑いをした。


 そして俺をまじまじと見た後に一言。


「お主、もう少し鍛えるべきだぞ! 手伝いよりも訓練に加わるか?」

「いえ俺は魔法使いなんで……」

「何を言う! 魔法使いとて身体が資本! 魔力が切れた時に剣が使えれば戦えるぞ! 鍛えても損はない! まずは軽く腕立て伏せ千回からでよいぞ!」


 いかん、このままだとバルバロッサブートキャンプに巻き込まれてしまう。


 リーズの身体は素の状態ではあまり強くはない。


 それに俺にはドーピングがあるから鍛える必要はあまりないのだ。


「一理ありますが今はこの軍に足りない物を用意することで貢献しようかと。不足している物はありますか?」


 俺は生産系魔法使いなので自分よりも軍を強化したい。


 剣や鎧が足りぬならば生産し兵糧不足なら調達する。兵士が不足なら金を稼いで傭兵などを集めよう。


 さあ何が不足なんだ? 


「ぐははは! 全部足りん! 兵も武器も兵糧も練度も何もかもだ!」


 そっかー全部足りないかー……そうなると何から手を付ければよいやら……。


「あの、特に不足している物はありますか?」

「そうは言ってもな、根本的に何もかも足りんのだ。アーガ王国は万の軍勢を簡単に率いてくるだろう。対して我が軍は揃えられても千だ。兵士を増やそうにもわが国に勝ち目がないので誰も雇われてくれぬ」


 バルバロッサさんは真面目な顔で腕を組んでいる。


 負け確定の軍に雇われる傭兵なんていないか。皆、命あっての物種だろう。


 こちらは千で相手は万か。彼我の戦力差十倍、盛り上がってきたな。

 

「そもアーガ王国は総数なら十万以上の兵士を持っている。だが我々に降伏はあり得ぬ! 奴らに全面降伏すれば待っているのは民への暴虐ぞ! 従属するにしても我らの武を見せつけて、よい条件で講和に持ち込まなければ!」


 バルバロッサさんの咆哮で空気が震える。


 なるほど、勝ち目のない戦力差でも降伏しないわけだ。


 彼らもアーガ王国が非道極まりないことは理解している。そしてその考えは正しい。


 あいつらは本当にロクでもないからな。素直に降伏したら国が焼かれて酷いことになる。


「兵士は増やせないか。なら可能な限り彼らの軍備を整えて強化するのがよさそうですね。彼らの装備はどんな感じですか?」

「あそこで訓練している兵士たちそのものである!」


 バルバロッサさんの指さした先では、皮鎧を着た兵士たちが槍をつく訓練をしていた。


 皮鎧か、それに槍も穂先が欠けていたりであまりよいものではない。


「だいぶボロボロですが訓練用のものではないのですか?」

「アーガ王国のせいでまともな武器は手に入らぬ。周辺国に対して我らに武器を売ったら、お前らの国を滅ぼして主導者は皆殺すと脅しているのだ。逆に協力すればアーガ王国が国を侵略しても、王家だけは幸せに暮らさせてやると」

「その国の民が酷いことになりそうですね……」

「そもそもあの王国が約束を守るはずがあるまい。どうせ滅ぼした国の王家などは邪魔だと処刑するに決まっている!」


 流石アーガ王国、本当に悪逆非道の権化だ。


 そのおかげで俺も心を傷めずに自重せず好き放題できるわけだが。


 ならまずは装備を強化すべきだな。上等な装備を揃えるだけでも、兵士たちの実質的な戦力は大きく上がるはずだ。


「わかりました。ではまずは金属鎧と槍を人数分用意しますね」

「ほう? そんなことができるのか? だが吾輩は支払える金を持っていないぞ」

「構いませんよ。千個程度ならすぐ用意できます。それと変わった鎧も少しなら用意できます」


 普通の金属鎧だけでは戦力差十倍は覆せない。少し変わった物も試作してみよう。


 俺は【クラフト】魔法を発動して金属鎧を生産し始める。


 この魔法には特にチートなところがある。それは俺が望んだ物が理論的に生産可能だったら創造できることだ。


 そしてこの世界には魔法というものがあり大抵のことが実現可能。


 なので例えば振るだけでビームを出す剣や、透明になれるマントだって作り出せる。


 問題はそういった特殊な物は素材を揃えるのが大変で、素材なしで造る場合は魔力消費が激しいことであるが。


 この力はリーズよりも俺の方が遥かに使いこなせる。何故ならばこの魔法はどんなものを作るかのイメージ力が物を言う。


 日本で学んできた知識やアニメや漫画などを舐めるなよ!


 まずはお試しでひとつ。思いついた物をサンプルで造ってみるか。


 完成図を強く頭に思い浮かべる。するとその通りの姿をした物――紅蓮の色をしたプレートアーマーが出現した。


 銘は【業炎鎧】とでもしようか。もちろん普通の鎧ではない。


「むぅ? 随分と派手な鎧だな。まるで業火のようだ」

「銘は【業炎鎧】です。見てくれだけではないですよ。すみません、この槍もらってもよいですか?」

「別に構わん」


 近くの壁にかけてあった鉄の槍を手に取って、【業炎鎧】に向かって思いっきり突きを放つ。


 槍が鎧に直撃すると、次第に穂先の部分が熱でドロドロと溶け始めた。


「えっ? 槍が溶けてるっ……なんで……?」

「鎧を攻撃した物に対して、その攻撃エネルギーを利用して灼熱を与える魔法を埋め込んでいます。これなら敵も迂闊に攻撃できないかと」


 完全に溶けてなくなってしまった槍の穂、そして焦げもせずに残っている柄を眺める。


 やはり魔法の対象になるのは直接当たった部分だけか。


 実は攻撃してきた物の全てを消失させる感じにしたかったのだが、それは無理で造れなかった。


「素晴らしいな! だがこれは着れるのか? 触っただけで熱が出るならば装備もできぬぞ」

「それは大丈夫です。あくまで害意を持って鎧に攻撃した時にのみ発動します。例えば誤って落としてしまっても熱は出ません。ただこの鎧はあまり大量生産はできません。選りすぐりの数十人に渡すことになると思います」

「なんと! この伝説級の鎧を数十も揃えられるか! それは重畳であるな! この鎧を着た部隊を要所で前に出せば、敵軍を瓦解せしめるやもしれぬ!」

「え、おかしいと思うの私だけ!? リーズさん、あなた何者なのy……なんですか!?」


 バルバロッサさんは豪快に笑い続け、対してエミリさんは顔を引きつってこちらを見続けている。


 …………やばい、すごく嬉しい。 


 王国にいた時のリーズは何を作っても褒められもしなかった。


 一夜で砦を築いた時も「もう少し早く作れなかったのかよ」と言われただけだった。


 …………悔しいな、この言葉をリーズに聞かせてやりたかった。

 

「それと金属鎧と槍は全兵士分、数は千ほど用意しますね」

「なんと! 【業炎鎧】を数十揃えるだけでなくとは! これがあればアーガ王国を追い払うことも可能やもしれぬ!」

「ひ、非常識過ぎませんか……」


 そうして一ヵ月ほどかけて【業炎鎧】を三十、そして普通の金属鎧と槍を千個納品した。

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