第6話 出陣準備


 鎧や槍を全て揃えて納品し、月が変わったので再びアミルダ様の屋敷で評定が行われていた。


 今回はバルバロッサさんだけではなくエミリさんも同席している。


 それと【クラフト】魔法で大きなダイヤを用意して袋にいれて持ってきた。


 ハーベスタ国は財政難だし献上して軍資金の足しにしてもらうつもりだ。


「リーズ、実によくやってくれた。S級ポーション三樽に加えて、鎧や槍を揃えて軍備が強化された。実によき働きだ」

「ははっ」

「本来ならば褒美を取らせたいところだがわが国には余裕がない。もう少し待って欲しい」

「もちろんでございます」


 この国はまともな装備すら揃えられなかったのだから、俺に褒美を渡す余裕などないのだろう。


 今はそれでよい。その褒美の分もアーガ王国への備えにして欲しい。


 そもそも多少の財宝などは俺には不要だ。S級ポーションを造って売ればすぐに荒稼ぎできるし。


「評定の前に話しておく、アーガ王国が兵士を集め出した。兵数は予想通り一万ほどのようだ」


 アミルダ様がそう告げた瞬間、バルバロッサさんとエミリさんの顔つきが変わった。


「アーガ王国め、とうとう攻めてくるか! ご安心を、このバルバロッサが撃滅してみせましょうぞ!」

「私とエミリも戦場に出る。それを踏まえて作戦を立てよ」

「おお! お二人に出て頂けるなら百人力でございます!」


 え? アミルダ様とエミリさんも戦場に出るの?


 二人とも国の重鎮な上に女の子では……。


「リーズよ、アミルダ様もエミリ様も魔法使いだ。そこらの兵士よりもよほど頼りになるお方たちであるぞ」

「あー……そういうことですか」


 魔法使い。それはこの世界の戦場における花形だ。


 剣や槍、弓が主軸の戦場において魔法という存在は恐るべき脅威である。


 微妙な魔法使いでも鉄砲数丁分、強力な者ならば大砲をも凌駕する破壊力を持つため戦いの切り札ともなりえる。


「アミルダ様は炎を、エミリ様は光の魔法を操られる。お二人とも優秀な魔法使いであるぞ! 其方の【業炎鎧】と合わせて我が軍の重要戦力である!」


 バルバロッサさんは楽しそうに笑いだす。


 アミルダ様は普段と変わらないが、エミリさんはかなり顔を強張らせていた。


「アーガ王国の軍は尋常ではなく動きが速いのは分かっているな? 一万の軍勢を動かすとなれば、普通は準備に三週間以上かかるはずだが奴らは三日だ。故にいつ攻めてこられてもおかしくない。あの迅速な動きのせいでどれだけ被害が出たことか」


 俺はその言葉を冷や汗を流しながら聞いていた……アーガ王国軍が迅速に動けたのって、ほぼリーズのせいなんだよな。


 速く動ける理由はこうだ。まず兵士たちは鎧も槍も兵糧も用意せず、身一つで現地集合する。


 本来必要な準備を全くしていないので、当然ながら凄まじく早く集まって来る。


 では鎧や武器や食料はどうするか。それは……全ての準備がリーズに押し付けてられていた。


 【クラフト】魔法により三日で必要な物を全て揃えることで、あの強行軍は無理なく成り立っていたのだ。


 つまりもうリーズがアーガ王国にいないので、今までのように動くのは不可能である。


 でも言えない……これを話したら俺がアーガ王国の兵士だとバレてしまう。


 敵国の兵士を雇う人間などそうはいないだろう。内通者にしか思えないし。


「ははっ! すぐに出兵の準備を行いまする!」


 バルバロッサさんはそう言い残すと、凄まじい足音を鳴らしながら部屋から走り去っていった。


 まるで猛牛の突進みたいだ。あんなの直撃食らったらただでは済まないぞ。


「……あれ? 評定の途中だったような」

「構わん。それよりもリーズ、お前は戦場で役に立つ自信はあるか?」


 アミルダ様は俺を値踏みするように視線をぶつけてくる。


 そんなことは愚問である。


「もちろんお役に立てますとも! 一騎当千の働きをしてみせます!」


 リーズは戦闘では役立たずとして一兵卒扱いだった。


 だが【クラフト】魔法を最も活かすなら間違いだ。


 即時その場で必要な物資を用意できる強さをアーガ王国に教えてやる。


「よくぞ吠えた! ならばお前も来るがいい。すぐに戦の用意をせよ! これにて評定は終了する!」

「ははっ!」


 俺はノリノリで勢いよく飛び出した。


 何としても手柄を立てて出世しないとな。


 これが初陣ならばもう少し慎重に動くが、戦場の空気は何度も吸っている。


 アッシュはリーズを戦死させようと働きかけてたからな! 修羅場だって幾度もくぐっているぞ!


 結局死ななかったので直接的に毒殺してきたわけだが。


 そんな俺なら戦場で大活躍も……いや待てよ。


 俺の目的はハーベスタ国をアーガ王国に勝たせることで、それが達せられれば俺自身が手柄を立てる必要はない。


 いかんいかん、ついテンションが上がってしまった。アーガ王国への復讐の第一歩なのもあって気持ちが昂っている。


 あっ、ダイヤの入った袋を評定の部屋に忘れてしまったな。


 少し反省しつつ取りに戻ろうとすると、部屋から声が聞こえてきた。


「叔母様! どういうことよ! なんで私が!? 私はお金持ちで裕福で戦いと無縁な人と結婚して、幸せな生活を過ごしたいって言ったわよね!?」


 ……部屋から聞き覚えのある声がする。


 この声はエミリさんなのだが……なんか普段とキャラが違う。


 もっと大人しくて丁寧な口調のはずなのに。


「叔母様はやめろ。確かに関係的にはそうだが、私とお前は二歳しか離れていない」

「叔母様は叔母様でしょ! それに私も戦場に出るの!? 魔法使いと言っても大したことできないよ!? 足引っ張りかねないよ!?」

「そのリスクは承知しているが、それでも一兵卒よりは役に立つ。わかっているだろう、ここで負けたら何にもならないのも」

「それはそうだけど……っ」


 うーむ……とてもじゃないがダイヤを取りに行ける雰囲気ではない。


 まあいいか、屋敷内で盗まれることもなかろう。


 そう思って俺はこの場から去ることにした。


 ……エミリさん、もう少しおしとやかと思ってたので少しショックだが。


「まあ落ち着け。あいつは間違いなく将来性がある。逃さないためにも一門にしておきたい」

「お、叔母様……」


 彼女らの話を聞きながら離れていくのだった。


 さてとまずは戦の準備だな。【クラフト】魔法が使えるなら何でも作れるから、準備の必要はない。そう思うのは素人の考えだ。


 むしろ俺の力は素材がなければ魔力を多く消費してしまうので、可能な限り物資を事前準備しておいた。


 そうしないと肝心の戦場で魔力切れになったら悲しい。


 アーガ王国に教えてやる。お前たちはリーズの使い方を間違っていたと!

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