第4話 やることはやる。ただし一ヵ月ではなく一時間でだ。
アミルダ様に雇われた俺は、屋敷近くの空き家を与えられた。
空き家と言ってもボロ家ではなくて人が住むのに耐えうる家である。
これだけでも王国よりも扱いがよい。以前のリーズは強風が吹けば潰れそうなあばら家しか与えられなかった。
兵舎があるのに住むの許可しなかったからな……本当にあいつら許せねぇ。
そうして一晩過ごした後、アミルダ様の屋敷に呼ばれてやって来ている。
なんと仕えたばかりの俺に要職を与えてくれるというのだ。
案内されたのは大きなテーブルがある部屋。おそらく会議室の類だろう……何故か部屋にあるはずの扉がないのが気になるが。
すでにアミルダ様と……クマのようにすごく立派なガタイを持ったヒゲオジサンが席についていた。
「来たか、お前も席につけ。これより評定を行う」
下座はどこだろうか……まあいいか、分からん。
言われた通りにてきとうな場所に着席する。
「まずは新しい者の紹介からだな。今日から我が臣になったリーズ。S級ポーションを作れる優れた薬師だ」
「ほう、S級ポーションを。それは頼りになる」
オジサンは俺を見てニコニコと笑っている。
……この人、さっきから身体を動かすたびに座っている椅子がギシギシ鳴ってるんだけど。
椅子は粗悪品でもないし普通サイズのため、このオジサンの図体と重量のせいである。
「吾輩はバルバロッサ・ツァ・バベルダンである! ファリダン家の重臣にして軍隊長! これでも武芸には自信がある!」
バルバロッサさんは空気が震えるほどの叫び声をあげる。まるで音量調整ミスった爆音マイク……。
いやどう見ても武芸に通じてるよ! むしろそのガタイで弱かったら見掛け倒しにもほどがある!
「バルバロッサの家は昔からの忠臣だ。こんな状態になってなお仕えてくれている。こいつは凄まじい膂力の持ち主で、わが国以外にいれば猛将として諸外国に恐れられていただろう」
「何を仰います! 吾輩はファリダン家以外に仕えるなど考えられませぬ!」
「わかった。わかったから勢い余って机を叩くのはやめてくれよ。また壊されてはたまらぬ」
……なんか色々と濃い人だなぁ。
でも軍隊長としてはすごく頼りになりそうな御仁だ。この人だけで敵兵百人くらい倒してくれそう。
「ぐははは! よろしく頼むぞ!」
バルバロッサさんは俺に手を差し出してきた。握手を求められているようなので、俺も握り返そうとすると……。
「やめておけ。バルバロッサは手加減が苦手だ、握手した手の骨が粉砕されるぞ」
俺は即座に手を引いて愛想笑いを浮かべる。
「いやいやアミルダ様……吾輩、これでも手加減の練習をしておるのですぞ! 確かに以前に強盗の肩を掴んだ時、勢いあまって粉砕してしまいましたが!」
「…………よろしくお願いします」
このオジサマには迂闊に近づかないようにしよう。
何かの拍子に触られたら死にかねん……。
それと気になっていることがあるのだが……評定と言えば国の重要な会議のはずだ。
重鎮は大抵集まって来ると思うのだが、俺とアミルダ様とバルバロッサさんしかいないぞ。
「それで他の方は……? 他にも軍隊長や内政官の方とか……」
「後は諜報担当の者が席を外しておる! これでハーベスタ国の要職の者は全員である!」
バルバロッサさんが元気よく答えてくれるのだが……いやそれおかしくない?
仮にも国の運営してるのに要職が軍隊長に諜報ひとりずつと国王しかいない!?
「簡単な話だ、内政官などはアーガ王国に滅ぼされる前に全員逃げたよ。残っているのは二人だけというわけだ」
アミルダ様はため息をついた。
それで国の運営が成り立ってるのだろうか……想像以上に酷い状態だなハーベスタ国。
「だからお前を要職に抜擢した。今月は軍の強化を主軸に動いて欲しい。バルバロッサ、我が軍をアーガ王国に対抗できるように鍛え上げよ!」
「ははっ! お任せください!」
バルバロッサさんが自分の胸をバンと叩くと、周囲にすごい音が響き渡る。
「リーズ、お前はS級ポーションを可能な限り生産して欲しい。月でどれくらい作れる?」
本気出したらどれくらいだろうか……一万樽くらいは余裕だとは思うが。
とりあえず常識の範囲内の数字にしておくか。
「素材の上薬草を用意してもらえるなら三樽くらいは余裕です」
「三樽もだと……わかった。すぐに用意させる。それだけ手に入るならば他国に売れば恐ろしい大金になる、軍備を整えることも可能か……」
アミルダ様はあごに手をおいて考え始めるが……何というか効率が悪いな。
俺の力はS級ポーションを製造できるだけではない。軍備を整えるのが目的ならば、最初からそう指示を受けたほうがよい。
そう提案してみるか……? いや俺はここに来て間もない。まずは与えられたミッションをこなしたほうがよい。
「承知しました。では今月中にS級ポーションを三樽用意すればよろしいですね?」
「無論だ、では時間が惜しい。何もなければこれで評定は終了とする」
「「ははっ!」」
バルバロッサさんが勢いよく立ち上がり、ノシノシと床を揺らしながら会議室を出て行った。
あー……なんでこの部屋に扉がないのか分かった。彼がぶっ壊しちゃうんだろうなぁ。
「リーズ、お前には補助役をつける。すぐにこの部屋に来るから分からないことは全て聞け」
そう言い残してアミルダ様も去っていった。
なんとも対応が雑だが人手不足なのだろうな……というか本当にこの国の政務どうやってるんだろう。
「あの……リーズさんですか?」
そんなことを考えていると後ろから声をかけられる。
振り向くと……そこにはすごく可愛い女の子がいた。
茶のロングの髪はすごくサラサラで目はくりくりしている。衣服は一見すると質素に見えるジャンパースカートだが素材が絹の高級品だ。
「エミリ・ツァ・ファリダンと申します。リーズさんのお手伝いをするように叔母から言われております」
エミリさんはスカートのすそを持って丁寧にお辞儀してくる。
ファリダン? アミルダ様と同じ家名で叔母なら親戚ということか。
確かに言われてみると顔の造形などは似ている。
だがアミルダ様がクールな雰囲気だとしたら、エミリさんは可愛らしいというか少しポワポワしているというか。
「よろしくお願いします、エミリ様」
「様づけは不要です。リーズ様は私に仕えているわけではありませんので」
「わかりました、エミリさん。早速ですが薬草を用意して頂きたいのですが」
「それなら倉庫にありますのでご案内しますね。こちらになります」
エミリさんについていくと屋敷から少し離れた所の倉庫に案内された。
中に入ると薬草や薬などが入った木箱が大量に揃えてあった。
「ここは軍の医療物資の倉庫です。ここにある物で足りますでしょうか?」
「十分です。あ、樽ありますか?」
「はい。三樽ですよね? すでに用意させています」
兵士がゴロゴロと身の丈ほどある樽を転がしてきた。
薬草も樽もすでに揃っているのは助かるな。
俺のクラフト能力は素材なしでも物を造ることは可能なのだが、素材ありで造るよりも十倍以上の魔力を消費してしまう。
それもあって満足に素材を渡されなかった王国では、かなり効率の悪い生産しかできなかった。
アッシュや王国のゴミ共がこぞって、自分達の物資調達の仕事をリーズに押し付けてたからな。
しかも調達費用でもらっている金額をネコババしてだ。なので素材なしで生産せねばならず、魔力は常に空に近い状態だった。
だが準備してもらえるならば楽勝だ、さっさと作ってしまおう。
「ではお願いします。それと申し訳ありませんが、この倉庫は私と一緒でないと入れません。なのでこれからしばらく私が同行しますね」
「ああいえ、それは不要ですよ。だって……もう終わりますから」
俺は【クラフト】魔法を発動し、木箱に入っていた薬草を消費し外の樽の中にS級ポーションを作成していく。
この力は別に素材に直接触れている必要はない。多少離れている物を造り変えて、更に他の場所へ移すことも可能だ。
そして三樽全てがポーションで満杯になったので、【クラフト】魔法の使用をやめる。
すると樽全てからS級ポーションの金色の光が漏れだした。なんか謎に綺麗である。
「えっ? た、樽が光り出した……? いったいどうなって……嘘。樽にS級ポーションが詰まってる……」
エミリさんは樽の元へ駆け出して中身を確認しだした。
三樽全て覗いた後に、顔を強張らせながら俺の方に顔を向ける。
「え、あの……これ全部S級……?」
「もちろんです」
「そ、そんな……S級ポーションって一樽でも金貨千枚以上なのに……三樽も。しかも一瞬でなんて……」
【クラフト】魔法の力を以てすればこれくらいは余裕だ。
なおリーズは王国でS級ポーションを造ったことはない。魔力に余裕がなかったからな。
要求されるのもC級くらいのポーションを十樽とかだったので、それに合わせて製造していたのもある。
「さてと……これで今月分の仕事は終わりですね。それでお願いがあるのですが、軍の訓練や装備を見学したいのですがよいですか?」
「え? え、あ、はい。どうぞ……」
エミリさんはまだ混乱しているのか、しどろもどろになりながら答えてくれる。
すでに今月のノルマはこなした。なのでこれからは好きにやっていいということだ。
さっさとハーベスタ国を強くしないとな。アーガ王国に飲み込まれる前に。
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