第3話 ハーベスタの女王様
乗り合い馬車で無事にアーガ王国から抜け出して、ハーベスタ国の首都へとやってこれた。
馬車から降ろしてもらったが、御者のおっちゃんが俺を心配そうな目で見てくる。
「本当にハーベスタで降りるのかい? ここはもうすぐ戦争になるからやめといたほうが……アーガ軍に滅ぼされて酷いことになるぞ?」
「いや大丈夫です。ありがとうございました」
馬車に乗っていた客の中でこの国で降りたのは俺だけである。
好んでもうすぐ他国から攻められる土地にやってくる者はいないだろうからな。
そうして乗り合い馬車は去っていった。
「あー……馬車きつかった。さてとまずは情報収集といくか。ハーベスタの王様がどんな人か詳しく調べたい」
ハーベスタは小国であり数年前に王が戦死して代替わりした。
継いだのはなんと王の娘で女王様らしいのだが、税を軽くするなど善政を敷いていることで評判である。
実際、首都であるここの街並みを見ても町民たちは明るい雰囲気だ。
少なくともアーガ王国のような民たちが互いを警戒しあって、陥れようとする雰囲気はない。
そんな中で近くにいる人から話を聞いてみると。
「王様? あのお方は美しくて清廉潔白なお方だ。不正を許さずに正当に悪人をさばいてくださる」
「前の王様も無能ではなかったけど今の女王様は素晴らしいよ。ただアーガ王国が……あと五年ほど早く変わってればねぇ」
「農地をしっかりと計測して客観的に税を求めるお方だ。理不尽さの排除を心がけている」
町の人たちから話を聞いても無能な御仁ではなさそうだ。
何より清廉潔白というのがいい。アッシュが台頭してくるような二の舞はごめんだからな。
後は本人に会って話をしてみたいところだ。評判がよくても実際の人物像は違うこともある。
またS級ポーションを用意して会いに行ってみるか。彼女の屋敷の場所すでに教えてもらっているし。
そんなわけで近くの森から薬草を採取して、S級ポーションの入った壺を二つ作成。
木造リアカーを使って壺を運送しつつ、女王様の住んでいるという屋敷の前に到着した。
「む? 何者か?」
門を守っていた兵が俺に気づいて呼びかけてくる。
「女王様はいらっしゃいますでしょうか? S級ポーションを貢ぎたいのですが」
「なに? S級ポーションだと? ……ほ、本当に金色に光っている。これはまごうことなきS級……待っていてくれ、すぐに呼ぶから!」
いやーS級ポーション素晴らしいな。金色に輝く水ってのが視覚的に分かりやすくてよい。
兵士はドタドタと屋敷に入っていき、しばらくすると戻ってきた。
「女王様はお会いになられるそうだ。見たところ武器の類は持っていないが、念のために検査はさせてもらう」
兵士は俺の服などを触って凶器がないのを確認した後、屋敷の中へと案内してくれた。
ついでにポーションの入った壺も、屋敷の使用人たちが俺の後ろについてきて丁寧に運んでくれている。
兵士は廊下を歩いてとある部屋の前で立ち止まった。
「アミルダ女王陛下! 連れてまいりました!」
「入ってもらえ」
兵士は扉を開けて俺に入室するように促した。
ゆっくりと部屋に入るとそこは客間だった。それなりに高いが過度に豪華ではない家具が揃えられてる。
恥をかかない最低限の物を揃えましたというところか。
そんな中で女性がソファーに背筋を伸ばして座っていた。
「私がハーベスタ国の王、アミルダ・ツァ・ファリダンだ。貴殿がS級ポーションを貢ぎたいという者か」
アミルダと名乗った女性はこちらを見据えてくる。
一言で表すならクールな雰囲気の女性だ。細身で少し背が高そう、胸は小さい。
年齢は十六くらいだろうか、想像してたよりもかなり若い。直感的に有能そうな雰囲気を醸し出している。
「はい、自分はリーズと申します。この度は女王陛下にお会いできて大変喜ばしく……」
「世辞はいい。まずは座るがよい」
頷いて彼女に対面する位置に置いてあるソファーに座った。
そして使用人たちがアミルダの横にポーションの入った壺を運んでくる。
「確かにS級ポーションだ。だが解せない、貴殿は何故我が国にこれを献上する? 我が国はもうすぐアーガ王国に攻められて滅ぶ可能性が極めて高い。貴殿に益がないように見えるが」
彼女は俺を真っすぐに見据えてくる。
どうやら頭も回るようだ。ただ賄賂を黙って受け取り喜ぶだけの人間ではない。
もしそんな物事を怪しまない人物だったら、俺はこのポーションだけ渡して帰っていた。
「はい、私はアミルダ様にお仕えしたく、土産として持ってまいりました。理由としましては私は王国に恨みを持っていて復讐をしたい。それには敵対している国に仕えるのがよいと考えております」
「ふむ。なぜ王国に恨みを?」
「王国の暴虐の被害者、と言えばわかりますでしょうか?」
アミルダは少し疑わしそうに俺を見てしばらく黙り込んだ。
「それに私はS級ポーションの他にも様々な物を造れます。必ずやお役に立てるはずです! 見てくださいこれ! ただの薬草が一瞬でS級ポーションに!」
悩んでいるようなので、目の前でS級ポーションを掌で作って更にアピールしておく。
アミルダはほんの少しだけ目を見開いて動揺した後、意を決したように目を開くと。
「いいだろう。貴殿が何者であるかは問わぬ、S級ポーションを用意できる人材は欲しい」
「おお、ありがとうございます!」
「ただし」
アミルダは腰につけた剣の鞘に手をつけて居合の構えをとった。
「疑わしい行動を取れば斬り捨てる」
やだこの人……滅茶苦茶怖い。
だが無事にハーベスタに仕官することはできた。
急いでこの国を富ませてアーガ王国の侵攻を防がないとな。
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リーズが部屋を去った後、アミルダは兵士に命令を下していた。
「あの者の素性を探れ。S級ポーションを生産できる人間が、無名のまま在野にいるはずがない。怪しいにもほどがある」
「ははっ! ですがよいのですか? そこまで怪しい人物なら追い返しても……」
「…………今の我々にアーガ王国に対抗する力はない。それにS級ポーションを作れる人材を逃す手立てはない。あの者、私の目の前で作って見せた」
「なんと……!?」
「疑わしいのは百も承知だ。だがこのままでは滅ぶ国だ、賭けてみる価値はある。王国が非道な行いをしているのは本当だからな……それにあの者から悪人の気配はしなかった」
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