閑話 アーガ王国が魔法使いを用意できなかった理由


 アーガ王国はハーベスタ国に三回侵攻したが、そのうちで騎馬などを引き連れてきたのは三回目の時だけだ。


 普通に考えれば戦場の花形である弓兵部隊や騎馬部隊、そして戦略兵器足りうる魔法使いがいないのはおかしい。


 弓兵や騎馬兵はエリート兵種ではあるがアーガ王国ほどの大国ならば、用意することは決して難しくない。


 魔法使いはかなり貴重な存在だが……それでも数人を連れてくることは可能だっただろう。


 だが実際は魔法使いも二回目のセレナのみだ。三回目も騎馬兵や弓兵こそ連れてきたが魔法使いはいなかった。


 その理由として一回目には、アッシュの私室でこんな話し合いがあった。


「アッシュ様、ボキュに任せて欲しいんだな! 必ずや勝ってみせるんだな!」

「もちろんよ、ボルボル。あなたが負けるわけないわ。弓兵や騎馬隊は必要かしら?」

「いらないんだな! むしろ邪魔なんだな! ボキュの天才的指揮があれば問題ないんだな!」

「流石はボルボルだ。任せるぜ」

「頑張るんだな! じゃあボキュは準備があるから失礼するんだな!」


 そうして意気揚々とボルボルが部屋を出て行った後、アッシュとバベルは顔を見合わせた。


「いいんすか? 弓兵や騎馬兵なしで」

「問題ないでしょう。だって兵力差十倍以上よ? それにハーベスタ軍も同じく弓兵も騎馬兵もいないしもったいないわ」

「確かにそうすね。弓は矢代、馬はエサ代が高くつく。補給部隊に丸投げとはいえ、消費少なくして勝てばより手柄になる」

「そうそう、必要以上の戦力を投入するなんて愚か者よ。しっかりと見極めて逐次投入できるから有能なのよ。それに国内がちょっと食料不足気味だし口減らしにもなるでしょう」


 その結果としてアーガ王国軍は、ハーベスタの鉄鎧軍団や業炎鎧兵に粉砕されてしまう。


 もし騎馬がいたならば鉄鎧軍団を混乱させることができたかもしれない。


 更に言うならそもそもリーズがいれば、最初からコスパを考えずに軍を配備できたのだから。


 この時点でアーガ王国が他国に恐れられる要因だった、迅速にして万全の補給がもはや消え去っていた。


 そうしてボルボルが惨敗して戻って来た二回目の出撃前には、再びアッシュとバベルで相談が行われた。


「アッシュ様、ボルボルに騎馬隊くらいつけてやってもよいのでは?」

「……経費がかかるから嫌。それに騎馬隊や弓兵隊は北のボラスス帝国との国境に置いておきたい、と要請も出だしたのよ。あいつら、自国の魔物をこちらに追いやってるから歩兵だとキツイ」

「あー……オーガとかブラックウルフすか。それは歩兵じゃ厳しいですねぇ」


 オーガは全長2mを超える人型、ブラックウルフは普通の狼よりも運動能力に優れた存在。


 この世界では強力な力を持つ生き物は魔物と呼ばれていた。


 特に魔法が使えるからとかのカテゴリではないので、仮に地球の象がこの世界にやってきたら魔物と呼ばれるだろう。


「それに今度はあの銀雪華もいるんだし余裕でしょう」

「確かにそうすね。あー思い出したら羨ましい……ボルボルが自慢してきたんすよ。この戦いに勝ったら銀雪華を犯すんだって。俺も一緒に犯りてぇっす」

「あらあら、でも貴方は私の右腕だからついていったらダメよ」

「わかってまさあ」


 見事なまでの戦力の逐次投入の結果、ボルボルは惨敗して敗戦した。


 そうして三回目はとうとう……。


「き、騎馬隊と弓兵部隊を連れて行かせるのよ! 今回も負けたらシャレにならないわ!?」

「どうしやす? 俺が出ます?」

「貴方はダメ! ここは他陣営の奴を隊長にさせるわ! 失敗した時のことを考えるとダメならそいつのミス、成功したら私の手柄にしないとマズイ!」

「魔法使いはどうしやす?」

「…………こ、今回はルギラウ国との挟撃だし流石にいらないでしょ。すごく高くつくし…………」


 魔法使いとは物凄く高価な兵種である。そのため基本的に傭兵として必要な時にスポットで雇うことが多い。


 スポット契約だと雇う側だけが都合よさそうだがそうではない。


 魔法使い側にもメリットがある。彼らは負け戦に参加したくないので、雇いたい側が優勢かどうかを見極めて参加する軍を選べるのだ。


 そして魔法使いは貴重な存在であるため、微妙な腕でも臨時で雇うのに大枚をはたかなけれならない。


 具体的に言うと火縄銃くらいの威力を五発撃てる魔法使いなら、行軍させるのに金貨三十枚くらいだろうか。


 エミリクラスならば金貨六十枚、アミルダほどとなると臨時で雇うのは難しい。


 そんな凄腕の魔法使いならば大国が常に囲い込んでいて、その国の切り札として運用されてしまっている。


 もしくはドラゴンを狩るなどの魔物退治で大儲けしているかだ。


 後者の金に困ってない優れた者は命令を嫌がるので、軍の指揮系統に組み込むのは難しい。


 アーガ王国にも優秀な魔法使いはいるが、アッシュと言えども簡単には使わせてもらえない存在だった。


 なのでそこらの魔法使いをスポットで雇わなければならないが、これ以上の出費が増えることを嫌った。


「それにボルボルが指揮しないなら大丈夫でしょ。これまではあいつが足を引っ張ってたから負けてたのよ」

「それは否定できませんね」


 そうして進軍したがエミリフラッシュでまた惨敗したどころか、今度はモルティ国に攻め入ったというオチつきで帰って来た。


「なんでよぉ!? なんで負けるのよぉ!? 私の神算鬼謀で二国挟撃までしたのよ!? しかもモルティ国と戦ってバカなの!?」

「ボルボルの印章が奪われたせいなので、これもボルボルが足を引っ張ったということでは?」

「なんなのあいつ!? 呪いの類なのかしら!? 呪うならハーベスタ国やリーズにしなさいよ!?」

「すごくわかりやす。でもそんなこと言ってたらアンデッドになって化けて出そうな……」

「おぞましいこと言うのやめてちょうだい!? くそっ、なんで私がこんなに苦しまなきゃいけないのよ! おかげで降格処分の話まであがってるのよ!?」


 そもそもアッシュがリーズを追い出さなければこんなことにはならなかった。


 だが自分は悪くないとヒステリックに騒ぎたてるのだった。


「あ、それとハーベスタ国との国境付近に面してる村が、度重なる出兵で食料不足なので減税要求をしてきやしたが」

「はぁ!? むしろ増税よ! またハーベスタ国に出兵するんだから、各村の倉庫にも食料を貯めておくように言いなさい!」



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週刊総合ランキング47位に上がってました!

なので三日連続の一日二話投稿です!


勝負所かなと頑張りましたが、流石にそろそろ厳しいので明日からは一日一話に戻る予定です!


30位以内に入ってみたいのでフォローや☆、レビューなど頂けると嬉しいです!



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