第45話 楽市楽ギルド
ベルガ商会本店を物理的に燃やした翌日、今後のことを決めるために玉座の間で評定が行われていた。
「無事にベルガ商会も独占売買権も消えた。だが問題は他の商会が存在していないことだな。このままではタッサク街はまともに経済が回らない」
「一応は武器ギルドとかいるんじゃないですか?」
「私が本店を燃やした後、残っていたギルドは民衆が打ち壊している。元々ベルガ商会とズブズブの関係だったからどちらにしろ残してはおけなかったが」
どうやらアミルダ様は民衆の心にも火をつけてしまったらしい。
まあベルガ商会が商業を牛耳ってるのだから、それに協力してるギルドも当然深く関わっているだろうしな……民衆を苦しめていたのだから自業自得だ。
「それでこの街の商業関係は本当に綺麗サッパリ消えた。これを機に今後は腐らない経済の仕組みを構成したいと考えている」
なるほど、利権とかがほぼ壊滅した状態なのか。
今ならば特に妨害などもなく新たな仕組みを作って、経済を立て直すことも可能と。
確かにこれはチャンスだ。
本来ならば一度作られた経済観念を壊すのは難しい。
現時点で既得権益を持っている有力者が確実に妨害してくるからだ。それを力で押さえつければ必ず不満が噴出してしまう。
でも今はいないので好きにできると。
そしてアミルダ様の希望する腐らない経済の仕組みならば、昔の戦国時代でそれを試みた政策がある。
「それならば楽市楽座……いえ楽市楽ギルド令はいかがでしょうか? アミルダ様が指定した市場に関しては、特権を全て廃止しギルドも不可とするのです」
楽市楽座は織田信長が行ったと言われている有名な政策だ。実際は他の大名が先にしてたとか諸説あるけど。
そもそもギルドとは職業別組合である。
同じ技能を持った者たちが特定のことに関する互助組織を作って、そこに入っていない者がその特定のものをすることを禁じたりする。
例えばA街の鍛冶師ギルドに入ってない者が、A街で鍛冶の仕事をすることを禁じたり税を課すなどの特権を所持する。
このギルドだが実は日本にも似た組織が存在していた。
それを座と言ってやはり日本でもこの存在のせいで、商売の流動性などが凄まじく悪くなっていた。
何せ身内で固まって自分達の都合の良いように利権を確保するのだ。どう考えても自浄作用など皆無である。
それこそ現代で忌み嫌われる談合の確保が、ギルドや座の存在意義に近かったくらいだ。
「かなり思い切った政策だな。確かにギルドを禁じれば既得権益の集中はなくなり、腐ったことにはならぬか」
流石アミルダ様、楽市楽座のメリットを即座に見抜く。
「だがその一方で小規模の店が乱立し、各職業を統括することになる商人の権限が過剰に強くなりかねん。確かにギルドは腐の温床だが職人たちの互助組織でもあるのだ。それがなくなるのも問題が出そうだな」
これまたお見事だ、問題点も即座に見抜くとは。
楽市楽座は非常に優れた政策に聞こえるし、事実として最初は座によって凝り固まった経済を動かしていた。
だが時間が経つにつれて、御用商人や問屋などの実際に商品を取り扱う者が力を得たのだ。
本来ならそれに対抗するためにギルドがあるのだが、それが結成できないのだから当然だ。
少し違うかもしれないが会社と労働組合の関係のはずが、労働組合だけ一方的に潰してしまったようなものだ。
「なのでアミルダ様の許可制でギルドを設立し、また解散時期も決めておくのです。そうすれば職人側に権力の天秤が傾けばギルドを撤廃し、商人側に傾けばギルドを存続させたり結成の許可を出せます」
「…………なるほど。細かい問題はあるかもしれぬが、現状では大きな欠点は見当たらぬ。しかしリーズ、貴様は政治にも明るいのか」
「いえ他の国の制度のパクリです! 俺は全くもってわからないので!」
あくまでこんなアイデアがありますと示すだけしかできないので、実際に内情を詰めていくのはアミルダ様の仕事になる!
俺は歴史の教科書とか読んだけどたぶん完全には理解できてないし!
無責任だけど俺は知らない! 歴史や経済の専門家じゃないからな!
「そんな政令を出した国など聞いたことがないが。貴様が政治に明るいなら今後はそちらも助けてくれると……」
「あれ!? 誰かから教わった内容だったかな!? とにかく俺が考えついたものではありません! 濡れ衣です!」
アミルダ様が少しだけ上目遣いで可愛いんだけど頼られても無理だから必死に否定しないと!?
知識チートで無双できるほど俺は頭よくないんです!? あくまで歴史知識とかで最低限のアイデア出せますってだけなんです!?
「そ、そうか……残念だ」
どうやら納得して頂けたようでアミルダ様は少しだけ落ち込んでいる。
珍しいな、普段はいつもキリッとされてるのに。
あれか、内政手伝える(ブラック勤務の)仲間が欲しかったのかな。
負担は軽減してあげたいが、それで無理なことを引き受けたら余計に困るだけだからなぁ……。
「わかった、ならばその政令をもう少し詰めて発令を考えよう。幸いにも今のタッサク街はベルガ商会の汚濁に苦しんだことで一致団結している。それを防ぐための策となれば反発もあるまい」
こうしてタッサク街はギルドを含めた職業団体の、許可なき結成を禁止する令を発した。
またギルドを結成する場合、解散時期や解散事項を明確にすることなども明文されている。
これにより他国の商人などがチャンスだとやってきて、市場がかなり活性化されていく。
後にアーガ王国が真似しようと試みた動きがあったのだが、既得権益持っている団体に死ぬほど反対されて無理だったらしい。
流石はアーガ王国だ、汚職とか既得権益のあくどさなら最強クラスだろう。
こうして数か月が経過し季節は秋に移り変わり……作物の収穫が始まって各国が兵糧を補充し始める。
そろそろ諸国に動きが出始めるころだろう。我が国もこれからは内政だけでなく、外交や軍事作戦にも力をいれなければならない。
秋空と共に戦火の音が徐々に近づき始めていた。
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