第44話 おとり潰し
俺はアミルダ様にベルガ商会の狼藉を報告すべくタッサク城に出向いた。
そして玉座の間……よく考えたら王城じゃないのに玉座? まあいいか。
そこで奴らの実行部隊を捕らえたことを報告したのだが……。
「何をやっている!? この馬鹿!」
「えっ!?」
なんとアミルダ様は俺に対してかなり怒っていた……。
「お前はすごく重要な存在なのだぞ! 自ら危険に突っ込むんじゃない! 商店に潜り込んだ敵はともかく、野盗に対する囮になるとは馬鹿か!」
「あ、いえセレナさんも護衛にいましたので……安全は確保されてたと……」
セレナさんがいればそこらのならず者など相手にならない。
なにせ彼女は銀雪華とまで言われた魔法使いだ。それに目くらまし要員のエミリさんもいたし、俺もしっかりと戦闘準備を整えていた。
ここまでして何かあるとは思えないのだが……バルバロッサさんがいないのがダメだったか?
「万が一があったらどうするつもりだ! よいか、今後はこんなことは絶対にするな! …………これは命令だ!」
「は、はい……」
……まさかここまで激怒されるとは……少し軽率だったようだ。
「……それと貴様が捕縛した者たちだが、ベルガ商会とのつながりが証拠付きで判明した」
「えっ、もうですか? それによく判明しましたね。流石に隠滅しているとばかり」
「奴らも隠そうとはしていたさ。ベルガ商会から他の者に依頼がいって、その者が傭兵ギルドに依頼を出していた。だがその間に入った者はいざという時のために命令書を処分せず持っていてな、寝返って私に差し出してきた」
仲介者が命令書を残していたのか。
いざとなったらベルガ商会を売り飛ばして、自分の保身をするためだろうな。
これまでなら言われた通りに隠滅していたのだろうが、ベルガ商会の零落を悟っていればさもありなん。
「故に奴らはすでに国賊、大義も得た。待たせたな、これよりベルガ商会を滅ぼす! 本店に軍を向かわせて制圧する!」
「承知でありますぞ! このバルバロッサ、奴らを見事捕らえて見せましょう!」
「リーズ、貴様も来るがいい。すぐに準備をせよ」
「は、はい!」
そうして俺は玉座の間を出て行った。
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リーズが出て行った後の玉座の間では、アミルダがブツブツと物申していた。
「全く……リーズは何を危険なことを……!」
「エミリ様も同じく危なかったですが、それについては何もおっしゃらないのであるか?」
バルバロッサの質問に対して、アミルダは特に顔色も変えない。
「エミリに危険などなかった。護衛にセレナがいるだけでも過剰戦力な上、リーズまでいるのだから安全だ。本人も最低限の自衛はできる……それに私のほうでも隠密に護衛を忍ばせていたからな」
その返答にバルバロッサは腕を組んで悩みだす。
彼はアミルダの怒りに対して少し違和感を抱いていた。
なにせ軍をしきる自分の身からすれば、リーズの行いは大目玉を食らうほど危険とは思えない。
何せリーズには魔動車がある。超速度の乗り物をいつでも取り出して、すぐに発車させることができるのだ。
あれで爆走すれば誰も追いつけないので、むしろ人混みが邪魔な街中よりも郊外のほうが逃げられて安全まであった。
そんなことはアミルダならば理解できるはずだ。
「うーむ、でしたらリーズも安全なのでは?」
「何を言う! 何かあったらどうするつもりだ! 全くあいつは少しは自分を大切にせよと……」
「…………なるほど」
「なんだバルバロッサ、その生暖かい笑みは気持ち悪い」
「いやいや、何でもないのである」
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アミルダ様率いる百人の軍が、街を横断してベルガ商会本店に向かっている。
それを見ている民衆たちは歓喜の声をあげて、自主的に道を開けていた。
「とうとうベルガ商会が滅ぼされるのか!」
「アミルダ様は女神様じゃ……!」
まるでパレードの行進のようだが少し気になることがある。
……ここまで大々的に進軍したら、ベルガ商会に逃げられるのではないだろうか。
「アミルダ様、よいのですか? これ逃げられるかも……」
騎馬に乗ったアミルダ様の横について話しかけるが、彼女は民衆に手を振りながら笑う。
「問題はない、仮に逃げられても痛手はないのだから。奴らなぞ権利なければ何の力もない。これはあくまで民衆に対して、もはやベルガ商会は討伐対象となったと知らしめるだけの儀礼行為だ」
「な、なるほど……」
道理でゆっくりと派手に進んでいるわけだ。
そうして街が大騒ぎになる中、かなりの時間をかけてようやくベルガ商会本店の前へとたどり着く。
初めて見たが物凄く大きな建物だ。
まるで自分が王様だとでも言わんばかりに、金細工など惜しみなく使って豪華に建てられている。
そんな中でシャランと鈴の音が鳴り響いた。
気が付くとアミルダ様の前には、踊り子の服を着た幼女が跪いていた。
我が軍の優秀な隠密であるスイちゃんだ。俺もあの時以来見たことがなかったので、たぶんいつも暗躍してるんだと思う。
「アミルダ様、すでにベルガ商会の者は逃げ出しております。あの建物はもぬけの殻です。残された物などは全て回収しました」
「そうか、なれば後始末をせねばならぬな。セレナよ、この建物の入り口以外を氷で囲め」
セレナさんが呪文を唱えて、この建物の周囲に巨大な氷の壁を出現させた。
すごいな、これだけ大きな建造物を囲みきるとは。
しかしアミルダ様はいったい何をされるおつもりだろうか。
そんなことを考えていると、アミルダ様は民衆へと向き直り叫んだ。
「ベルガ商会はこれより取り潰す! 私が王になった以上、今後は不正などで儲けた物は決して認めぬ! この汚濁の権化のような建物に対して、その証明をここに見せよう!」
彼女は建物に向き直ると、大きく息を吸って吠えた。
「焔の龍よ! その顎にて灰塵と化せ!」
アミルダ様は民衆に聞こえるように普段よりも遥かに大きく叫ぶ。
彼女の前方に巨大な炎の龍が出現しベルガ商会の建物を飲み込んだ。
奴らの本店が轟々と燃え上がっていく。まるでベルガ商会自体を滅ぼす炎のようだ。
「おおおおおおお! あの忌々しいベルガ商会の建物が燃えてやがる!」
「ざまぁ見やがれ!」
集まった民衆は物凄く色めきだっている。
なるほど、これは確かに有効な手だ。
不正を許さぬと物理的に見せつけたことで、民衆のアミルダ様への支持率は限界突破しただろう。
……建物はちょっともったいない気もするが。でもここでケチったらセコく見えるからダメなんだろうな。
「私が統治する以上、今後はこの国を豊かで清き国にすると誓おう!」
剣を空に掲げたアミルダ様は、まるで戦乙女と名付けられた絵画のように見えた。
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ベルガ商会のギーヴたちは地下通路を使って逃げていた。
彼らは自分を王に準ずる者と考えていたので、しっかりと逃げ道を用意していたのだ。
だが貴重品をくるんだ風呂敷を自分で背負って、暗く狭い道をランタンを持って逃げ出す様はとても無様である。
「ぐぐっ……まさかこの私が逃げなければならぬとは! お、重い……だが宝石を置いていくわけには……」
「こ、これからどうすれば……」
「決まっておる! アーガ王国に逃げ出すのだ! 我らを助けてくださる! 何せアーガ王国がまたこの国を侵略すれば、統治に我らの力は役立つのだから!」
自分に言い聞かせるように叫びながら歩き続けるギーヴ。
だがここで異変が起きた。
「あれ……? なんか周囲が明るくなったような……」
「もうすぐ出口か! 早く抜け出してアーガ王国に……!」
「いやでもまだ早いよ……ひ、ひいっ!? 後ろから、炎がっ!?」
側近たちは驚きのあまり腰を抜かして、地面にへたりこんでしまった。
なにせ彼らの後方から炎が迫ってきているのだから。
「なっ!? くそっ!」
「ぎ、ギーヴ様、たすけぇぇぇぇ……」
「ああああぁぁぁぁぁぁ……」
ギーヴはそんな側近たちを放置して急いで駆け出す。
置いていかれた側近たちは火に飲み込まれて死んだ。
そしてギーヴも……到底逃げ切れるものではなかった。
「い、いやだっ! この私が、このギーヴ様がこんなところでぇ! あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
炎に飲み込まれたギーヴは断末魔の叫びをあげて、火だるまとなって死んだのだった。
なお彼は最後まで重い風呂敷をかついだままだった。
もし逃げる時点で荷を軽くしていれば、今より距離を稼げて炎から逃げ切れていた可能性もあったろう。
最後まで強欲さで身を滅ぼした男である。
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二つ目のレビュー頂きました、ありがとうございます!
★を多めに頂けてるので頑張って連日二話更新です。
週刊総合ランキング59位に下がってました。
30位以内に入ってみたいのでフォローや☆、レビューなど頂けると嬉しいです!
そういえば表紙依頼の件の続報ですが、表紙にリーズは出ません。
(ラノベ風の表紙ならヒロインだけでよいでしょの精神)
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