疾風迅雷のバベル編

第46話 西のクアレール国


「今秋だが周辺国家は全て作物が豊作の見込みだ。収穫の時期が終われば各国が軍を動かし始めるだろう。よって現状を説明しておく」


 ハーベスタ国に戻った俺達は、アミルダ様の屋敷のいつもの部屋で評定を行っていた。


 うん、やっぱりタッサク城よりもここの方が落ち着くなぁ……城は広いから歩くの大変だし造りが豪華で疲れる。


「元ルギラウ国から勝利したことで、わが国の領土は増えている。それによって新たに国境を接する国も増えた」


 アミルダ様が広げた世界地図には、各国の領土が大雑把に記載されていた。



         │ボラスス神聖帝国

   クアレール │────│───

         │ビーガン│

       │─│    │        

───────│ │──┃─┃アーガ       

 周辺諸国ズ │  我が┃国┃

───────│────┃─┃

商業国家パプマ│ モルティ │

======= ──────│===

          海



「クアレール、そして商業国家パプマと接するようになった」


 ┃で区切ってるのが我が国の最初の領土か。


 こう見ると我が国大きくなったなぁ……ルギラウ国を飲み込んだことで、三倍くらい国土増えてる。


 しかしクアレールに商業国家パプマね……どちらも噂は聞いたことがあるが、あまり詳しくは知らない。


「念のため二国について説明しておくぞ。まずクアレールだがかなりの大国家だ。アーガ王国やボラスス神聖帝国にも劣らぬ国土を持つ。それとここが大事だが……王は優れた人格者だ」

「本当ですか!?」

「うむ! 吾輩もアミルダ様も顔見知りなので保証するのである! クアレール王は義王と呼ばれていて弱きを助け、義なき者には容赦のない猛者! ついた異名は義の調停者!」


 な、なんと……とうとうハーベスタの付近に、まともな王様を持つ国が現れたのか!?


「クアレール王は内政もさることながら軍略はまさに天才的で、この王が指揮する軍は兵数を十倍で考えろと言われるほどである! かつ本人の武勇もさるもの!」

「具体的にはバルバロッサの半分ほどの腕前を持つ」

「生身でも化け物じゃないですか!?」


 バルバロッサさんの半分ってことは、五百人の兵士分の戦闘力ってことだぞ!?


 なんだその完璧超人みたいな王様は!?


「実はすでにクアレール王には助けられている。以前にモルティが侵攻してきた時、上のビーガンが挟み撃ちにしてこなかったのは、クアレール王が睨みをきかしてくれていたからだ」

「そうだったんですか……」


 言われてみればモルティと兄弟国家であるビーガンが、俺達を攻めてこないのもおかしな話だったな。


 アミルダ様は少し嬉しそうに笑った。


「クアレール王はモルティとビーガンの同盟裏切りを許さぬと明言している。我が国に力を貸してくれそうだ」

「つ、つまりこれからは頼りになる味方が……!?」

「そうなるな」


 まじか! それなら今後の防衛は楽に……なるかは微妙な気がするな。


 仮にクアレール国がビーガンを完全に抑えてくれても、モルティとアーガ王国という敵国に挟まれてるし。


 結局厳しい戦いに変わりはないのか……四方面から襲われるという最悪の事態は免れそうなだけで。


「わ、わかりました。それで商業国家パプマはどんな国なんですか? 何となく予想はつきますが」

「その名の通り商業国家だ。大きな港を持って商業で存続している国で、この周辺でパプマと商業関係を持ってない国はない」

「なるほど。ちなみに侵略して来たりは……」

「この国は自分からは攻めないと宣言して、それでずっと存続している国だ。滅多なことでは侵攻を仕掛けては来ないだろう」


 つまり商業国家パプマは軍事的には関係なさそうだ。


 まあ侵攻して土地を広げていくなら普通の国と変わらないし、わざわざ商業国家なんて名乗らないか。


 とりあえず重要なのはクアレール国だな! ようやく味方が増える!


「なるほど。アミルダ様がルギラウ国を接収したのには、クアレール国と隣接したい意図もあったんじゃないですか?」

「その通りだ、そしてこれからは外交も重視していかねばならない。何せ周囲は敵ばかりなのだから、他の周辺国とは仲良くしておきたい。多少無理しても社交界に出て外交をせねばならない」


 確かにアミルダ様の言う通りだ。


 外交はすごく大事だからな。同盟とか結ぶにしても、やはり王同士の仲の良さなども重要だ。


 というか今までしてなかったのは……多少どころか完全に無理しても外交できなかったんだろうなぁ。


 アミルダ様、まともに寝ずに内政しないと回らなかったくらいだし……。


「なのでクアレール国で五日後に開かれるパーティーに参加する。全員、そのつもりで用意しておけ」

「「はい」」

「……え? 俺もですか?」


 思わず聞き返すとアミルダ様は頷いた。


「無論だ、貴様はこの国の重鎮だからな。それとセレナも連れて行くのでドレスを用意させておけ」

「それは構いませんけど……俺は場違いでは?」


 セレナさんを社交界に出す理由はわかる。


 彼女は銀雪華と異名を持つ優れた魔法使いだ。彼女クラスの魔法使いが国に仕えているのは我が国の軍事力の大きなアピールになる、。


 それに見た目も綺麗なので二倍お得だ。


 でも俺ははっきり言って出る必要はないと思うのだが……自分が武勇を誇るわけではなく物資を揃える裏方だしなぁ。


「何を言う。信じられない勢いで勢力図を伸ばしたアーガ王国、その切り札が我が国に来たのだ。喧伝すれば極めて大きく我らの力を誇示できる」

「あー……」

「本当に貴様がいた時のアーガ王国は悪夢だった。奴らの軍はまともに補給物資を整える時間も不要で、かつ万全の状態で攻めてくるのだから。相対する軍は迎撃態勢を整える間もなく負けるのが常だった」

「そ、それは申し訳ありませんとしか……」

「貴様を責めているのではない。だが他国へのアピールになるところはアピールさせてもらう……というより隠しきれないのが本音でもあるがな」


 アミルダ様は少しだけ不安そうな表情を浮かべている。


「隠しきれないとは?」

「お前という存在は秘匿にしておきたかったが、ここまで我が軍が大勝利を挙げて目立てば流石にバレる。なら下手に隠すよりもしっかりと警戒態勢を整えたほうがよい……気をつけろ、周辺国が貴様を取り込むためのハニートラップに引っかかってくれるなよ」

「は、はい……」


 ハニートラップって……俺が狙われるのか……。

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