第47話 クアレールへ向かおう
俺は屋敷の正門前に魔動車をつけて、他の皆が来るのを待っていた。
するとセレナさんとエミリさんが笑いながら出てくる。
「リーズさん、本日はよろしくお願いしますね」
「主様に御者をさせるのは心苦しいですが……」
「いやいや気にしないで」
エミリさんもセレナさんも普段よりも豪華なドレスを着ている。
社交界に出るだけあって頑張っておしゃれしているようだ。
「リーズさん、どうですか?」
エミリさんはスカートのすそをあげて俺に笑いかけてくる。
「お綺麗ですよ、きっとパーティーでもモテるかと。変な虫が寄り付いたらバルバロッサさんに守ってもらっては?」
「……ありがとうございます」
少しだけ半笑いのエミリさん。いったいどうしたのだろうか。
「待たせたな、リーズよ! 吾輩も何とか服を用意できたのである!」
続けてバルバロッサさんが現れたが……男性貴族のような衣装なのはよいがパッツンパッツンだ。
彼のクマのようなガタイとなると、ピッタリの衣服を手に入れるのは難しいのだろう。
「いえいえ。ところであの……言ってもらえれば服を用意したのですが」
「問題ないのである! どうせ一日で破れるのでもったいないのである!」
「使い捨て前提ですか……」
相変わらず豪快な人と言うべきだろうか……。
「もう全員集まっているか。待たせたな」
アミルダ様の声がしたので振り向いて……俺は思わず目を奪われた。
彼女はいつもの男装みたいな姿ではなくてヒラヒラのドレスを着ている。
髪も普段はシニヨンを結んでいるのだが、今は降ろしてロングになっていた。
なんだろう、普段とのギャップで物凄く綺麗に見える。
「リーズ、どうした? 体調でも悪いのか?」
「あ、いえ大丈夫です。みなさん乗ってください」
そうして俺達は魔動車で出発した。
今は街道を走ってクレアールへと向かっている途中だ。
もちろん運転は俺、助手席にはアミルダ様。エミリさんとバルバロッサさんとセレナさんは後ろに座っている。
「以前も乗ったがこの魔動車というのは本当に便利だな。馬車で数日かかる距離を半日以内で走るとはな。しかもあまり揺れないのもよい」
アミルダ様が椅子に背を預けてリラックスしていた。
俺としては睡眠不足だろうから寝て頂きたいのだが、彼女は周囲の景色を常に観察し続けていた。
「思ったんですけど、これに馬車を曳かせたら凄く大量の荷物を運べませんか? 儲かりそうです」
地球のトラックかな? エミリさん、結構商才あるかもしれない。
ただ馬車はせいぜい時速十キロ程度くらいで走ることを想定してるから、魔動車がまともに曳いたら車輪がもたないと思うが。
木製の車輪は耐久力がね……やはりゴムのタイヤは偉大。
「面白い発想ですね。もし商人として旗揚げすることになったらそうすることにしますよ…………あれ? みんな黙り込んでどうされました?」
「……何でもない」
アミルダ様たちはしばらく無言になってしまった。冗談で返したのに放置されると少し悲しい。
「こ、この魔動車って本当に便利ですね!? 凄く速いから野盗や魔物に襲われる心配がなくて!? 護衛もいりませんし!?」
場の空気を換えるかのようにエミリさんが叫んだ。
「ですね、馬だろうと追い付けないでしょうし。魔物も怯えて寄ってこないでしょう」
この世界では力を持つ生き物は魔物と呼ばれている。
例えばクマはブラックベアーとかドレッドベアーとか、種族ごとに危険度に合わせての名称で呼ばれてたりする。
日本のツキノワグマはこの世界ではムーンベアーとかになるのだろう。
魔物は基本的には街とその付近にはいない。というよりも魔物を駆逐できた場所に街が作られたと言った方がよいかもしれない。
逆に言うとこういった街間の移動だと稀に魔物が出ることがある。
とはいえ街道は人が整備しているのもあってあまりいないが。
そうして他愛ない話をしつつ車を進み続けるのだった。
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無事にクアレール国の国境線を越えて王都の正門前へたどり着いた。
だがそこで正門前の兵士の一人が、車に乗った俺達に向けて槍を向けてきてしまっている。
「お、お前たちは何者だ!? なんだその奇怪なものは!?」
あー……これは非常にマズイ。
この兵士は真面目に門番をやっているので、魔動車を見て警戒するのは当然だろう。
だがここにいるのはアミルダ様。つまり彼は他国の王様に槍を向けていることになる。
どう考えても言い逃れのできない国際問題だ。
このままアミルダ様が名乗ればその時点で、この兵士は一族郎党ごと処刑されかねない。
「……バルバロッサ、この兵士はお前に槍を教えて欲しいそうだ。教授してやれ」
「なるほど、承知いたしましたぞ! その槍の構えでは隙があるのである! こうして……」
バルバロッサさんは急いで車から降りると、兵士の槍を掴んで構えの指導を行おうとする。
アミルダ様、ちょっと無理やりですがナイス誤魔化しです!
「おっと、失敗したのである! それはそうとな……」
バルバロッサさんは握力で槍の柄を握りつぶすと、兵士の耳元に口を近づけて何かを囁いた。
すると彼の顔色が一瞬で真っ青になり……。
「も、もうし……」
「まだ教授の途中である! よいか、槍で鉄を貫通する突きを繰り出すには……!」
危なかった、彼が謝罪したら意味がなくなるところだった。
バルバロッサさんが何とか誤魔化し、俺たちは他の兵士に事情を説明してことなきを得た。
他の国だと地球産の物を使うのは少し気を付けないとマズイな……目立つし俺達の顔を知らない者が多い。
こうして俺達は魔動車に乗ったまま王都内に入り、派手に目立ちつつ兵士に警備されながら王城へと案内されてたどり着いた。
「三年前と何も変わってないな。街は活気があふれて民の顔は明るい」
「確かに。我がハーベスタの街みたいです」
「そうか。そうならば嬉しい」
俺の言葉に対してアミルダ様は嬉しそうに笑ったのだった。
そして俺は魔動車をポケットのアイテムボックスにしまって、王城の個室へと案内され……少し裏工作などしてる間に夜のパーティーの時間となるのだった。
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