第48話 社交パーティー


 夜のクアレール王城の大広間。


 そこでは部屋中に豪華な装飾が施され、大量の机の上の色とりどりの酒や食事が置かれていた。


 すでに立食形式のパーティーが始まっていて、様々な国の貴族が歓談を行っている。


 これが貴族の社交界か……場違い感が半端ないな、俺。


 というか俺って貴族じゃないんだけども……場違い感じゃなくて本当に場違いじゃん。


 部屋の観葉植物にでもなろうと端の方にいると、エミリさんが男連中に囲まれているのが見えた。


「おお、なんという美しさだ。あのハーベスタの女傑の姪がこれほどお淑やかな女性だったとは」

「実に素晴らしい。私はパプマの伯爵で未婚でして……」

「今日が社交界デビューですので、そういった話はいずれ叔母にお願いします。待たせている者がいるので失礼します」


 エミリさんはニコニコ笑顔で男たちをスルーし、こちらのほうに優雅に歩いてくると途端に顔を崩した。


「リーズさん、ちょっと盾になってください。思ったよりかなり面倒ですこれ……」

「あー……確かに」


 置いていかれた男たちは名残惜しそうにエミリさんを見た後、俺に殺意のようなものを向けてくる。


 ……もしや盾とはリアルにヘイト集め的な意味だろうか。


「うむ! うまいのである!」


 バルバロッサさんはどこ吹く風と、近くのテーブルの食事を貪っていた。


 そんな彼に対して無謀にも一人の男が近づいていく……まるで食事中のクマに寄っていくようにしか見えない。


「バルバロッサ伯爵、お久しぶりです」

「おお! 貴殿はパプマの……!」


 え!? バルバロッサさんってハーベスタ国の伯爵だったのか!?


 人外ドラキュラ伯爵とかそんな恐ろしい異名じゃなくて!?


「え、エミリさん。バルバロッサさんって伯爵なんですか……?」

「そうですよ。まあハーベスタ国では貴族なんてほぼ名ばかりですけどね……主要な者は皆逃げたし与える土地もありませんでしたので。それもあってリーズさんへの爵位授与も後回しになってます」


 そんな理由があったのか……。


 あれ? じゃあ俺もいずれは貴族になれるってこと? 


「俺もそのうち騎士に?」

「まあはい。でも興味ないですよね?」

「いえ、すごくなりたいですよ!」

「あれ? そうなんですか?」


 そりゃ興味あるよ。だって貴族ってなんかこうロマンがあるというか。


 そんなことを考えながらアミルダ様を探すと、彼女は複数の男たちと話し込んでいた。


「まさかあのハーベスタ国がアーガ王国の侵攻を防いだばかりか、ルギラウ国をも飲み込むとは。いやはや聞いた時は耳を疑いました」

「我が国も驚きですな。アミルダ殿の名声は周辺国にも響いておりますぞ。それで実は我が息子が素晴らしい青年でして、アミルダ殿ときっと気が合うと」

「過度な評価に感謝しましょう。ですがまだまだ若輩の身、目の前のことしか考えられませんので」


 アミルダ様も結婚相手として狙われるのか。まあ見た目もすごくよいし女王様だし当然か。


 そう思っていると拒否られた男たちが離れた後、輪になってアミルダ様を睨んでいた。


「チッ、小娘の分際で偉そうに。貴様なぞ女王でなければ嫁の貰い手などいるものか」

「女のくせに身のほどを弁えろと言うのだ。何が女傑か、どうせ元ルギラウ王を身体で誑かして勝った売女だろうに」

「奴のせいで元ルギラウ国との商売がパーだ! 絶対に許さぬ!」


 ……は? じゃあ何か? 俺達は滅ぼされればよかったと?


 それにアミルダ様が売女だと? 流石に許せないと奴らの元に向かおうとすると、エミリさんが俺の腕を引っ張って来た。


「リーズさん、落ち着いてください」

「ですがあいつらは……」

「大っぴらじゃなくてコッソリ反撃しましょう」

「なるほど」


 流石はエミリさん、何だかんだで黒いところがある。

 

 コッソリと奴らの輪に近づいて【クラフト】魔法を発動。


 奴らの持っていたグラスのワインの中身に下剤の成分を生成した。


「まったく女は素直に股を開いておればよいのだ……む、少々席を外させてもらおう」

「その通りですな。その点、あの姪とやらはかなりよさそうです。ハーベスタ国が潰れた暁には楽しみですな……む? 失礼、腹の調子が……」

「わ、私も……うっ!?」


 しょぼい反撃だがまあ多少は気が晴れた。これでとりあえずヨシとしよう。


 だが周囲の令嬢などもアミルダ様を冷ややかな視線で見つめていた。


「全く成り上がり国の分際で。文化もない蛮族が我らと同じ社交界に立つとは」

「ルギラウ王のほうがよほど相応しい人物でしたわね」

「ベルガ商会は心づけをくれるよい商会だったのに……」


 ……腐ってる国が多いなぁ。こいつらどこの国の貴族だろうか。

 

 覚えておいて損はなさそうだ、今後関わらないためにも。


「エミリさん。アミルダ様の悪口を言ってる貴族どもはどこの国のですか?」

「さあ……小さな周辺諸国のどこかだと思います。ドレスなどの生地の質がよくないですし、つけてる宝石の類もそれに乗じて小さいですから」


 エミリさんは彼女らに聞こえるような声で呟き、女どもがこちらを睨んでくる。


 対してエミリさんは指輪についた大きな宝石を見せびらかすと、女どもはヒステリックな形相を浮かべた。こ、これが女性の戦いか……。


 この宝石は俺が以前に渡しそこねていたダイヤだ。こないだ言われて存在を思い出したので改めてプレゼントした。


 エミリさんの言動は少々喧嘩を売るような感じだが問題ないだろう。


 だってルギラウ国やベルガ商会と懇意だった国だし、付き合ったところで寝返られるのがオチだ。


 それにこの争いは無駄ではない。社交界で用意できる服装や装飾の類は、国力の誇示にもなるのだから。


 私たちはこんなに上等な物を用意できるのだぞと見せびらかすのは、社交界では基本中の基本である。


 だからこそ普段は質素を心がけるアミルダ様と、それに付き合わされてるエミリさんもオシャレしているし。


 社交界とは外交であり戦場なのだ、それを忘れてはいけない。舐められたら終わりである。


「ふ、ふん! 衣装だけ着飾ったところで中身がなければ何の意味もなし! この全てを見通すような透明な酒みたいに上等な品も造れない蛮族が……!」

「何の特産品もないハーベスタ国が着飾っても見苦しいだけですわね!」

「まったく身のほどを知れと……しかしこの透き通った酒はよいですわね。私たちのような真の貴族にピッタリ」


 女どもはグラスに入った無色透明な酒を味わいながら、明らかにこちらに聞こえる声で叫ぶ。


 もういっそ普通に直接口論すればよいのにと思うが、それはあまりよろしくないらしい。


 あくまで独り言や身内の話の態であることが大事らしい。貴族って面倒だね。


 ちなみにだが……あの酒はハーベスタ国がお土産に持って来た日本酒である。


 清酒なんだけどお前らには全く合ってないだろ。お前らは心が濁ってるだろ、いや濁酒に失礼過ぎるな。


「おおアミルダ殿! 今宵は我が国の招待に参加頂き感謝します!」


 気が付くとアミルダ様が二人の見目よい青年に話しかけられていた。


 先ほどまでの貴族と違って、何となくだが好青年の感じがする。我が国ということはクレアール国の関係者かな。


「第一王子殿、第二王子殿。招待いただきまして感謝します」

「何を言いますか。こちらこそ透明な酒という珍しい物をお土産に頂いて感謝に堪えません」


 あ、さっきの令嬢共が馬鹿みたいに口開いて驚いてる。


 しばらく黙り込んだ後、奴らは誤魔化すように酒を飲み干した。


「さ、酒などで国の価値など計れませんわね!」

「と、透明な酒くらい我が国でもすぐに作って見せますわ! 物珍しいだけですわ!」


 すごい負け惜しみである。


 そもそもアミルダ様みたいな女王ではなく、貴族令嬢ならそこまで国政に関われないだろうに。


 まあいいや、もうあいつらのことは無視で。


 それより第一王位と第二王子だ。王子ってことはクレアールのトップ2とトップ3ってことだろ。


「実は我が王がアミルダ様たちとお話したいと申されています。別室で休んでいるのですがよろしければいかがでしょうか。お供の方も是非」

「私も是非お話させて頂きたいです。リーズ、エミリ、バルバロッサ!」


 俺達はアミルダ様についていくことになった。


 ……しかしパーティーの主催者であるクレアール王が、別室で待機しているのは何でなのだろうか?


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