閑話 クアレール視点


 クアレール国王城の玉座の間。


 そこでは現クアレール王とその妻であるマリーが仲睦まじく話していた。


「ハーベスタ国とアーガ国の決戦、はたしてどうなることやら。どうせアミルダが勝つだろうけどね!」

「随分とアミルダお母様を信用しているのですね」

「そりゃ僕にとっても義母様だからね! 今後はお礼を言わないとね! 義母様ありがとうって!」


 クアレール王とマリーは笑い合う。


 マリーはアミルダの養女となっていて、結果としてクアレール王にとってもアミルダは義母と化していた。なおアミルダよりクアレール王の方が年上である。


 何ならマリーもアミルダより年上であるが、公的にはマリーは年齢を二歳引き下げられていた。


「しかし王がアミルダ様のことを義母様と呼ぶと、物凄く嫌な顔をされていましたが……」

「だから余計に言うのが楽しいんじゃないか! それに義母様にとっても僕と親族になったのは都合がよいからね!」


 ハーベスタ国がアーガ王国に攻め入れたのは、クアレールという背後の心配がなくなったからだ。クアレール王とアミルダが親族になったことで、二国間に密接なパイプが繋がったのだ。


 それはクアレール国にも恩恵をもたらしている。隣の大国と同盟を結べているので、あまり軍事力に資金を割かずに済んでいた。クーデターなどでボロボロになった国の建て直しに注力できたのだ。


 だがまだ軍の再編は完璧とは言えず、ハーベスタ国への援軍を送るのには手間取っていた。


 そんな彼らの話を遮るように、玉座の間に伝令の兵士が飛び込んでくる。


「ほ、報告します! ハーベスタ国とアーガ王国の戦の顛末の報告が来ました!」


 伝令の兵士は息を切らせながら王の前に跪く。クアレール王は先ほどまでの和やかな雰囲気を消して、真剣な顔で兵士の男を睨んだ。


「状況を申せ」


 伝令の兵士は持っていた手紙を開く。


「ははっ……! ハーベスタ国とアーガ王国の両軍がぶつかった結果、アーガ王国の兵士が全てアンデッドとなりました! そして彼らは突如現れた小国をも飲み込むような大きさの土の半球に閉じ込められました!」

「ふむ。戦場が混乱してちゃんとした伝令が届かなかったと」


 クアレール王は腕を組みながらうなずいた。


 意味不明な報告内容を聞けば信じないのは当然。それに対して伝令役の兵士は必死の形相で訴え始めた。


「お、お待ちください! これは全て真実なのです!」

「むしろ全て嘘と言われたほうが信用できるのだが? そもそも何故アーガ全軍がアンデッドになった? 更に小国をも飲み込むような土の半球? あり得ぬこととしか思えぬ」


 クアレール王の反応は至極もっともであった。


 まずアンデッドを創造する魔法自体はあるが、多くの魔法使いを揃えても精々五十程度の数を揃えるのが関の山だ。アーガ全軍七万が全てアンデッドなどあり得ない。


 次に小国を飲み込むような土の半球、これは更にあり得ない。この世界でそんなことができる人間などいなかった。


「わ、私は見たのです! 全てを! 本当です! 伝令役に伝えても信用されないと思って自らやって来たのです! どうかお信じください!」


 必死に訴える兵士。だがクアレール王はやはり疑っている。


 当然だ。国を統治する王がこんな妄言としか思えないことをあっさり信じるわけにいかない。


 この兵士が戦場でのショックで混乱して、幻覚を見たと考えるべきである。


「分かった、戦場から直接戻って来たのはよくやった。まずはゆっくりと休むがよい」

「し、しかし……」

「休むがよい」

「は、ははっ……!」


 クアレール王の圧力に負けて兵士は玉座の間から出て行った。それを見届けた後に彼は大きくため息をついた。


「はあああぁぁぁぁぁ……戦場で何かあったんだろうなぁ。信じられないような何かが」

「あり得ないことと断じたのでは?」


 マリーの言葉に対してクアレール王は首を横に振った。


「アンデッドはよく分からないけど、土の球体が造れそうなのには心当たりがあるよ。小国を飲み込むほど、というのはきっと誇張だろうし」


 クアレール王は少し懐かしむ様子を見せた後、真面目な顔に切り替わる。


「だから改めて偵察部隊を送るよ、それなりの数をね。後はアミルダへも手紙を出して詳細を聞こう。どちらにしてもそろそろ戦況は確認したいからね」

「でしたら陛下自ら向かってはどうですか? 重要な話になるでしょうし、直接話した方がよいのでは」

「そうだなー……そうだね。久々に義母様の顔を見に行くとするか!」


 クアレール王は玉座から立ちあがった。


 彼は未だにフットワークが軽く、たまにお忍びで街を見回ったりしている。たまに得意の剣で悪人を成敗したりと割と好き放題もしているのだった。


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クアレール王の剣術の腕前は、バルバロッサの全力攻撃を何度かしのげるレベルです。

なお今まで作中でバルバロッサの攻撃を防いだ者は出ていない模様。


ちなみにもし見たい閑話がありましたらコメントでどうぞ(書くかは分かりません

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