第107話 下駄をはかせよう
「「「偽りの巨人兵団?」」」
第三王子とエミリさんとセレナさんが口をそろえる。
まあ名前だけ聞いてもわけわからないだろうな。
「ようは兵士に底が厚い靴を履かせたりで、軍の平均身長を20cmくらい伸ばそうかと」
「……理屈はわかる。でも靴の底を20cmも伸ばしたら、流石に誰が見てもわかると思うがね? 偽造がわかったらむしろしょぼく見えるが」
「そこは誤魔化す方法がある。ブーツの底だけでならバレるなら、他の部分でも工夫をすることで何とかなるはずだ」
具体的には中敷き10cm分敷くとか、もしくは靴内部に10cm分のかかととかで。
ようは外側から見ても分かりづらい仕組みで、背を伸ばせばよいのである。
圧底10cmと中敷き10cmで合計20cmだ! 平均身長160cmの軍でも180cmに早変わり!
第三王子は腹を抱えて笑い出した。
「あっはっは! よくそんな変な工夫思いつくね! 前から思ってたけど君って魔法だけじゃなくて、その謎思考も強みなんじゃないかい? いくら魔法で色々用意できても、それを使いこなせなきゃ意味ないし」
「謎思考とは失礼な。それで用意していくつもりだが、何か懸念とかあるか?」
「懸念というか伝えておくことだけどね。ビーガン国がクアレールに進軍してるよ。もう国境どころか王都に向かってきている。僕らより先に到着するだろうね」
「はぁ?」
意味不明過ぎて思わず聞き返してしまった。
いやビーガンの軍がクアレールの王都に向かってるって……俺達ハーベスタの軍と鉢合わせするじゃん。
クアレール国の王都を戦場にして、ハーベスタ国とビーガン国が戦うのか? 馬鹿じゃね?
「それって俺達が王都に進軍したらマズイのでは……」
「マズイよ? でもここでこちらが引いたら、第四王子はどんどん調子に乗るからね。ことここに至っては、王都での決戦もありえる。あっはっは……いやちょっと笑えないんだけどね」
第三王子は珍しく真面目な顔でこちらを見てくる。
「ただいきなり戦闘にはならないはずだ。第四王子も自分の後援にビーガン国がいると証明したいから、彼の国の軍を呼び寄せたはず。下手に王都を戦場にすれば、自分の首をしめることになりかねない」
第三王子が俺達ハーベスタの軍を連れて来たのと似たようなものか。
普通なら他国の軍を王都に滞在させるのがリスク高すぎる。そのまま占領される危険だってあるのに。
ましてや敵対する国同士の軍を王都に招待するなんて、国防的にヤバ過ぎるしあり得ない。
……でもあり得てしまってるんだよなぁ。王が消えて国が割れてしまったことで。
「ビーガンの軍はあくまで招待されてやってきた軍で通すはず。ここでクアレール王都を戦場にしたら、流石にクアレール国全体を敵に回すからね。貴族たちだってビーガンと組むなんて認めないだろう」
「理屈ではそりゃそうだろうけど……王都が一触即発になるぞ」
確かに理屈の上ではビーガン軍と我が軍は、クアレール国の王都で戦うことはないだろう。
だが例えば各軍の兵士たちが街で喧嘩や小競り合いして、そこから大戦に発展する可能性だってある。
正直火薬庫に松明持って入るようなものだろ……おうち帰りたい。
「というかクアレール国とビーガン国って敵対国じゃん。そんな奴らを王都に招くって……」
「うん。正直僕も甘く見ていたよ、我が弟のあまりの無能っぷりに。はっきり言うよ? もし第四王子が失脚しそうになったら、ビーガン軍は王都で暴れる可能性もある」
「……だよなぁ」
ビーガン国からすればクアレール国は敵対国だ。
そんな国からの援軍を招き入れるなんて、第四王子は正気とは思えない。
そしてビーガンは敵対国なのだから自分達の都合が悪くなれば、クアレール国をいくらでも無茶苦茶にするだろう。
ようは第四王子は自分が王位を継ぐためなら、リスクなど一切考慮せずに滅茶苦茶している……負けたらその後のことは知らぬと。
「なので王都でハーベスタ軍の精強さをアピールした後、速やかにビーガン軍を暴れさせずにせん滅しなければならないんだよ。どんな手段を用いてもよいから何とかしてくれ」
「無茶言うなよ……」
「ここで無茶言わないと、王都の民が惨殺されかねない」
……チャムライめ。アミルダよりも人使いが荒すぎる。
偽りの巨人兵団を用意するだけじゃなくて、王都に滞在するビーガン軍を王都に被害なく無力化させろとか……。
とは言えだ。無辜の民が巻き込まれるのは俺も見たくない。
「確認するが、ビーガン軍をせん滅しないとダメなのか? 戦闘不能じゃダメか?」
「無力化できればいいよ。人気のない場所で包囲するのが現実的かなと思っただけさ」
ビーガン軍を殲滅が必須ではなくて、降伏させるのでもよいということか。
その上で第三王子が殲滅を命じてきたのかの理由は分かる。
例えばだがビーガン軍を撤退させたり、霧散させるのはダメなのだ。逃げた兵士たちがクアレール国で略奪するのが目に見えている。
「うーむ……王都で偽りの巨人兵団見て、士気がた落ちで降伏してくれないかな?」
「兵士はやる気出ないかもしれないが、指揮官はどうだろうねぇ……結局トップ次第になってしまうから」
「だよなぁ。どうしよ……ビーガンの指揮官なんて知らないしなぁ」
俺と第三王子がうんうん唸っていると、セレナさんが小さく手をあげた。
「私に案があります。戦なら士気がガタ落ちしたところで、敵将の首を討ち取れば敵軍は降伏なりするでしょう。なので暗殺なりしてはいかがですか?」
「「それだ」」
セレナさん、可愛い顔して提案が物凄く物騒だな! いや実際に選択肢としては大ありだ。
敵将の考えが読めないならば、その頭を排除してしまえばよい。トップを失った残った兵士たちは、事前に降伏を認めておけば投降するだろう。
流石に敵地のど真ん中で、トップを失ってなお戦うとは思えない。
暗殺なんて……と思うかもしれないが、そもそもビーガン国は俺達と違って、クアレール国の敵対国だ。
つまり奴らは敵地に攻め込んでいるのに等しいのだ。
侵攻中に殺されたからと文句を言われる筋合いはない!
「暗殺する前に交渉など出来ればいいけど……まあ状況次第かな? 僕としては大いにアリだと思うね。失敗した時のことを考えて、包囲するなり他の策も必須だけど」
「俺もいいとは思うけど。ただ誰が暗殺するか……エミリさんどうです?」
「私はただの貴族令嬢なんですが? 何で私に振るんですか?? 無茶ぶりですよね???」
盗賊令嬢だからです。忍ぶ潜むは超得意分野でしょうが。
とは言えエミリさんは人を殺す手段がないので、盗みはともかく暗殺は難しいか……光魔法を収束させて撃つレーザー砲とかあればなぁ!
そんなことを考えているとセレナさんが口を開いた。
「私がやります。これでも氷の魔法使いですので、潜むのは苦手ですが遠く離れた場所から殺れます」
「な、なるほど……ではセレナさんを第一候補で考えていきますか」
こうして色々と王都での暗殺などを相談しつつ、身長誤魔化しシークレットブーツなどの準備をするのであった。
……会話の内容と準備物の落差が激しすぎる。
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新作考え中です。
もし書くならこの作品と同じ世界で、某人気(?)キャラをちょい役で出そうかなぁと思ったり思わなかったりしてます。
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