第106話 大きいことはよいことだ


「リーズ様、何かご命令はありますか? 私頑張ります!」


 セレナさんが俺に対して前かがみになってアピールして来る。


 ……あのですね、貴女の服装ってすごく胸元開いてるのですが。


 谷間がチラチラと見えて落ち着かない……よくファンタジーで胸元開いた衣装デザインの女性多いけど、あれと普通に接してる男たちは聖人か賢者ではなかろうか。


「リーズさん! 私はお菓子を食べる仕事をください! 幸せそうに食べるなら任せてください!」

「そんな仕事はないです」

「そんなー!」


 お菓子を食べる仕事とかどんなのだよ。テレビのグルメ番組じゃあるまいし。


 さてエミリさんは放置して軍事パレードについて考えなければ。


 クアレール国の貴族が恐れるような軍隊……やはり素晴らしい装備を整えれば外れはないだろう。


 見た目にインパクトのある物と言えば……。


「ここは兵士全員に身の丈ほどのグレートソードを持たせて、一斉に行進させれば強い軍に見えるか」

「たぶん恐怖を越えてドン引きされるだろうさ。というかそんなの、普通の人間に持てないと思うんだが」

「ポーションで一時的に強化させれば大丈夫だ」

「狂化の間違いじゃないかな?」


 以前から兵士たちには筋肉増加のポーションを飲ませている。


 ただ今回配る予定のポーションは、普段の物とは少し気色が違うか。


 いつものは飲んだ後はずっと継続的に強化される……プロテインとかの効力高い版みたいなやつだ。


 ようは全身鉄鎧を装備してもちゃんと動ける程度に、自然と筋肉をつけてもらおうというもの。


 今回のは身の丈のグレートソードを持たせるので、そんな軽い筋力増強では追い付かない。


 金属鎧よりもグレートソードの方が大変だからなぁ。


 前者は何だかんだで貴族でも全身金属鎧着れるレベルだが、後者はあんなの力自慢でもそうそう装備できないだろ。


 なので一時的な強化の代わりに、効能を強めるタイプを飲ませようと思う。


「いやはや凄まじい力だ。アミルダが君を重宝する理由も分か」

「とは言えグレートソードだけでは少し物足りないな……」

「??????」


 第三王子が笑いながら首をひねっているが、まあこいつが元からおかしな奴だからな。


「砂糖! 砂糖でゴーレムを造りましょう!」

「エミリさんが全部食べるでしょ」

「じゃあ砂糖でドレスを造りましょう! 技術力もアピールできますよ!」

「虫にたかられますよ。うーん……他に何か強そうに見える方法は……第三王子、馬を二千頭ほど用意して欲しい。見栄えもよくなるだろうし」


 馬は現代地球で言うところの戦車に等しい。


 それを二千頭揃えて一斉に行進させれば、凄まじい圧力になるはずだ。


「あはは。無、理★」


 第三王子め、使えない男だ……。


 アミルダならなんかこう、野生の馬とか牛の生息地くらい教えてくれそうなのに。


 彼女は何だかんだで俺に対して、元手となるものは可能なら与えてくれたりするからな。


 例えば肉まんの時はパンと干し肉、白竜城の時はモルティの城壁全部くれたからな。


 ……まあトウモロコシの時とか割と無茶ぶりもしてくるか。


「リーズ様。どちらにしてもうちの兵士は、ほとんど馬に乗れません」

「……そうでしたね」


 セレナさんの冷静なツッコミで我に返る。


 我が軍は農民兵が多いからなぁ。馬とか弓みたいなの扱える奴貴重なんだよな、弓はクロスボウがあるけども。


 ……ハーベスタに戻ったらアミルダに兵農分離でも提案してみようかなぁ。


 ようは軍隊というか、常日頃から戦うことだけを生業にする職業軍人部隊を増やすみたいな。


 現状の我が国は職業軍人かなり少ないし。バルバロッサさんが訓練しているのが百人いるかいないかだったかな? 


「第三王子、じゃあせめて鉄とポーションの素材だ。集められるだけ頼む」

「言っておくけどグレートソード二千本分の鉄は無理だからね?」

「足りない分は俺が魔力で造る。可能な限りでいい」

「わかった。なら手配しよう」


 第三王子は近くにいた執事を呼び寄せて、命令を下すとため息をついた。


「……ところで君たちを物凄くこきつかってるんだけども。事が終わった後、アミルダにどれだけ見返り要求されると思う? 正直恐ろしいんだけど」


 第三王子の懸念は最もだろう。


 俺やハーベスタ軍をここまで好きに使ってくれたのだから、当然ながらアミルダもその分は要求するはずだ。


 それがあるから俺も上げ膳据え膳で、第三王子を支援し続けている。


 アーガ王国を潰すことが俺の第一目的なので、それの有利になることならやる。


 ましてや第三王子は現状だとクアレール国の王位に就いていない。


 そんな者を助けているのだから、より恩に感じてもらわないとな! 


「少なくともハーベスタ国がアーガを攻める時に、全面バックアップは確実だろうな。物資や金銭の支援に援軍に……後は文官とかも必要だし」

「はっはっは。名代殿、ちょっと手加減したりは?」

「困った時はお互い様だろ?」


 第三王子に釘をさしておきつつ今後のことを考える。


 鉄などの素材をもらえそうなので俺の魔力負担は減るな。さて威圧的な軍事パレードってどうするかなぁ。


 地球だとどんな感じにするとよいとかあったっけ。


「うーむ。どうすればより強い軍隊に見せられるか……」

「グレートソードで十分だと思うんだけどなぁ」


 近代~現代だと戦車とか揃えるけど、それはこの世界にはないので参考にはならない。文明レベルが近い戦国時代とか江戸時代だと……参勤交代とか?


 参勤交代は徳川幕府時代にあった制度。大名が数年ごとに軍を引き連れて、徳川本拠の江戸~自領地間を移動するのだ。


 諸藩は己の力を見せつけるために、こぞって人員を増やしたり衣装を豪華にしたりしたそうな。


 そういえば参勤交代には面白い話がある。


 参勤させる軍の兵士たちには当然給料を支払うのだが、その金額はとある基準で大きく変わるのだ。


 その基準とは身長だ、分かると思うが高いほど日当が高い。一説によると高身長と低身長では、日当が四倍ほど違うこともあったとか。


 確かに身長が低い者の行進に対して、高い者を揃えたそれはかなり凄そうに感じるだろうな。俺だって身長高いのが側にいると圧力感じるし。


「……そうか、身長だ。身長高い奴を揃えれば、より凄い軍隊に見えるはずだ!」

「そりゃそうだろうけど。なんだい? 君のポーションは人の身長を伸ばせるとでも? もうそれ君が怪物なんじゃないかい?」


 第三王子がなんか言っているが……こいつは何をほざいてるのか。


「お前はポーションを何だと思ってるんだ。流石に無理に決まってるだろ。俺の【クラフト】魔法ならできるが……魔力を大量に使うから二千人を伸ばすのは無理だ」


 俺の【クラフト】魔法はその物が変われる可能性のあるものなら、変化させることができる。


 人をサルに退化させることすら可能なのだ。身長を伸ばすくらいはワケない。


「あっはっは! 僕は君のことを甘く見過ぎていたようだね? でもそれだと結局、大勢の人数は揃えられないんじゃないかい? ひとりひとりに魔法使って行ったら日が暮れるのでは?」

「確かに全員の身長を伸ばすのは難しい。だが背を高く見せるのは可能だ」

「ほう?」


 怪訝そうな顔をする第三王子。


 身長とは古来より多くの人間が苦しんできた物だ。


 持たざる者は持つ者にずっと見下されて、その度にたぶん屈辱を味わって来た。


 だがずっと屈していたわけではない! 様々なセコ……涙ぐましい工夫にて対策を講じてきたのだ!


 下駄をはかせればよいのだと!


「これより身長誤魔化し兵団……いや流石にダサすぎるか……『偽りの巨人兵団』を用意する!」

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