第152話 態勢を立て直そう
ハーベスタ軍はひとまずアーガ王国から距離を取っている。
アミルダたちは本陣の丘から戦場を眺めている。アンデッドに襲われて自らもアンデッドになるアーガ兵たちを見ながら、彼女たちは次にどうするかを考えていた。
「……さてどうするかだな」
「叔母様! 逃げましょう! あんな大量のアンデッド相手にしてられませんよ!」
アミルダに対してエミリが悲鳴をあげた。
アンデッドたちは次々と数を増やしつつある。そして彼らに殺された者もまたアンデッドになる。戦わずに逃げたいと思うのは当然だ。
「私もこのまま撤退したい。だがそうするとあのアンデッドたちはハーベスタ国にも向かってくる……」
「……うまいことアーガ国にだけ行くようにできませんか?」
アミルダは腕を組みながら首を横に振った。
「無理だ。仮にうまいことできたとしても、アーガの民が殺されてアンデッドの巣窟になるぞ。そうなったら次はどこを狙ってくると思う?」
「何でアーガ王国ってうちに迷惑しかかけてこないのですか?」
「私も嘆きたい気分だ、しかしそれで現状は変わらない。……このアンデッド、ここで食い止めなければ増殖してどうしようもなくなるぞ」
顔をしかめながらアーガ軍を睨むアミルダ。すでにアンデッドは加速度的に増加しておりおそらく七万の数を超えていた。
このアンデッドがアーガ王国に入って、民衆を仲間にしていけば百万以上のアンデッド軍の誕生だ。そうなれば人間が勝つことなど不可能だ。アンデッドは兵站も休息も士気も不要の怪物なのだから。
「……全軍で迎え撃つしかないか」
「叔母様!? こちらはクロスボウの弓もあまり残ってないんですよ!? せめてオジサマ単騎突撃とかじゃないと、剣などで戦ったらハーベスタの兵たちもアンデッドになりますよ!?」
「吾輩にお任せを! アンデッドごとき蹴散らして見せまする!」
エミリが悲鳴をあげてバルバロッサは力強く宣言する。だがアミルダは再度首を横に振った。
「バルバロッサひとりではアンデッドが散り散りに逃げて行く。ここで奴らを分散させてはどうにもならんのだ……! 民衆を手あたり次第にアンデッドにしていく!」
今のバルバロッサにはばん馬による機動力もある。なので以前のように敵軍に無視されることはなくなった。
だが敵は七万な上に知能も士気も薄いアンデッドだ。バルバロッサが敵陣で大暴れしても戦い続ける可能性が高い。
そして敵の数が多すぎるのでバルバロッサが無双しても、アンデッド軍の全滅には恐ろしい時間がかかってしまう。
「叔母様、提案した私が言うのもなんですが! いくらオジサマでも七万相手にずっと戦うのは無理だと思うのですが!? 相手はアンデッドなので四六時中戦い続けますよ!?」
「分かっている! エミリ、お前はリーズを探せ! あいつにS級ポーションを作成させてバルバロッサに飲ませる! そうすれば成功の目が僅かに出るはずだ!」
アミルダは険しい顔で戦場を睨んでいる。
彼女には確信がある、この作戦にはかなりの無理があると。仮に成功したとしてもハーベスタ軍にどれだけ被害が出るか想像するだけで恐ろしい。
だがここでアンデッドを逃がすわけにはいかなかった。あのアンデッドたちをここで逃がしたら、倍々ゲーム的に増えて手が付けられなくなる。
僅かな希望にすがるしかない。そう彼女が決断した瞬間だった。
合わせて七万を超えるアーガ兵とアンデッド。それら全てを包みこむほどに巨大なドーム状の土が出現した。
その土ドームはアンデッドとアーガ兵たちを完全に包み込み、見る限りでは一匹も逃していないように見える。
「な、なんだアレは……!?」
「土っぽいです! アンデッドを封じ込めたお墓?」
「あれならばアンデッドたちは散らばらないのである!」
アミルダたちは目の前の理解できない光景に絶句する。
そんな中でブロロンと魔動車の駆動音が近づいてくる。リーズが魔動車を運転して戻ってくると、彼は車を止めて運転席から飛び出して来た。
「みんな、大丈夫か!」
「無事だ! それよりリーズ、あの土の半球体みたいなのはまさかお前が……?」
アミルダは山ほどの大きさの土ドームを指さす。それにリーズはうなずいた。
「そうだ、あの土ドームは俺が造った。あれならアンデッドたちは逃げられないはずだ」
「流石リーズさん! 困った時は頼りになりますね!」
エミリはリーズの側に寄ってきて笑った。だがアミルダはリーズを睨んでいる。
「待て。いくらお前が優秀と言っても、あのような巨大な物を一瞬で造るなど無理だ! それができたならとっくにやっていたはず! それに旧リーズはどうした! お前はあの者に会いに行ったはずだ!」
「……あいつは死んだよ。俺に力と意思を託してな。あいつのSS級ポーションで俺の【クラフト】魔法は進化した。リーズのおかげであの土ドームも製造できた。今なら何でも造れる、そんな気までしてる」
アミルダの問いにリーズは悲しそうに呟いた。
少しの間だけ場が静まり返った後、バルバロッサは大きく唸った。
「……そうであるか。ならばこれ以上死人への恨み節は言わないのである! 今こそ吾輩があの土ドームに飛び込んで、アンデッド共を摺りつぶしてくるのである!」
「いや待ってください。ひとまず態勢を立て直しましょう。あの土ドームはガワこそ土ですが、内側の壁は鉄でコーティングしています。最低でも半年は持つはずです」
リーズがバルバロッサを制止する。
その様子にアミルダも小さく頷いた。
「時間があるならば最低でも軍議を開いてからだ! はっきり言って私もまだ事態を飲み込めていない……リーズよ、仔細全部教えてくれ。そこからどうするかを決める。ひとまずの撤退も視野で考える」
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リーズ、とうとう正真正銘のチートになったのでは?
敵七万を何の用意もなく閉じ込めるのは、もう生産チートじゃなくて純粋に強いのでは?
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