第129話 求む! 優秀な人材!


 夜の白竜城玉座の間で、アミルダはバルバロッサに申し訳なさそうにお願いしていた。


「実はセレナからリーズと恋仲になりたいと相談があった。国益から見てもセレナとリーズをくっつけたい。なので何かよい案があれば教えて欲しい……私はこういうのは不得手で……以前にお前を叱責したが、間違っていたのは私だった」


 アミルダは沈んだ顔だ。


 彼女は失敗はしっかりと活かす人間のため、以前の経験から自分に恋愛関係は不向きだと理解していた。


 そこで様々な奇跡的要素が重なった結果、恋のキューピッド役となってしまったバルバロッサに白羽の矢を立てたのだ。


「なるほど、それはなかなか難儀でありますなぁ。リーズはアミルダ様とエミリ様で満足していて、しかもまだ結婚もしていない。そんな状態で新しくはなかなか」

「わかっている。だがセレナの気持ちを考えるとな……。それにまあその、ちょっと他にも負い目があってな。ほらこう、私は今忙しすぎるからな? 動けなくなってはな? ……察しろ」

「リーズと褥で寝てやれないと」

「誰が直接言葉にしろと言った!?」 


 アミルダの頭からプスプスとボヤが出始めるのを見て、バルバロッサは愉快そうに笑った。


「心得たのであります。とはいえ吾輩が与えられるのはチャンスのみである」







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 アミズ商会本部にいた私をバルバロッサ様が、私用で訪ねてきた。


 なので応接間でテーブルを挟んで向かい合った椅子に座って、二人きりで話し合うことになった。


 ……本音を言うとリーズ様も訪ねて来てくれないだろうか。あの人は仕事以外で来てくれたことはほぼない。


「セレナよ、リーズに夜這いの戦法を仕掛けるのである!」

「えっ!?」


 ???? この人はいきなり何を!?


「ば、バルバロッサ様!? いったい何を仰っているのですか!?」

「吾輩はアミルダ様から、リーズとお主を結ぶ役目を仰せつかった! 故に助言をしているのである!」

「え、ええぇ……」


 か、かろうじて引きつった笑みを浮かべられているはず……! 油断したら酷い顔になってしまいそう……!


 まさかアミルダ様……私とリーズ様を恋仲にすることを、よりにもよってバルバロッサ様にお願いしたのですか!?


 この人は確かに優れた武人で清廉潔白なお方ですが!? でもこういった恋心とか一番相談したらダメな人でしょう!?


「バルバロッサ様! 私は本気なのです! 本気でリーズ様と恋仲に……!」

「本気ならば何故もっと攻めぬ! 守勢になってばかりで攻勢に出ねば、いつまでも他国の領土は奪えぬ!」

「攻めてます! そもそも私は恋愛の話をしています!」

「吾輩も恋愛の話をしているのである!」


 は、話がまるでかみ合わないのですが!? アミルダ様!? 


「よいか! 攻撃は最大の防御! ずっと攻めれば敵は反撃できず、すなわち守りにもなる! つまり防御は不要! 更に言うならリーズは堅牢な砦、過激に攻めねば永遠にこのままであるぞ!」

「そんなことはありません! 攻めてますしじっくりとやっていけば……」


 思わず声を荒げてしまったが、バルバロッサ様はかなり落ち着いた様子でこちらを見てくる。


「じっくりとやっていって一年、何か進んだのであるか? 進展せぬ攻めは無為に兵糧と士気を浪費しているだけである」

「そ、それは……」


 ひ、否定ができない。私もやれることはかなりやっている。


 恥ずかしい思いをしてまで胸を露出し、リーズ様に恐る恐るボディタッチまでして……何も進まなかったからアミルダ様にお願いした。


 ようはこれ以上は手詰まりだったのだ。 


「で、でも夜這いは流石に……もしリーズ様に嫌がられたら……」

「はっはっは! 美少女に詰め寄られて嫌がる男などおらぬのである! それに……時間はお主の敵であるぞ? アーガの件が解決したらアミルダ様はきっと世継ぎをつくりなさる」

「うっ」

「ついでにエミリ様もだろう。そうなると……リーズのことだから満足してしまいそうなのである」

「ううっ……」


 バルバロッサ様の意見に反論できない……。


 私だって懸念しているのだ。リーズ様は何と言うかその、あまり欲がないというか。


 子供が複数できてしまったらもう後はいいや、みたいな流れになってしまいそうで……そうなると私が入る隙はもうない。


「ど、どうすればいいんですか……」

「まずは寝ているところに強襲する。そしてリーズの両手両足を少しだけ凍らせて機動力を削るのである。次は……」

「夜這い以外の選択肢はありませんか……?」


 さ、流石に夜這いはよくない。ほら倫理的にこう。


 バルバロッサ様は少し腕を組んで悩んだ後に。


「じゃあもう告白するのである。リーズのことが好きだからと」

「こ、告白!? いやあのそれもちょっと……」

「ええい! どれもこれも無理では話にならぬのである! 吾輩は妻をめとる前にすぐに婚約を申し込んだのである! 恋とは戦である! 先に他の者に占領されては負け!」

「じゃあもう負けてるのでは……」


 ついボソリと告げてしまったことに対して、バルバロッサさんは勢いよく立ち上がった。


「なれば占領された領地を少しでも奪い返すしかあるまい! 元々負け戦であれば、無茶を通すくらいは必須! それも出来ぬならば素直に白旗をあげるのである!」

「……っ!」


 言われてみればそうだ。すでに私はアミルダ様と、真に遺憾ながらエミリに負けているのだ。


 それこそ滅ぼされる直前のハーベスタ国みたいな状況。そこから挽回するなら、多少は無茶を通さないとどうしようも……!


「ここがお主の分岐点ぞ! 明日にはリーズとアミルダ様はねんごろになってるやもしれぬ! 戦は攻めたほうがよい!」


 そう思った瞬間、私はすでに立ち上がっていた。


「バルバロッサ様! 私、リーズ様に告白してきます!」

「うむ! アミズ商会は任せるがよい! どんなことがあろうとも振り返るな! 一度引けばもはや進めぬと知れ!」

「はい!」


 こうして私は急いで部屋を駆けだして、建物を出てリーズ様の元へと向かう!


「あの……商会長にかなり重要な相談が……」

「セレナは受けれぬ! 万事お主らでこなすがよい!」

「そんな!? すごく重要な商談なのに!」

「今のセレナはそれ以上に大事なことがある! トップに頼ってばかりでなくて自分でやれ! 吾輩が全責任を持つ!」


 後ろから物凄く気になる話が聞こえる……でもダメだ。


 ここで戻ったらたぶん、何だかんだで言い訳をつけてまた後回しにしてしまう。


 後ろ髪を引かれる思いをちぎって白竜城へと向かった。


 そして廊下で歩いていたリーズ様を見つけて、急いで駆け寄って……。


「セレナさん? そんなに急いでどうされました?」

「リーズ様! 私と……私と結婚してください!」

「……はい?」



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バルバロッサは恋愛上手なのではありません。

彼は『鼓舞スキル LV MAX』みたいなイメージの、『戦闘技能』を発動しただけです。

言ってる内容抜粋すると、恋愛というか戦術なんです(

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