第154話 シャグの死


 アーガ王国軍は超混乱に陥っていた。


 魔王バルバロッサに蹂躙された時点で大混乱だったのだが、トドメと言わんばかりにボラススによるアンデッドが出現して襲い掛かって来る。


 もはや誰であろうがアーガ軍の態勢を立て直すことは困難だった。


 アーガの兵士たちは必死にアンデッドから逃げ纏うが、もはやアーガ軍の兵士にアンデッドが混ざっている状態だ。


 一方から攻めてきているわけではないので、どこに逃げようがアンデッドがいる。更にアーガ兵たちが死ぬにつれてアンデッドになっていくので地獄であった。


「ひ、ひいっ!? やめっ、やめっ……あ……」

「ぎあああああああ!? か、噛まれ噛まれ……っ!」

「く、来るな! 来るなぁぁぁぁぁぁ!」


 噛まれ、首を絞められ、撲殺と多種多様な手段で殺されていくアーガ兵士たち。


 彼らも剣を振るってアンデッドの腕や首などを切断するが、とても致命傷など与えられない。当然だ、すでに命などない相手なのだから。


 腹を刺しても首を斬っても動き続ける。肩腕が千切れてももう片方の腕で襲ってきて、片足が千切れたら片足で跳ねながら近づいてくる。両足がなくなれば手で這って、両手がなくなれば噛みついてくる。


 まぎれもない怪物だ。アーガ兵士の持つロングソードで無力化するのは困難を極める。


 だがアンデッドは足が遅い。戦場中に散乱しているとはいえ、一部のアーガ兵士は軍の布陣から逃げ出そうと走っていた。


 その中にはボルボルの父親、シャグもそこにいた。


「な、なんなのだこれは!? こんなところで死んでたまるものかっ!」


 シャグは馬に騎乗して逃げ纏う。その後ろにはアンデッドが何体も追いかけてくるがスピードが違う。


 このまま行けば彼は逃げ切れるだろう。


「駆けよ、我が愛馬ボルボル!」


 シャグは手綱を強く握って少し太った馬を操る。


 彼はこう考えていた。この軍から抜け出してついてきたアンデッドは近くの村に押し付ける。そうすれば無事に帰還できると。


「ボルボルは無事なはずだ! 何せ我が息子だからな! ならば私が生き残ることが全てだ! はあっ!」


 更にシャグは馬を駆けさせてアンデッドたちの間を通り抜ける。。


 そうして軍の後方へと躍り出てアーガ軍から抜け足していく。もはや彼の前方にアンデッドもアーガ兵もいない。


「よし! これで私は助かる!」


 シャグは思わず安堵の笑みを浮かべた。その瞬間だった。


 彼の前方を遮るように巨大な鉄の壁が地面から生えて来た。


「……は?」


 その壁はシャグごとアンデッドを包囲するかのように戦場全体を覆っていた。シャグは壁のすぐ側まで寄ってから壁を手の甲で軽く叩く。


 コンコンと音が響くが何も起きない。後ろからはゆっくりとアンデッドがにじり寄って来ていた。


「な、なんだこの壁は!? お、おい! 私を出せ! 私はシャグ様だ! アーガ王国の重鎮にしてボルボルの父親! 早く出せ!」


 シャグは発狂しながら鉄の壁をガンガンと叩く。だが壁はビクともしない。


 後方のアンデッドとの距離が徐々に詰まっていく。彼らの地から響くような雄たけびが聞こえて来た。


「ひ、ひいっ!? く、来るなっ! に、逃げるのだボルボル! きっとどこかに穴があるはずだ! このシャグを通り抜けさせるための穴が!」


 シャグは壁を沿うようにして馬を走らせた。アンデッドから逃げるように必死に。


 アンデッドは鈍いので馬が全力で走っている間は追い付けない。だが三十分も走らせているのに、出口はてんで見つからなかった。


「バカなバカなバカな!? 何故出口がない!?」


 当然だ、そんなものがあればアンデッドが外に逃げてしまう。


 とうとう馬がバテて速度が落ち始め、彼の周囲にアンデッドが近づき始めた。


「ぼ、ボルボル! 頼む頑張ってくれ! 必ず私の息子が助けに来てくれる! それまで少しでも生き残るのだ! 私にはまだまだやることがある! ボルボルならばきっと我が家を大きくしてくれるのだから! それに銀雪華を性奴隷にするのもだ!」


 シャグはまだ銀雪華を求めていた。


 ボルボルの生まれ変わりを孕ませると言っていたが、まだ諦めてはいなかった。


「そ、そうだ! 魔法使い部隊だ! あの者たちならばアンデッドを追い払って、この壁をも粉砕してくれるはずだ! 魔王すら抑えた者たちなのだから!」


 シャグは戦場を見渡す。馬に乗っているので彼は少し視線が高く、少し先にローブを来た集団を発見することができた。


「いた! 頼むボルボル! もう一走りだけ頑張ってくれ!」


 馬とてアンデッドに殺されたくはない。執念と根性で走り続けた。


 恐ろしい身の毛のよだつようなアンデッドの群れの間を抜けて必死に。


 そうして彼らはローブの集団の元へとたどり着けたのだ。


「ま、魔法使い部隊! 私を助けるのだ!」


 シャグはローブの者のひとりの側まで、馬を駆けよらせた。その表情には安堵の色があった。


 この魔法使い部隊はあの魔王とも渡り合ったのだ。この鉄の壁を壊すのも可能、何ならアンデッド共を皆殺しもできる。


 故に気づけなかった。魔法使いがこんな状況にも関わらず、誰も魔法を発していないことに。


 ローブの者がシャグの方へと振り向いた。すでにその顔は青白く、明らかに生きている人ではなかった。


「ぐおおおおおぉぉぉぉぉ!」

「ひ、ひいいいいぃぃぃぃ!? ボルボル、逃げっ……!」


 ローブの者は間髪入れずに馬に噛みついた。馬はいなないて倒れ伏し、シャグはその勢いで地面に振り落とされてしまう。


 彼を包囲するようにアンデッドたちがにじり寄って来る。


「や、やめろ!? わ、私はシャグだぞ!? お前たちはアーガ兵士だろう!? 私の命に従って……!?」


 元アーガ兵士たちがシャグに一斉に襲い掛かっていく。更に彼の愛馬もアンデッドとなってシャグに噛みついた。


「ぎ、ぎあああ……わ、私は……あ……」



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シャグ誰だっけコメントが複数来ていて、やはりこいつは小物界の小物だと再認識。一話使う価値あったかなぁ……生き残っていても魚の小骨みたいに鬱陶しいのでよいか。


今年もありがとうございました。

直近で三作品ほど連載開始してここでも紹介させて頂きましたが、そのうち二作はもうすぐ終わる予定です。

(片方は元々短編予定。もう片方は五十話~六十話くらいで完結予定)

自分が同時連載できるの三作品くらいかなと把握できたので、一月中に新連載開始できたらいいなぁ……。


それではよいお年を!

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