第155話 万全の態勢で


 ハーベスタ軍は無事に白竜城へと撤退を完了した。


 ようやく一息つく時間もないままに、俺達は即座に作戦立案室へと集められる。


 俺達は円卓を囲んで椅子に座って軍議を開始する。


「全員揃ったな。では早速だが今後の動きについて改めて相談したい」


 疲れているだろうに全く顔に出さずに気丈に振る舞うアミルダ。本当ならこの戦で全て終わらせる予定だっただろうに。


「まずアーガ軍は壊滅してアンデッドとなった。これはもう間違いないと見てよい。つまり……もうアーガ王国は脅威にはなり得ない」


 アミルダの断言に異論をはさむ者はいない。


 当然だ、アーガは全兵力を以ての決戦を挑んできたのだ。その軍が全滅したのだから兵の建て直しなど不可能だ。


 仮にできたとしても十年以上の年月がかかる。つまりアーガ王国はもうまともな軍など編成できないので相手にならない。


「つまり我らの敵は土壁に囲んだアンデッド。そしてボラスス神聖帝国のみだ」

「叔母様。それはつまりボラススも攻めるということですか?」

「そうだ。もはやあの国を放置などできない。今囲んでいるアンデッドを全て滅ぼしてもまたつくられては意味がない! 次の進軍で諸悪の根源を断つ!」


 ボラスス神聖帝国は謎めいていた国家だった。


 何故か劣勢のアーガに助勢して支援を行い続けていた。その理由は大量の戦死者を出してのアンデッド化なのだから、目的のために死者を大量に用意などやってることはまさに魔王そのものだ。


 あんな国を生かしておいては必ず面倒ごとが起きる……こちらにも戦力的には魔王がいるけども。


「俺もアミルダに同意だ。ボラススは必ず滅ぼさないとダメだ。あいつは個人的にも許せない」


 ボラスス神聖帝国のせいでリーズは蘇生させられて、またアーガの悪事の片棒を担がされてしまった。


 確かにリーズ自身にも非があるとはいえ、言葉巧みに操って騙したボラススは許せない。あいつらが蘇らせたせいでリーズは二度も苦しみながら死んだのだから。


「でもボラスス神聖帝国は結局どんな国なんでしょうか?」

「端的に言うとボラスス教による宗教国家だな。信者たちが集まって興した国なのもあって、国民は全員がボラススを教を信じ切っている」

「恐ろしい話ですねそれ……」

「下手すれば全国民が兵士となって、我らに抵抗する恐れまである」


 ボラスス教なんて邪教を信じ切っているのは本当に勘弁して欲しい。


 宗教による一揆は本当に厄介なのだ。有名なのは三国志の黄巾の乱だろうか、五十万人以上の信徒が軍になったとか何とか……人数多すぎるだろ。


「つまりまずは土壁で包囲しているアンデッドの撲滅。次にボラススの軍を倒して統治占領……この二つをなるべく時を開けずに行わなければならぬ」

「むむ? 何故時をあけてはダメなのでありますか?」

「ボラススからすればあのアンデッド共は強力な策だ。故に我らが時間稼ぎのために土壁で囲んだけで、まだ策は破られていないと思っているだろう。なら現時点で更に動くことはない。逆に……」

「アンデッドを全滅したことを知ればまた新たな策を練って来るであると?」


 バルバロッサさんの言葉にアミルダは頷いた。


 確かにボラススからすればあのアンデッドの集団は、切り札かは不明だが強力な札であることは間違いない。破られてもない段階から更に新たに強い札を切っては来ない気がする。


 何故なら勿体ないから。奴らが大量のアンデッドを用意できたのは、リーズによる無限物資があったからこそだ。


 大量の兵を戦場に集めることの困難さもだが、何より魔法使いがアンデッドを造り出す魔法をもうそこまで乱発はできないはずだ。


 今まではボラススにもリーズによる魔力回復ポーション作成があったが、今はもう増やすことはできないのだから。貯蔵はあるにしてもこれ以上の補充はできない。


 つまりポーションを浪費したら勿体ないと思ってしまう。この七万のアンデッドで勝てるのならばこれ以上のリソースは使いたくない、と考えてもおかしくはない。人間は必要以上にモノを使うのを嫌う者だから。


「それに今のボラススは俺の強化された力を知りません。あの土ドームがどうやって発生したかもおそらく分かっていないと思います」


 俺は皆に向かって宣言する。


 ボラスス教皇は俺とリーズのやり取りを途中までしか見ていない。つまり俺がSS級ポーションを飲んだことをつゆほども知らないのだ。


 そしてボラスス神聖帝国は俺の強化される前の力をほぼ完全に把握している。リーズから間違いなく聞いているのだから当然だ。逆を返せば以前の俺では準備なしにあの土ドームを作成できないことも分かっている。


 つまりボラスス視線で考えれば彼らも妙だと思っているはずだ。あの土ドームはどうやって製造できたのかが分からない。


 それが分かるまでは迂闊には動けないだろう。どんな策も得体の知れない力で水泡に帰す恐れがある上に、もうリーズがいないので物資を補うにも限度がある。


「まずは態勢を立て直してアンデッドの対策、更にボラススに攻め込む準備をする」


 アミルダは俺たちを見据えている。その目には力強さと決意があった。


「次の出陣で全てを終わらせる。もはや敵はアーガではなくボラススだ、総員そのつもりでかかれ。敵はこれまでになく強大……だが奴らを倒さないことには安寧はない。諸悪の根源、ここで叩き潰す!」


 俺も覚悟は決まっている。


 ボラスス神聖帝国には絶対に勝たなければならない。そのためにはもはや火縄銃や大砲でも足りないのだ。あの国を生かしておけば本当に世界が滅ぶのだから。


 手元に【クラフト】魔法で拳銃を作成する。今の俺ならば精密な道具などの類も容易に製造できてしまう。


 リーズから受け取った力を今こそ使う時だ。彼の想いを託された責任を果たしてみせる。



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今こそ真実を話します。ボラスス=ラスボスのアナグラムです。

(気づいている方がすごく多かった気はしますが)


次はボラスス側(アッシュ+ボルボル込み)視点。

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