第113話 クアレールの終
第四王子を処刑し終えた後、俺達はクアレール城玉座の間へと訪れていた。
そこでは第三王子が嫌そうな顔で玉座に座っていた。
「クアレール王殿。座り心地はどうだ?」
「あっはっは、最低だね! はぁ、ようやく座りたくもない玉座についてしまったねぇ……試しに座ってみる?」
「面倒なのでごめん被る」
「はぁ……王にならずにアミルダと結婚できた君が羨ましいよ」
第三王子はため息をつきながら玉座にもたれかかった。
実はこいつに同情をしているところもある。俺だってハーベスタ国の王になど絶対になりたくない。
俺はアミルダがハーベスタ国の半分を渡すと言われた時に断れた。だがこの男は拒否する選択肢を持ってなかった。
それもあって文句言いながらも精力的に協力したが……まあものすごく人使い荒かったけどなコイツ!
「さてと……あーうん。よし、もう第三王子は終わりだ。ではクアレール王として最初の仕事をしないとね。大臣、王都にいる貴族たちを集めてくれ」
「すでに集めております」
「そうか、ならすぐにこの場に集めよ。ハーベスタ国の名代殿たちは、少し後に改めて呼ぶので少し応接間で待機して欲しい」
俺達は第三王子の指示に従って、兵士に応接間へと案内される。
椅子机にカーテンに……全ての家具が豪華な造りの待機部屋だ。
「お、お菓子! お菓子がありますよ! これ全部持って帰っていいですよね!?」
「は、はぁ……どうぞ」
「すみません……うちの頭おかしな令嬢がすみません……」
テーブルの上に置いてある飴などを、空の木箱(砂糖入ってたやつ)に格納するエミリさん。
それを見て困惑している兵士に謝りつつ、少し待ってから再び玉座の間へと案内された。
そこには大勢の貴族らしき人物が詰めかけている。
そして……第三王子が身なりを整えて玉座に座っていた。
冠にマントに杖など王に相応しき衣装を身にまとった奴は、先ほどとは別人のような……いや違う。
第三王子を別人たらしめているのは衣服ではない。その身にまとった雰囲気が、以前に見たクアレール前王に似ているものであることだ。
……人は覚悟を決めるとここまで変わるのか。いや変われる人でなければ、王になる資格はないのかもしれない。
アミルダだって元は大人しい少女だったらしいし。何にしても……今のクアレール王に相応しくないと言える者はいないと思えるカリスマを発していた。
俺達はクアレール王の前にやってきて、片膝を地面につけて頭を下げる。
それを見たクアレール王は喉を鳴らすと、真剣な表情で俺を見つめて来た。
「ハーベスタ国からの援軍、感謝の念に堪えない。おかげで王都を燃やすことなく、逆賊第四王子を打ち倒せた」
クアレール王は頭を下げない。
当然だ、王が他国の者に易々と下げてはならない。
それは他国に対して、自分の国は格下だと宣言するに等しい。してはならない。
「義を重んじるクアレール国はこの恩を忘れない! 親しき同盟国である貴国の危機あれば、必ずや救援を怠ることはないと宣言する!」
クアレール王は俺達に力強く宣言する。
多くの貴族を集めた中でのこの宣言は、たんなる口約束ではおさまらない。
ましてやクアレール国は前王からの影響で義を尊ぶ。それは有力貴族たちも同様だ。
義の調停者たる前王の元で有力になれた貴族たちが、義を重んじないわけがない。
つまりこの約束を反故にすれば、現クアレール王は有力貴族に呆れられて求心力を失うだろう。
それほど影響力の大きい言葉を言い放ったのだ。
……俺も言葉を返さなければならない。あくまで名代なのでとりあえず無難な言葉で。
「クアレール王、感謝いたします。我が妻たる女王も喜ぶことでしょう」
心臓をドキドキさせながら返答する。いや本当に俺には王とか向いてない!
まだ相手が第三王子なのが救いだよまったく! 何か失言してもフォローしてくれるだろたのむぞ!
他力本願だが王配としてまだまともに勉強してないから仕方ない! 無事に帰ったらもうちょっと礼儀作法とか習わないとな!?
「今後も我が国とハーベスタ国の密なる関係を望む。血が交わるのもよいやもしれぬな」
「私には決める権はありません。我が妻に話してもらえればと」
必殺、アミルダに丸投げ作戦! こういうのは言質盗られなければいいだろ!
今の俺のやるべきことは合格点を得ることではない! 赤点を防ぐことだっ!
「確かにその通りだ。改めて話すとしよう」
こうしてかろうじて謁見は終わって、再び応接間へと帰って来ることができた。
「お、お菓子! お菓子が補充されてます! これ全部持って帰ります!」
「ど、どうぞ……」
再びエミリさんが木箱にお菓子を詰めていく。
どうやら先ほど全部盗られたのが少し痛手だったようで、補充されたものは少し安そうな菓子になっていた。
ここは応接間。他の貴族などの目はないので、エミリさんが好き放題やっても別によい……はず。
そんなことを考えていると扉が開き、第三王子が入って来た。
先ほどの玉座の間の衣装から早着替えしていて、貴族としてかろうじて及第点くらいの装飾少ない衣装になっている。
「やあ、お疲れ。どうだったかな、僕の名演技は?」
「誰だお前と言いそうになった」
「あっはっは、演劇で鍛えた甲斐があったというものだ」
軽薄な笑みを浮かべる第三王子。
先ほどの威厳はどこへやら。完全に元に戻っている。
「すまないね、偉そうにして」
「王と名代なら当たり前だろ。むしろ俺に頭なんて下げたら、他の貴族が従わなくなる」
「はぁ……随分と頭が軽くなってしまったよ。もう下げようとしても浮いてしまう」
「浮き過ぎないように冠があるんじゃないか?」
「なるほど、それは盲点だった」
ケラケラと愉快そうに笑う元第三王子。
……アミルダもだが、王というのは被りたくもない仮面をつけているのだろうな。
本当に俺にはごめん被る話だ。
「さて君たちには心苦しいのだが……早めに軍をつれてハーベスタ国に戻って欲しい。また戻った方がよいと思うよ」
「まあそうだろうなぁ……」
いくら同盟国とはいえ、クアレール国にハーベスタの大軍が用もなく滞在しているのだ。
これは危機管理的にあまりよい話とは言えない。クアレール国の貴族だって不安がる奴が出てくるだろう。
少し兵を休ませてから帰りたかったが……。
「それにハーベスタ国では戦の準備をしてるらしいからね。君が戻ってあげた方がアミルダも喜ぶだろう」
「戦?」
「ビーガン国に攻め入るために兵糧などを集めてるらしいよ。ビーガン国は我が国に派遣した分、国防が手薄になってるからねぇ。攻め入るなら今だよ」
確かにその通りだ。
どうせビーガンとはいずれ戦うのだから、弱っているこの好機を逃すことはないと。
なら俺も戻るか。少しは役に立てるかもしれないし……それに。
「裏切ったビーガンの兵、使えると思うよ。前線に立たせるのは裏切りの危険があるけど、彼らに地形とか教えてもらえれば優位に立てる。彼らは銀雪華にゾッコンだしね」
「そうだな。すぐに戻ることにするよ」
俺達はすぐに軍を率いてハーベスタ国へと帰還する。
行きはパレードなどで一ヵ月もかかってしまったが、帰りはポーションの効果などもあり僅か十日で白竜城へ帰還することができた。
そうして俺は玉座の間にしてアミルダと顔を合わせる。
「ただいま戻りました」
「……敬語か?」
アミルダは寂しそうな顔をする。しまった、普段のクセで。
「戻ったよ。クアレールのことは万事解決した」
「早馬で聞いている、よくやってくれた。とりあえず今日は休むがいい」
俺達は身体を休めることにしたのだった。
「ぎゃー!? エミリ様が帰って来たぁ!?」
「け、警戒命令! 全警備隊に通達せよっ! 偽りの平和はもう終わったのだとっ!」
廊下で騒ぐ兵たちの悲鳴を聞くと、帰った来たなぁ……って感じがする。
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