第112話 開城


 第四王子がクアレール王城に引き籠って、籠城してしまっているらしい。


 正直愚かの極みみたいな戦術だ……籠城とは基本的には援軍前提での時間稼ぎ戦術だ。長期戦したらいずれ兵糧が切れて負けるからな。


 そして第四王子に援軍なぞとても見込めるものではない。つまり死期を遅くしているだけだ。


「速やかに僕たちが降参して王位継承権を破棄しなければ、王城の中にいる罪なき女中などを皆殺しだってさ」

「色々な意味でめちゃくちゃだな……やってることがアーガ王国の3バカレベル……」


 第四王子はもうどうしようもないな。いや元から救いようもなかったか。


 自国民を人質にしている時点でおかしいし、そもそもそんなものは俺達への脅しにはならない。


 言っては悪いのだが……そこらの平民が人質になるなら、敵に村のひとつでも占領すればもう負けになってしまう。


 つまり平民を人質として認めると、まともに戦争などできないのだから。


 無論俺としては極力助けるつもりではあるが。


「それで王城どうする? 俺なら地盤沈下で王城全部壊せるぞ」

「はっはっは、建て直すのすごく大変だから勘弁してくれ。というか……もう後は王城を包囲してればいいよ。それで終わりだ」


 第三王子の命の元、王城の城門や隠し通路の出口などに兵士を配置。


 ずっと王城に住んでいた第三王子だけあって、当然ながら抜け道なども熟知している。


 なので少数の兵によって、ネズミ一匹抜けられない包囲が開始された。





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 クアレール王城の玉座の間はお通夜状態だった。


 第四王子、そして集まった側近たちは憔悴している。そんな中でただひとり、白髪の大臣だけは特に困った顔をしていなかった。


「もはや勝ち目はございません。王城で籠れば籠るほど、我らの立場は悪くなります」

「わ、わかっておる! 待っておれ、逆転の一手を……!」


 爪を噛みながら苦悩する第四王子。


 それに対して白髪の大臣はため息をついた後、もはやこいつに用はないと他の側近に対して視線を向けた。


「かくなる上は降伏すべきだ。今ならば第四王子を差し出せば、二重の意味で手打ちにできるやもしれぬ」

「「「…………っ」」」


 他の側近たちは息をのむ。


 もはや担ぎ出した第四王子は何の価値もないに等しい。こんな奴に巻き込まれて一緒に殺されるのは御免というのが彼らの総意だった。


「た、たしかに……」

「もはや負けは覆らぬ……」

「き、貴様ら! 何を言っている!」


 場の雰囲気がおかしいことに焦る第四王子。


 だが白髪の大臣はそのまま言葉を続ける。


「我らのために命を捨ててくださるお方であればこそ、従うに相応しい者のはずだ。逆にこの場でなお、我が身可愛さに我らのことを考えないなら……」

「……従う価値などないので、第三王子に差し出すべきか」

「確かにその通りだ!」


 第四王子を神輿にすること。それはこの場にいた側近たちのうち、最初から裏切っていた白髪の大臣を除いて全ての者が自分で決断したことだった。


 だがここに集まっている者たちは、義を大切にする前王が嫌っていた者たち。


 つまりは不義理の権化と言って差し支えない。


「ふ、ふざけるな! お前らつまり俺を差し出すこと確定してるだろうがっ! そんなことしてもお前らも殺されっ」

「そんなことはやってみなければわかりますまい! 助かる可能性に賭けるべきだろう! 第四王子を捕縛せよっ! それで助命嘆願を請うのだっ!」


 側近たちが第四王子を押さえつける中、白髪の大臣は少し離れた場所で見守っている。


 そして第四王子が縛り上げられた後に呟く。


「助命嘆願する時はこう願いましょう。『我らが間違っていたので、煮るなり焼くなり好きにして欲しい。クアレール国のために最もよいと思う処分を』と」

「そ、それは助命嘆願ではないのでは……」

「素直に助命嘆願しても何を今さら。だが愛国心を見せれば助けてもらえるじゃろう。国を想う貴族を処刑する者などそうはおらぬ」

「……確かにそうか、そうだな!」




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 王城を包囲してから一日後……正門が中から開かれた。


「我らは降伏する! この第四王子の首を差し出す! 我らが間違っていたので、煮るなり焼くなり好きにして欲しい! クアレール国のために最もよいと思う処分を!」

「は、はなせぇぇぇぇぇぇ! お前ら裏切りやがったなぁ!」


 正門から数人の貴族と、縄で捕縛された第四王子らしき人物が出てきた。


 第四王子を縛っている縄の端を持っているのは、以前の話で出てきた内通者である白髪大臣だろう。


 周囲には民衆も集まってきているので、第四王子降伏はすぐに王都中に広まるだろうな。


「……想像以上にアッサリ終わったな」

「そりゃそうだよ。第四王子に忠誠を尽くしている者なんていないからね。負け確定となれば本人はともかく、他の者が従わずに降伏するよ……まあ僕が忍ばせた内通者が説得したんだけど」

「何にしても無血開城になってよかった」


 こうして俺達は王城へと入城して、事後処理が開始された。


 まず最初に行ったことは……。


「や、やめろっ! 私は第四王子だぞっ!? 殺されてよいはずがっ!」

「何故ダァ!? 我々は逆賊を差し出したのに何故っ!?」


 第三王子指揮の下、王都広場での主犯たちの公開処刑だった。


 最期まで第四王子に付き従った貴族たちは、木で作られた舞台に並べられている。


 白髪の大臣だけは第三王子のスパイだったのでここにいないが、それ以外の王城で捕縛された貴族は全員が処刑対象だ。


 処刑方法も絞殺、火刑、ギロチンなど多種多様だ。これは第三王子の趣味が悪いとかそんな話ではない。


「ふざけるな! てめぇらのせいで危うく王都が火の海だ! 俺らは夜も眠れなかったんだぞ!」

「安らかに殺さないでっ! 苦しめて苦しめて殺すべきよっ!」


 第三王子が民意を得るためだ、広場に集まった民衆たちの溜飲を下げるのが必須だった。


 ここで生易しい処罰などしようものなら、身内びいきだと第三王子が不評を受けてしまうからな。


 中世の処刑はエンタメという側面もあったというが……是非もないのかもしれない。俺はあまり好きではないが、それは現代地球人の感覚なのだろう。


「た、たすけっ……たすけっ……」

「い、いやだ……」

「俺は第四王子だぞっ! やめろっ!? やめろぉ!?」


 平穏無事につつがなく処刑は完了した。 


 というか第四王子はともかくとして、他の貴族たちは助かりたいならなんで助命嘆願しなかったんだろうな。


 もしこれで助命嘆願されていたら、奴らと親しい貴族からも殺さなくても……と声があがって面倒なことになりかねなかった。


 だがどんな処罰でも受け入れると明言してくれたので、気兼ねなくこの処罰をできたのだから。


 ……なんか物凄く俺達に都合よく動いた気がするなぁ。


 こうして俺達は万事滞りなく王都を奪還し、第三王子に政権を取り戻させたのだった。めでたしめでたし。


 ようやく一息ついたところで、エミリさんが深刻な顔で近づいてきた。


 なんだ? また新たな問題が起きたのか!?


「リーズさん……私の持って来た砂糖……知りません……?」


 エミリさん、貴方のお腹の中です。

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