第114話 パプマ侵攻の大義


 早朝、俺はいきなり玉座の間へと呼びつけられた。


 そこには椅子にヒモで括りつけられ、しかめっ面をした謎の男がいる。


「えーっとその男は誰ですかね?」

「はぁ……やはり知らぬか。まあそうだろうな」


 ため息をつくアミルダ。


 よく分からない状況なのだが何かあったのだろう。


「私も正直混乱しているが、聴取した情報を纏めて簡潔に述べるぞ。パプマ子飼いの暗殺者陽炎が白竜城に侵入し、警備の厳重さで調理室に私がいると勘違いして押し入ったところを拿捕した」

「すまん、まるで意味が分からない」

「安心しろ、意味が分かる私も頭が痛い」


 パプマの暗殺者陽炎……確か以前にアミルダが話してた奴だな。


 そいつが白竜城に侵入したのまではまあ分かる。しかし調理室に忍び込んだのはバカじゃなかろうか。


 わざわざこんな城に侵入して食料でも狙ってきてたのか?


「骨を折って異常な警備のこの城に潜り込めたのに……まさか調理室に忍び込んで捕縛されるとは。この陽炎、一生の不覚」


 陽炎とやらが自嘲気味に呟く。いや本当に生涯残る不覚だろうさ。


「それでまあ……この陽炎がロクに拷問をする前から、全てツラツラと証拠つきで話してくれた」


 アミルダは心底面倒そうに顔をしかめる。 


「端的に言うと……こいつはパプマ子飼いでビーガンに貸し出された暗殺者だ。よってパプマに攻める大義名分と理由ができてしまった」

「証拠とかあるんですか?」

「パプマの王印が押してある書類を、いやあの国は議会制なので議印か? ともかくあの国の議員のひとりの印章の押された書類を、この陽炎があっさり引き渡してきた。クアレールの暗殺事件はこいつの仕業だ」


 ……なんでそんな証拠が残ってるんだ。普通はすぐに消去するというか、そもそもそんな足がつく物を用意するとは思えないが。

 

 そんなことを考えていると陽炎が少し勝ち誇った顔になる。


「俺は普通の暗殺者ではない。捨て駒にされるような真似はせぬ。しっかりと証拠となる物は準備させて、そのブツを持つことで俺を雑に扱うことへの抑止力にする」

「依頼側が納得するのか?」

「しないなら俺は依頼を受けないだけだ」


 ふーん……重要な情報を掴むことで、切り捨てるなら分かってるな? と脅しをかけるのか。


 普通の暗殺者ならばそんな奴に依頼する者はいないが、凄腕となれば話は別なのだろう。


「しかし凄腕の暗殺者がこうもペラペラ話していいのか?」

「俺は再三この依頼は無理だと拒否した。俺には天敵が二人いる、炎を操る者と死者蘇生を行う者だ。その女王は炎を操るので俺の魔法がかき消されて通用しない」


 天敵ねぇ……まあ魔法によって相性はあるだろうけど。


 しかし死者蘇生の魔法はもはや伝説の代物で、普通の人間で使える者はいないのでは? 


 噂ではボラスス教では蘇生の魔法を使える者がと聞いたことはあるが……どうせ嘘だろ。


 宗教特有の復活作り話とかだろ。神秘性上げるための。


「俺は拒否した依頼を無理やり受けさせられたのだ。無理をやって捕まったのだから、これ以上パプマに尽くす義理はない」


 なるほど、捨て駒にされて怒り心頭と。それなら裏切るのも仕方ないかもな。

 

 しかしパプマめ、何が商業国家だよ。暗殺者なんて派遣したら死神国家の間違いじゃねえか。


 しかしこれは……少し面倒な事態になったのでは?


 ここまでパプマにコケにされた以上、ハーベスタ国としては彼の国を攻める必要がある。


 ここで日和見でもすればハーベスタ国内の者たちはもちろん、周辺の国家にも舐められてしまう。


 舐められるくらいならいいだろと思うかも知れないが違う。


 反撃しなければ『うちは暗殺仕掛けられても何もしませんよ!』という宣言にするに等しい。


 ならパプマに侵攻すればよいではないか、と言うのは簡単だが……今のハーベスタ国はビーガンに攻め入る準備をしている。


 ビーガンもうちを散々コケにしてきたし、クアレールの件で同盟国に侵攻してきたりで滅茶苦茶だ。さっさと討伐しないとならない。


 だがそうすると二正面作戦という厳しい進軍に……いやまあ前にもあった気がするけど。


「どうするんだ? パプマとビーガンに同時に攻め込むのか?」

「そうするしかないな。この二国をこれ以上のさばらせると、また七面倒なことを起こされかねない。アーガ王国が何もできない隙に後顧の憂いは断つ」

「商業国家と思って見逃してきたのに、とうとう正体を現したのである!」


 アミルダとバルバロッサさんは力強く宣言する。


 まあそうなるよな。パプマとビーガン相手の二正面作戦は、今のハーベスタ国にしても面倒だ。


 だが面倒なだけで普通に出来てしまうからな。


「パプマに対してはクアレールも関係がある、というかあちらの方が被害者だ。援軍を求めたいところだが、まだ混乱は残っているだろうからな。それにあそこはパプマと隣接していないのも大きい」

「つまり我が国だけで攻めると?」

「そうだ。クアレールに関しては、対アーガ王国で存分に支援してもらう」


 結局ハーベスタ国が貧乏くじを引くのか……予想してたけど!


「ビーガンはもはや虫の息だが、パプマは腐っても金を持っている。装備や兵科の質は高いしこちらは攻め側で不利。だが次のアーガとの決戦に向けて、こちらの被害は極力減らしておきたい」

「ならクアレールの時みたいに武力見せつけて降伏を迫るか?」

「……難しいだろうな。議会制である以上、そうそう降伏の意見でまとまるとは思わない。グダグダと時間がかかった結果、アーガが態勢を立て直しかねない……武力で制圧した方がよいだろう」


 アミルダは俺の意見に首を横に振った。


 議会制、現代地球において大抵の大国が採用している形式だ。


 だがそれは現代地球だからこそ採用されているのであって、中世文明の時代には優れた政治形式とは言えない。


 昔の時代は戦争が頻繁に行われるので、短期間で大きく事態が変動する。


 そんな時に議会制の大きなデメリットが出る。明確なトップがいないので国がまとまらず、迅速な対応が不可能というのが発生してしまう。


 日本の議会を見ていても分かるだろう。大抵のことが中々決まらないのだ。


 周囲の速い変化に対応するには、王政というのはメリットもあったのだ。


 王政はトップ、王が無能だったら終わりという凄まじいデメリットもあるが。


「ビーガンとパプマへの人員の割り振りは三日以内には決める。クアレールから戻ってきた兵士たちには、ゆっくり休ませられないのが申し訳ないがな……」

「何か美味しい料理でも振る舞っておこうか?」

「そうしてもらえると助かる。兵の士気にも影響が出るからな……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る