第168話 ドラゴンゾンビVSチート


 S級ポーションの霧によって、真下にいるアンデッドたちはどんどん浄化されていく。


「おおおおおお……!」

「ぼ、る、ボル……! ボルボルう……!」

「まだ生きたりねぇ……!」


 阿鼻叫喚の悲鳴が聞こえるが無視して散布を続ける。生きたりねぇってお前とっくに死んでるだろ。地獄絵図を飛行船から見守っていると。


「大変です! 遠くから何か飛んできます!」


 双眼鏡を持ったセレナさんが叫ぶ。彼女の見ている方向に俺も双眼鏡を向けると……翼を持った巨大なトカゲが何体もこちらに飛んできている。あれは……。


「あれは腐ったドラゴンであるな!」


 バルバロッサさんが睨みながら叫んだ。なおこの人は双眼鏡でも小さく見えるモノを裸眼でだが、いつものことなので気にしないことにする。


「……アンデッドラゴンってことですか?」

「そうなるのである! 伝説ではよく聞くが実際に見るのは初めてであるな! なにせドラゴンは死なない上に、死体は腐る前に回収するであるからな!」


 ドラゴンの死体は高く売れる。鱗に爪に牙は武器の素材になるし、肉もかなり美味しいし腐っていてもポーションの素材になる。なのでアンデッドになるほど死体が残らない。


 ……なるほど。きっとボラススが飛行船への対策で仕向けたのだろう。


 実際のところ飛行船に航空戦を行える力はない。大きいし小回りはきかないし気球部分の装甲がスカスカだ。ドッグファイトなどできるはずもない。


 現代地球での飛行船は遊覧目的でしか使われなくなったのがその証拠だ。こいつは敵が対空手段を持っている場合、でかいだけの的になってしまう。


「あー……まさかボラススが航空戦力を持っているとは。、バルバロッサさん?」

「うむ。任されよう」


 バルバロッサさんは俺の言葉に頷いて、腕に巻いていたポシェットから大きな弓と矢を取り出した。なお腕に巻いているのはバルバロッサさんの胴が太すぎて無理だったためだ。


 この人の腕まわりはアミルダの胴まわりくらいあるからな……アミルダがだいぶ細いのもあるけどそれでもすごい。


「さて。リーズよりもらい受けた新たな弓、その力を試すのである!」


 バルバロッサさんは身の丈ほどの大きさの弓に矢をつがえる。今回俺が用意した弓。それは人の力では引けないので、てこの原理で弦を引く弓……バリスタである。


「むはは! 弦を力いれて引いても切れぬのである! これならば普段よりもより強く射ることができるのである!」


 バルバロッサさんには以前にも弓を与えたが、その時よりも更に丈夫で強い力に耐えられる代物だ。まさかあの弓ですら手加減しないと弦が切れるとは思わなかった。


 敵の航空戦力が出てきた時の対策。それはバルバロッサさんによる砲撃で、近づかれる前に撃ち落とすという力技だ。


「むん!」


 バルバロッサさんが一矢目を放つ。真っすぐ進んでいった弓は、轟音を鳴らしながらアンデッドラゴンへと直撃、粉砕した。


「むんむんむん!」


 更に弓の連射によって残りのアンデッドラゴンも、まるで小鳥のように撃ち落とされていく。本来ならアンデッドラゴンなんて相当強そうなものなのだが、バルバロッサさんの前では精々がスズメ程度の扱いになってしまった。


「これで敵の航空戦力はなくなったのであるか! あっけないのである! ボラスス教皇はロクに戦力を整えなかったのであるな!」

「いやバルバロッサさんがおかしすぎるだけです……」


 普通ならアンデッドラゴンは恐るべき脅威になっただろう。この世界には航空なんて概念はないのだから、一方的に空から攻撃できる時点でチートじみている。ボラスス教皇はすさまじい戦力を用意していたのだ。


 仮にクアレール国などが相手なら、アンデッドラゴンだけで勝利できた可能性もある。敵の王城を襲わせれば防ぐ術などなく、王が殺されて終わる恐れもあった。


 こちらにはそれをあざ笑う本物のチートがいただけの話なわけで。


「リーズさん。下のアンデッドたちが全部浄化されたみたいですよ」


 エミリさんの声で思い出して、甲板から覗いて地上を確認する。見事にアンデッドは消え失せていて土も綺麗に浄化されていた。流石はS級ポーションだ、効果てきめんにもほどがある。


「この後はどうするんですか? 飛行船でボラススまで一気に向かいます?」

「……いやまずはアミルダの軍の到着を待つ。急いてはことを仕損じると言いますし、兵士たちも疲れているでしょうから」


 飛行船の空中での操縦は初めてだ。いくら地下で飛ぶ練習をしたとはいえ、操縦者たちも疲れているだろう。S級ポーション飲ませてもいいのだが、ここは休ませておいた方が無難だ。


 それにやはりアミルダがいてくれないとな。彼女がいるからこそハーベスタ軍は纏まるのだから。


「よし、飛行船を一旦地上に降ろして……」

「あれ? なんか叔母様の率いてる軍が見えるのですけど、様子がおかしいような?」


 双眼鏡を除いているエミリさんがそんなことを呟く。俺も自前の双眼鏡でアミルダの軍を確認すると……大量の腐った身体の魔物に襲われていた。


 しかも乱戦になってしまっていて、後方からも攻められている!? これだとアミルダも危険だぞ!?


「すぐに飛行船で援軍を! 急げ! S級ポーションの散布準備も!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る