第169話 地中の待ち伏せ
アミルダの率いる軍がアンデッドの待ち伏せを食らっている。
俺達は急いでアミルダを救援するために、飛行船を彼女に向けて進ませた。歩兵を率いるのを彼女だけに任せたのが失敗か!
飛行船で敵の影を上空から確認しつつだったので、奇襲を食らわない想定だったのだが……やはり俺かバルバロッサさんが側にいるべきだった!
下を見ると我が国の兵士たちと、アンデッドたちが入り乱れて戦っている。しかし空から見た時はいなかったのにどうやって現れたんだこいつら……いや考えている場合じゃない。
「バルバロッサさん! 飛行船でアミルダがいるはずの場所の真上をとりました!」
「後は任せるのである! とう!」
バルバロッサさんが飛行船から飛び降りた。現在の高度はたぶん富士山よりも高いが、特にパラシュートなどは用意していない。でもバルバロッサさんなら大丈夫だろう。
俺も助けに行きたいがここは我慢だ。アミルダの護衛はバルバロッサさんだけで十分過ぎるので、俺は魔物のアンデッド集団を倒す!
「もっと高度を落としてくれ! S級ポーションを散布しても密封する壁がないから、高すぎると効果が薄まってしまう!」
「リーズさん! 私は光ればいいですか!?」
「アンデッド相手に目くらましは利きません! てきとうにポーションでも撒いておいてください!」
「はいっ!」
本来なら光魔法ってアンデッドに有効そうだけど、エミリさんのは純粋に眩しい光でしかないからな! 聖なる成分という不純物が一切混ざってない!
エミリさんが言われた通りにS級ポーションの入った瓶の中身を、船の甲板から下へと垂らしていく。気休め程度だがやらないよりはマシだろう。
下から凄まじい轟音が発生した。バルバロッサさんが地面に激闘したようで、巨大なクレーターが発生していた。
「足がしびれたなどと言ってはおれぬ! アミルダ様、すぐにこのバルバロッサが助けに行きますぞ!」
ものすごく大きな叫びと共に戦場に竜巻が発生した。足がしびれたくらいは言ってもよいのでは……いやそれどころじゃないけど!
「リーズ様! 土ドームをまた出せないのですか!」
「無理です! 地面から離れすぎていて【クラフト】魔法の射程外です!」
セレナさんの求めを否定する。俺の【クラフト】魔法はチートだが全能ではないからな!
しかしまだバルバロッサさんがアミルダを救援した咆哮が届かない。部隊の後方だから当初の予定なら、アミルダはここにいるはずなのだが……。
「いました! 叔母様です!」
エミリさんが指さした先に双眼鏡を向けると、アミルダが大型のアンデッドに襲われているのが見えた。アミルダの数倍以上の体躯の鬼、オーガのアンデッドか!
「エミリさん! ポーション落としてください!」
「えーん! やってますけどうまく当たりません!?」
悲鳴をあげるエミリさん。流石に上空から瓶でポーション撒いても狙いがつけられないか! どうする……霧だと地上まで落ちずに空中で散らばってしまう。
雨なら落ちてくれるんだけど……飛行船に積んでるのは霧発生装置だ。降雨装置ではないのが痛すぎる! 土ドームで使うのを想定して霧状にしたのがあだになったか!
いや待てよ、雨……雨ではないが霧を地面に降らす手段はあるぞ!
「セレナさん! 散布してるS級ポーションを雪にできませんか!」
雪だって霧散せずに地上に落ちる! 風である程度飛ばされるだろうが、戦場にS級ポーションの雪が降り積もればアンデッドは消えるはずだ!
「……! やってみます!」
セレナさんは呪文の詠唱を始めた。雪とは本来なら水蒸気が凍って発生するものだ。ならば霧状のS級ポーションで雪を製造するのも可能なはず! 科学的には少し間違ってるかもだが、そこは魔法だから何とかなってくれ。
「結合し、凍てつき、固まれ。雪氷結の戒め!」
セレナさんが魔法を詠唱し終える。すると飛行船の下から雪が降り始めた。
白くて綺麗な雪が風に乗って戦場に降り注ぐ。そしてアンデッドへと当たると同時に、アンデッドの身体もろとも溶けて行く。幻想的な光景にも見えてしまう、危機的状況でなければ見惚れてしまうほどに。
アミルダに襲い掛かっていたオーガのアンデッドも、雪を浴びて溶けて行く。どうやら降雪作戦は見事に成功したようだ。
地上の安全が確保されたので飛行船を降ろし、俺達も地面へと降り立つ。するとアミルダがこちらにゆっくりと歩いてきた。
「すまない、助かった」
「けがはなさそうで何よりだ。しかしアンデッドはどこから現れて……」
「地面から生えてきた。どうやら地中に隠れていたようだな。ボラススがアンデッドを蘇生した時、地中から這い出た者もいたのは覚えていたが……まさか大量に出てくるとはな」
ボラススがアーガ兵をアンデッドにした時、大半の者は倒れていた死体がアンデッドになった。だが一部は地中から蘇るように出現したのもいたはずだ。
それが頭になかったわけではない。もうアンデッドは品切れだと思っていたのだ。
奴らの蘇生魔法とて無条件で使えるものではない。ある程度直近で死んだ魂か身体がないと、蘇生はできないはずなのだ。だからボラススはアーガ兵を大量に戦場に集めたのだから。
まだアンデッドの在庫があった上に、地雷原みたいに用意しているとは……。
「どうやら今後は地中からの敵にも警戒せねばならないらしい。ボラススめ、やはり最後まで油断ならんな。これでは進軍がどうしても遅れるな……できれば速やかに決着をつけたかったが」
「いやそれなら大丈夫だ」
なにせ雪だからな。
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