第170話 浄化の雪


 飛行船はアミルダを乗せて再び浮上する。


「ふむ……やはりすごいなこれは。遠くがいくらでも見渡せる。壮観だ」


 アミルダは少しだけ機嫌よさそうに笑った。何とも可愛らしい。


 だが俺の視線に気づくとコホンと咳払いして、キッといつもの表情に戻した。


「雪のS級ポーションとはよくやってくれた。私も雪がここまで降るのは初めて見たが綺麗なものだな。兵士たちも幻想的な風景で落ち着きを取り戻している」


 ハーベスタ国は温暖な地域だ。雪はかなり珍しい上に降ったとしても少量。


 セレナさんが魔法で氷や雪を発生させるが、逆に言えばそのくらいだ。

 

「だが地上の軍はどうする? 兵士たちもアンデッドの地中からの不意打ちで怯えている。いくらS級ポーションの雪があると言っても、何度も地中から攻められたら相当な被害が出るぞ。兵士の士気にも影響する」


 アミルダは地中からの不意打ちをなおも警戒しているようだ。


 雪を降らしておけばアンデッドは死滅するとはいえ、地中から不意打ちされたら被害は出てしまう。


 確かに兵士たちからしても嫌だろうな。アンデッドは倒しても手柄にもならないし、自分が死んだら終わり。それに腐った肉を相手にするのも精神安定上悪い。


 だがその心配はない。流石のアミルダも失念しているようだな、雪の特性を。


「それは大丈夫だ。進軍方向に前もって雪を降らせていく」

「む? だが地中から出てくるのでは関係ないのではないか? 土に当たるだけだ」

「……あ、そういうことですか」


 アミルダは少し怪訝な顔をしているのに対して、セレナさんは納得したようだ。流石は雪と氷のプロフェッショナル。


「アミルダ様。雪は元々水を凍らせたものです。そして今の温度は本来雪が降るようなものではありません」

「……ふむ。S級ポーションの雪が地面に溶けて地中にしみこみ、潜っている魔物を倒せるということか?」

「そうなるかな。何なら普通にポーションを撒いていくだけでもいいが。降雨装置もすぐ作れる」


 アンデッドを地中から出さずに浄化してしまうわけだ。もし浄化できなくても、地表にS級ポーションが充満すれば出てこれないだろう。


 地表がアスファルトで固められて、出られなくなったセミの幼虫みたいになる。


「わかった。ならば兵士にすぐこのことを伝えて、飛行船が先行してポーションを撒かせよ!」


 こうして飛行船からS級ポーションの降雪が開始されていくのだった。


 気分はS級ポーションというより農薬かスキー場つくってるみたいだな。しばらくは兵士の士気向上のために雪を撒いて、後で降雨装置に変更していくのだった。





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 ボラススの神殿では、教皇が部屋の中で激怒していた。


「ば、バカな!? 虎の子のアンデッドラゴンが瞬殺だと!? S級ポーションでも早々浄化されぬはずだぞ!?」


 自信満々で送り出したアンデッドラゴンが負けた。それは教皇からすれば恐慌に陥るに十分なことだった。


「そ、それがいきなり空中で粉砕されたと……空からのため、遠目でしか報告ができません。仔細までは分かりませぬ」

「ぼ、ボルボルの逆をついたと言うのに! ええいこうなれば! すぐに王都内の信徒たちを広場に集めよ! アッシュを利用して信徒全てに声を届けて操って贄にする! ここにボラスス神の復活を!」

「は、ははっ!」


 切り札を出し惜しみしない辺りはボラスス教皇も無能ではない。戦力の逐次投入は愚策と判断して持てる全てで倒す決心をした。


「それと貯めておいたS級ポーションを全て用意せよ! ここで全て使い切って神の蘇生を確実なものにする!」


 ボラスス教皇はとうとう全力を出しに来たのだ。




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「げふー……うぇっぷ。S級ポーション飲み過ぎたんだな。でもこれでボキュの力は完璧になったんだな!」


 ボルボルはS級ポーションのしまわれている倉庫に潜り込み、浴びるように飲み続けてから身体に振りかけていた。


 S級ポーションは十樽ほどあったのだが、ボルボルは一樽を空にしてしまった。


「むむむ! 弱っていたボキュの頭脳が回復していくんだな! 次は……そうだ! このS級ポーションを使えばアンデッドたちを浄化できるんだな! きっと教皇はそれが分かってないんだな! ボキュが教えて、いや兵たちの元に直接運んであげるべきなんだな!」


 ボルボルは身の丈ほどある樽を持ち上げた。S級ポーションがなみなみ入っているので、かなりの重量であるがボルボルには持てた。


 彼は元々旧リーズのポーションで全身が強化されていて、常人よりも遥かに凄いパワーを持っていたのだ。以前にバルバロッサに殴られた時にも、そのおかげで生きていたのだから。


「重いけど頑張るんだな! ボラススの兵士たちにポーションを配れば、ああっ!?」


 ボルボル、さっそく一樽を地面にぶちまけてしまう。地面にS級ポーションがしみこんでいき、樽が空になってしまった。


「や、やってしまったんだな! でもボキュだってミスはあるんだな! 次は頑張るんだな!」



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すでに二割のS級ポーションを無駄にしたボルボル。

もうボラススVSハーベスタ(+ボルボル)みたいになってきましたね……。

敵が味方になる熱い展開(

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