第171話 ワンパ
進軍を続けるハーベスタ軍。俺達はその少し前方の空を飛ぶ飛行船に乗っている。
S級ポーションを撒きながら進んでいるので、後方の我が軍がアンデッドに地中から奇襲されることはない。なので問題なく進んでいたのだが。
「あ。ボラススの軍らしき集団がいます!」
エミリさんの視線の先、俺達の進路上に大勢の兵士が待ち伏せている。双眼鏡で覗くと国旗はボラススのもので、兵士は普通に鎧を着た人間のようだ。
兵士の数は万を超えていそうだな。ボラスス神聖帝国も大国なので、アンデッド抜きでもそれくらいの兵士は当然集められる。
「アンデッドではないならS級ポーションでの浄化は無理だな。そうなると……この飛行船で空から一方的に攻撃できるか?」
「可能だ。そもそも飛行船の本来の用途だからな、上空から物を落とすのが」
農薬や雪の散布の方が後付けの機能だと思う。飛行船は元々恐ろしい軍事兵器だかったからな、空から一方的に空爆できる。
かつて地球の第一次世界大戦では、飛行船が一方的にロンドンを空爆し続けたとか。当時は空爆という概念がなかったので抵抗できずにずっと爆弾を落とされたと。
「ならばその作戦を行う。セレナにリーズ、お前たち二人の魔法で物を発生させて落とせ」
飛行船はボラスス軍の真上を取った。敵は魔法や矢を空に向けて撃っているが全く届いていない有様だ。流石に射程3000mを超える魔法を持つ者など、そうそういるはずがないからな。
弓矢については論外だ。空に向けて射ってもすぐに落ちてくる。ただしバルバロッサさんの放った弓は例外とする。
「悪いが加減はなしだ。爆弾、落とさせてもらうぞ」
「氷の塊を作ります」
俺とセレナさんは飛行船の周囲に氷や爆弾を造っていく。当然だがそれらは重力によって下に落ちていって、地上に被害を与え始めた。
「う、うえから魔法!? そんなのアリかよ!?」
「卑怯だぞ降りてこい!」
「ボラスス神よ! あの者らを地に落としたまえ!」
地上から悲鳴が聞こえるが無視だ。悪いがもうお前たちに手加減はしない。
空からの攻撃だが卑怯だとは言わせないぞ。お前たちだって地中にアンデッドを潜ませて奇襲を仕掛けてきたのだから。
飛行船は敵軍の真上をぐるぐると回りだし、更に大量の爆弾や巨大な氷塊が次々と地上に落ちて行く。当然ながら真下は地獄となっていく。
地面から爆発音が幾度となく聞こえてくる。
「や、やめてくれっ!? こんなの酷すぎる!?」
「悪魔だ……」
「ぼ、ボラスス神よ! ど、どうがぁっ!?」
一方的な蹂躙劇に少し罪悪感は出てくるが手加減はできない。下にいるボラスス兵は敵軍なのだ、ここで倒さなければ我が軍の歩兵は進めないのだから。
そうしていると敵軍が散り散りになり始めた。兵が完全に恐慌状態になって逃げ纏っているようだ。惨敗、いやボラスス軍からすればそれ以上のダメージだろう。
逃げた兵士はもう使い物にならない可能性が高い。この飛行船がトラウマになる上に、勝ち目がないのだから軍に帯同しないだろう。
「……恐ろしいな、この船は。あまりにも強すぎる……リーズよ、この戦いが終わった後のこの船は……」
「解体する予定だ。本来ならまだ必要がないモノだよ、こいつは」
真剣な顔をしているアミルダに返答する。
ボラススを確実に討つために用意したが、本来ならばまだこの世界に空を飛ぶ技術はない。ハングライダーすらない文明に飛行船はダメだ。
「その方がいい。この飛行船は遺跡から発掘された一台限りのオーパーツにして、この戦いの後に壊れて直せないことにする」
「も、勿体ないです……これがあれば遠くのお菓子も買えるのに……」
「世界中がお前のように平和な考えならよいのだがな」
エミリさんはしょんぼりしているが仕方ない。飛行船は流石に封印すべき力だからな。いずれこの世界の技術で空を飛べる日を待つことにしよう。俺個人が移動用に飛行機使うくらいはやるかもだが。
「過剰な力は身を滅ぼしかねん。私はボラススのように世界を支配するつもりはない」
「その方がいいと思うよ。それでボラスス軍は崩壊してるけどどうする?」
「逃げる奴は放っておけ。軍を完全に霧散させた後、再び進軍を開始する。リーズよ、もう謎の鉄は落とさなくてよい。後はこけおどしになる程度で、兵士は驚いて逃げる」
俺はアミルダの言葉に従って爆弾を落とすのをやめた。セレナさんも氷の作成をやめたので、またS級ポーションの雨を降らせ始める。
とりあえず何か降らしておけばいいか。ん? いや待てよ、アンデッドにかけるノリでやってるけどS級ポーションって……。
「あれ? S級ポーションを敵兵にかけたら回復しちゃうのでは?」
「…………それでいいんですよ。怪我してたら逃げられませんから」
エミリさんの言うように地上で倒れていたボラススの兵たちが、S級ポーションの雨を浴びることで怪我や傷が治っていく。
そして立てるようになった彼らは全力で逃げ始めた。さっきよりも撤退速度が遥かに上がっている。
「勝ち目もない上に一度は死ぬほど痛い目に合った。逃げるに決まってますから。いっそ王都まで逃げて、ハーベスタ国に勝てるわけないと伝えてくれた方が都合がよい」
「おおー、なるほど。てっきりアンデッドに効果的だからと、間違えて人間の敵にも振りかけたのかと思いました」
「……ソンナワケナイジャナイデスカ」
違うんだ。アンデッドにあまりにも効果的過ぎてな……。
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S級ポーションを敵にかけてはいけない(戒め
RPGで回復魔法でアンデッド系にダメージ与えられるやつ、つい手癖で普通の敵にかけてしまったことあります(
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