第175話 門の陥落


 俺は飛行船でボラスス総本山の上空を取り、【クラフト】魔法によって空中に爆弾を造って壁を狙って投下し続けている。


 今も落ちた爆弾が直撃して壁が崩れて行く。後で追いついた我が軍の歩兵たちがそこを通って総本山の中へと侵入する手はずだ。


「おおおおおおお! このバルバロッサの武勇を! 今ここに示すのである!」


 更に総本山中央付近ではバルバロッサさんが、好き放題に大暴れして無双している。ボラスス総本山は間違いなく混乱に包まれていた。


「叔母様叔母様、これもう勝ちだと思うのですが。降伏勧告とかしないのです?」

「まだだ。敵は混乱しているから現状を理解できていない。もうしばらく待たないと何が起きているかすら分からないので、降伏など受け付けるはずがない」


 エミリさんの問いにアミルダが答える。


 敵の指示系統は完全に崩壊しているだろうな。本来なら敵に攻められる場合、敵の軍が近づいてきた時点で前方に配置した見張りからの伝令が来る。そこからどう対応するかを相談していくのだ。


 だがこの飛行船は馬よりも速い。見張りが伝令を送るよりも、俺達の方が早く到着してしまっている。つまり敵はまともに防衛準備も整えられないのだ。


 仮に事前に連絡が来てたとしても、空からの攻撃に対応できるかは知らないが。


「ところでこの後どうする? ずっと空爆してれば火の海になるが?」

「それはやめてほしい。ここは仮にも宗教の総本山、必要以上に暴れると周囲からの悪評は免れない」

「それだとどうやって勝つんだ?」

「教皇や主要な者を捕縛して現体制を壊す。ボラスス教とてまともな人間はいるはずなので、その者をトップに据えてまともになってもらう予定だ」


 アミルダは下を見据えながら告げる。


 俺としても必要以上の蹂躙は嫌なのでその方が嬉しい。敵が兵士ならば仕方ないが、ここには普通の信徒も住んでいるだろうし。


「だからバルバロッサを降下させた。奴ならば単騎で教皇などを捕縛できるだろう。一万の軍勢が内部に現れたら敵は何もできないだろう。潜入工作部隊というやつだ」

『さあ出てこぬか! ボラススの上層部どもよ!! このバルバロッサと尋常に勝負するのである!!!!!』


 下のバルバロッサさんの声で空気が震えて、更に壁が崩壊するような音が聞こえてくる。あんなド派手に目立つ潜入なんてないし、どこらへんが工作なのかは気になるところだ。


 あ、壁破壊してるから工作……? 


「我らはひとまず敵を混乱させ続けて、バルバロッサの援護をするぞ」

「援護が必要なのか疑問なんだが」

「何もしないよりはマシだろう」


 こうして俺達は総本山の壁を爆撃して破壊していくのだった。地球の歴史では堅牢な壁や城塞都市は、大砲の発明と共に価値がなくなり消えて行った。


『むぅん! 我が剣技、たかが壁程度に防ぎきれるものではないっ!』


 バルバロッサさんの武勇もまた、大砲と同じ以上の威力を持つのだった。


 この世界って魔法がそこまで強くないから、余計に意味不明だなあの人……。





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 教皇が秘密部屋の祭壇で祈りを捧げていた。その少し後ろでは従者が狼狽し続けている。


「教皇様! 敵が上空にて魔法を落とし続けて! 更に内部では謎の怪物が大暴れしております!?」

「わかっておる! 何とかするにはこの地に眠る者たちを蘇らせればよい! ここは総本山だ! 敬虔なるボラスス神に仕えた魔法神官たちが多数眠っておるのだ!」

「ま、まさか!? あの伝説たるお方たちを蘇生されると!? 盗賊五千人を単騎で潰した暴虐疾風のアミダベル様、敵の城を一撃で崩壊させた雷鳴りのサンダ様、この総本山の壁を全て建てた土激のアーズ様を!?」


 従者は教皇の言葉に狼狽する。


 ボラスス総本山はもともと何もなかった。それが国を奪取するまでに成り上がったのには、かつて伝説であった存在たちがいたからだ。


 世界でも有数の魔法使いたち。単騎にて戦場を変えうる存在たちが、百年に一度は存在していた。そしてボラススは長い歴史があるために、そのような猛者が何人も地で眠っている。


 ボラスス教がここまで大きく力を持った背景には、天才魔法使いたちが存在していたことがあった。


「多少の脚色はあるだろうが、それでも空に飛ぶ船を落とすことは造作もないはずだ! 少数僅かであれば死んで時間が経っても蘇生も可能だ! あの怪物であろうが強者を揃えればあるいは! 偉大なるボラスス神よ……! どうかこの地に眠る者らを蘇らせください……! 今ここに、蘇生せよ!」


 教皇は最後の言葉を紡いだ。この祭壇に無数の魔法陣が出現する。


 そしてその陣からかつての伝説たちが目覚めて現れ……なかった。


「な、なにっ!? そんなバカな!? 何故アンデッドとして蘇生しない!? あり得ぬ!」


 教皇は狼狽する。魔法陣が出現した以上、蘇生魔法は正しく発動した。そしてこの地に彼らが眠っているのも間違いない。


 蘇生の条件は完璧に満たしているのに蘇らない。あり得ない話だった。


「し、死体が回収されていたとか……?」

「そんなはずがなかろう! この総本山地下の更に下に埋めたのだぞ! 間者がこっそり掘り返せる場所ではない!」


 彼らは知らなかった。死体たちはちゃんと今も存在している。


 だが……彼らを包み込む土はS級ポーションを吸収していて、浄化の土となってしまっていた。アンデッドになった瞬間に浄化されたので、そもそもこの地に召喚されない。


「ど、ど、どうするのですか!?」

「ば、バカな……何でこんなことにっ……!? くっ! こうなれば私の最後の切り札を使うしか……!」



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