第174話 理不尽


 ボラスス総本山の上層部は大混乱に陥っていた。


 ハーベスタ軍が攻めてくると聞いて、対応や迎え撃つ準備に追われている。

 

 ボラスス宮殿の中では司教のひとりがポーションや弓矢の準備など、必死で信者たちに命令を下していた。


「早く火矢を準備するのだ! 敵がもうすぐ総本山に攻めてくるのだぞ!」

「わかっております。ところで今日の祈りの会はどこで行われるのです?」

「外から手紙が来てますから返さないと」


 対して信者たちはのほほんと余裕をもって対応している。


「そんなことをしている場合ではない! 敵が攻めてくるのだぞ!」

「司教様落ち着いてください。この総本山は鉄壁の要塞ですよ? 四方を分厚い四層の壁で囲っていて、突破などほぼ不可能。かつ地下通路なども多数あるので籠城戦でも物資は補給できる」

「いつも仰っていたではありませんか。この総本山はボラスス神の加護があるし負けないと」


 ボラスス総本山は凄まじい防備を誇っていた。破ることなど到底不可能な壁、敵を絶対に通さぬ厚さ1mの鉄門、凄まじく入り乱れていて塞ぐことのかなわぬ地下通路。


 この世界で間違いなく最強の防御を誇る場所。それがボラスス総本山だ。


 正攻法でここを攻略するのは不可能と言ってよい。故に信者たちも安心しきっている。万が一に突破されるとしても、普通にやれば最低でも数年はかかる。


「まあそうなんだがな……教皇が血相を変えて仰っていたのだ。急いで防衛準備をしろと」

「ははは、教皇様は総本山が少しでも敵に攻撃されるのを嫌っておられるのでしょう」

「ボラスス神の御前が穢されるのは、確かによろしくないですからね。ですが敵は知るでしょう。このボラスス神に抱かれるが如く要塞は、到底破れるものではないのだと」

「そうだな……よし少し休憩しようか。少し庭で昼寝もよいかもしれぬ」


 司教ですらも慢心しきっていた。

 

 彼らは庭へと出ていって何となく空を眺める。すると上空に何か白いモノが浮いているのが見えた。


「おや? あれは何でしょうか? 鳥ではなさそうですが」

「白い空飛ぶ何か……ま、まさかボラスス神のお告げでは!? 我らを攻めてくる悪しき者に対して裁きを下されるのでは!」

「おお! やはりボラスス神は偉大なお方……!」


 教徒たちは飛行船に向けて祈り始めた。


 彼らが勘違いするのも無理はない。いきなり得体のしれない存在が現れたら、自分たちに理解が及ぶものに変換するだろう。地球ならば大半の人がUFOにみなすようにと。


 だが彼らにとっては真に残念なことだが、UFOでもなければボラスス神の御力の類でもなかった。


「あ、あれは何なんだな! はっ! きっとリーズが造った変なやつなんだな! ボキュが何とかしないと……!」


 宮殿の廊下を走り去る影がいたが、教徒たちは気づくことすらない。飛行船に対してひたすら祈りを捧げている。


「どうかハーベスタ国を滅ぼしください。我らが責任をもって彼らを改宗させ、従わない者は処刑しますゆえ」

「ハーベスタ国の女の二割は貢物として我らが致しますゆえ」

「我らにお恵みをくださいませ」


 飛行船は更に教徒たちに近づいていき、とうとう彼らの頭上。つまりボラスス総本山の中心部の上をとった。


「おおっ! 偉大なるボラスス神が、敬虔なる我らの祈りに応えてくださった!」

「私は実は元ハーベスタ国の者でして、たった少し婦女を襲っただけで女王に追い出されました。どうかあの者に復讐をさせて頂きたく……!」

「少しばかり他人の妻を寝取ろうとして、街から追い出されました……! どうか追い出した者に裁きを……!」


 ボラスス教は罪を犯した者も受け入れる宗教だった。


 人は自由であるべきとの考えであるが故に、前科ある者にもその門は開いている。当初のボラスス教はそういった救われぬ者を助けて、改心の機会を与える教えだった。


 だが今は違う。自由を尊重するという考えが捻じ曲げられ、そんな者を改心させるのではなく自由を許している。


 無論、前科のないまともな人間の方が多い。彼らのような者はレアケースではある。むしろこういった者が後から入ってきたせいで、ボラスス教は黒く濁ってしまった。


 彼らが更に祈りをささげた瞬間だった。いきなり庭が破裂して土がはじけ飛び、周囲の建物にヒビが割れる。


「な、なんだ!?」

「ひ、人だ! 人が落ちてきたぞ!」


 庭には大きなクレーターが生まれていた。その中心部にいたのはクマのようなガタイを持った壮年の男。手に持つは青龍刀だった。


 男は大きく息を吸うと空に向けて吠えた。


「我こそは! バルバロッサ・ツァ・バベルダンなり! 腕に覚えのある武人はかかってくるのである! 戦わぬ者はここから去れ!」


 ここは鉄壁の要塞だ。外から攻めてくる者を封殺して、中に入れない強固な場所。


 だが空から攻めてくる敵のことなど想定していない。そして鉄壁なのはあくまで侵入されるまでで、内部に忍び込まれたら別に堅牢でもない。


 そして何より……。


「し、侵入者!? 逃げるぞ!」

「馬鹿言え! ここで手柄をあげれば俺も出世してよい思いができる!」

「行くぞ! 侵入者を倒せ!」


 教徒たちはバルバロッサに突っ込んでいく。だが青龍刀の一振りによる衝撃波で全員吹き飛ばされた。


「覚悟せよボラスス教! 諸悪の根源、絶対に許さぬのである!」


 バルバロッサ降下。ハーベスタ国のボラスス総本山攻略作戦のはじめが開始されたのだった。



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はじめというか終わりでは? と思わなくもない。

今の総本山は周囲をハーベスタ軍に包囲されて、上空にはリーズの乗ってる飛行船。内部にはバルバロッサと味方であるボルボル……地獄かな?

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